第2話  聖杯戦争

第2章 「聖杯戦争」



目が覚めた時ミクオがいた場所、そこは電車の車内だった。



(しまった、乗り過ごした!?)



会社員の癖で、ミクオは慌ててホームの駅名表示を確認する。


駅の名前は、明るい日差しの下でハッキリと見て取れた。



(よかった・・・まだ渋谷か・・ん?)



ホッとした途端、自然と冷静に思考が働き出す。



(あれ・・・待てよ、どこに行こうとしてたんだ俺・・・)



自分の状態を確認する。


セレクトショップで買ったスーツに革靴。いつもの仕事着だ。身体の機能にも異常は無い。


イブメル達の事は夢だったのだろうか?と思ったが、やはり周囲の様子がおかしい事にきづいた。


自分が山手線に乗るのは、朝であれば通勤時間であり、ラッシュで相応に混雑しているはずだが、


今、この車内には人が乗っていない。


それになにより、電車はドアを開けたまま、いっこうに動き出そうとしなかった。



仕方なく、ミクオはホームに降りる事にした。


ホームを降りたミクオが北口改札の方向を見ると、ベンチに女性がひとり座っているのが見える。


それ以外に人の姿は1人も見えない。


しかたなく、ミクオは恐る恐る、その女性に近づいた。


近づくにつれ、女の特徴がわかってくる。



美人だった。


少し濃いめではあるが、上手く施されたメイク。明るめの綺麗な髪。


男ウケしそうな衣服から伸びた細い腕にかかっているバッグ、確かバーキンとかいう物のはずだ。


女はベンチに腰掛け、目を閉じている。


眠っているのだろうか?


見た目といい、こんなところで朝方に寝ているサマといい、どう見ても仕事終わりのキャバ嬢だ。


まさか、こんな女が英霊のはずが無いと思ったミクオだが、今の状況のヒントを得るため、女を起こす事にした。



ミクオ「あのぅー、おやすみのところごめんなさい」



返事は無かった。声をかける為に顔を近づけてわかったが、女はスースーと寝息を立てている。


近くで見ると、本当に綺麗な顔立ちをしている。おさらく素顔でもかなりの美人だろう。


再びミクオは声をかけた。



ミクオ「すみません、あのー、お姉さん」



何度か声をかけると女は目を開いた。まつ毛が長い。


女は大きな目の焦点をミクオに合わせると、軽く睨むかのようにしばらく凝視した。



ミクオ「あ、起こしてすみません」



女「ふーん」



ミクオ「え? あ、ホントごめんなさい!少し聞きたい事が・・・」



女「聞きたいのはこっち」



ミクオ「はい?」



女「あのさ」



ミクオ「?」



女「アンタが私のマスターなの?」



ミクオ「えっ・・・てことは」



女「だから・・・まあいいわ・・・手見せて」



言うが早いか、女はミクオの右手を取り、手の甲を上に向けた。



ミクオ「あれ・・・?なんだこれ・・・」



ミクオの右手の甲には、見たことの無い痣が浮かんでいる。



綺麗な円の中に棒のような物が描かれたような、まるで何かの模様の様だった。



女「決まりね」



そう言うと女はミクオの手を掴んだまま手首をひねり、自分の手の甲を上に向けた。


見ると、女の手の甲に、ミクオにあるものと同じ模様が浮かんでいる。



女「私は美咲。アンタは?」



手を離すと、自分から女は名乗った。



ミクオ「お・・・俺はミクオ」



美咲「ミクオ・・・ね。そう・・・よろしくねミクオ」



そう言いながら、美咲は両手をミクオの首に回した。



美咲「背高いのね・・・」



そう言って背伸びをした美咲は、そのままミクオの唇を奪った。



ミクオ「っ・・・???」



突然の事に驚いたミクオだが、何故か抵抗する気になれない。


どこか懐かしいような、満たされるような不思議な感覚だった。


けれど同時に、



(・・・力が・・・抜ける・・・?)



言いようのない脱力感を感じる。



やがて唇を離した美咲は



美咲「よかった・・・マスターがキモい人じゃなくて」



ミクオ「・・・」



美咲「アハハ、ごめんね、いきなりで驚いた?」



ミクオ「・・・うん」



美咲「仕方ないじゃない、儀式なんだから」



ミクオ「儀式?」



美咲「そうよ、これで契約完了。よろしくねマスター」



ミクオ「・・・」



美咲「私が、アンタのサーヴァントよ」



綺麗な大きな目で、美咲はニッコリと微笑んだ。



その後、二人は駅のベンチに腰を下ろし、この闘いの目的やルール等を美咲がミクオに説明した。


どうやら美咲は何度も転生をしており、この闘いにも参加してきたらしい。転生した時は記憶は無くしているが、サーヴァントとして召喚された際には、人間だった時や前世を含め、それまでの記憶をすべて取り戻すようだ。


説明を受けながら、改めてミクオは美咲の姿を観察する。



(こんな女の子が俺のパートナーなのか・・・)



ヴァルハラで別れる時、敵は強いよ、とショコラと名乗った女性が言っていた。



(大丈夫なのか・・・ハズレじゃ?)



と、ミクオの視線に気づいた美咲が



美咲「ん、なにエロイ目で見てんのよ? あー、こんな奴で大丈夫か?とか思ってた?」



お見通しだった。



美咲「失礼ね。ま、当然か。でも安心して」



ミクオ「あ、うん」



美咲「私、そこそこ強いわよ♡」



ミクオ「ごめん・・・そんな風には見えないよ・・・」



美咲「あら・・? シャンパンとか2~3本くらい空けれるわよ?」



ミクオ「そっちの強いなんだ!?」



美咲「あは♡」



調子が狂う・・そして、やっぱり不安だ、とミクオは思った。



サーヴァントとして出現した以上、この子も名を馳せた英雄だっと言うことになる。



興味も手伝い、聞いておこうと尋ねる。



ミクオ「ねぇ美咲ちゃん。君は元々、なんて言う名前の人なのかな? 聞き方が難しいけど合ってるかな・・・」



どうやらミクオの意図は伝わったようだったが、美咲はミクオを見つめ、



美咲「気になる?」



と逆に問いかける。



ミクオ「・・・うん」



いっそう気になってきた。



美咲「ごめん、まだ言えないわ。必要な時が来ればわかるわよ」



ミクオ「必要な時?」



美咲「そうよ。サーヴァントはね、それぞれ固有の能力、動きが早いとか、弓が上手いとか、言わば特技を持ってるの。あと、強力なサーヴァントには、宝具と呼ばれる強力な武器や必殺技を持ってる者も居るわ」



ミクオ「へぇ」



美咲「そうね・・・例を挙げると、有名なとこだとジークフリートのバルムンクとか、この辺はヤバいわね・・」



ミクオ「おぉ、知ってる!でも、それは神話だよね?信憑性が・・」



美咲「そうね。でもね、宝具もサーヴァントも、強さを決める(格)には、名声の影響がとても重要なの」



ミクオ「名声?」



美咲「史実かどうかよりも、多くの人の賞賛、信仰を得て名声を積む。それが強さに影響するの」



ミクオ「てことは、架空の人物でも強かったりする訳か・・・」



美咲「そうね。そして、そんな名声の恩恵が、特技や宝具にも影響しちゃう」



ミクオ「なんだかなぁ」



美咲「そしてその特技や宝具の大半は、サーヴァントの本当の名前、真名を解放しないと使えないのよね」



ミクオ「真名??」



美咲「真名。私たちサーヴァントの本当の名前よ。美咲は、言ってみれば源氏名ね(笑」



ミクオ「ぶ(笑」



美咲「まあ、あながち冗談でもなくて、正体がバレるとね、弱点もわかっちゃうからさ・・・」



ミクオ「弱点・・・例えば?」



美咲「そうねぇ、あ、すっごくわかりやすい人居たわ(笑 」



ミクオ「誰だろう?」



美咲「アキレス!(笑」



ミクオ「あー、なるほど」



美咲「弱点もね、知名度が高いほど、どんどん致命的になっちゃうのよね(笑」



ミクオ「キツイね(笑 じゃあアキレスと対戦することになったら、足を集中攻撃?」



美咲「もち(笑 もう、足しか見ない勢い(笑」



ミクオ「とゆうか、アキレスとかもサーヴァントで出たりするの?」



美咲「・・・出るわね」



ミクオ「強そうだ」



美咲「めちゃくちゃ強いわよ、でもアキレスは宝具要らないタイプだから、きっと名乗らないと思う・・・」



ミクオ「要らないの?」



美咲「戦闘力が本人の能力依存のタイプだから・・・」



ミクオ「なるほど・・・あ、ならさ、美咲ちゃんは宝具とか持ってるの?」



美咲「・・・私は、武器って感じの宝具は持ってないかな・・・」



そう聞いてミクオはまた不安になった。



こんなか細い女の子が強力な武器も無しでどう闘うとゆうのだろう。



ミクオ「そっか・・・、じゃあ逆に弱点とか有るの? 一緒に闘うんだし、聞いておいたほうが良くないかな・・・」



美咲「・・・弱点かぁ・・・」



美咲はしばらく考えている様子だったが、やがて笑みを浮かべながら答えた。



美咲「お酒と・・・男かしら?(笑」



ミクオ「ぶ・・・それなら、気をつけてれば大丈夫そうだね」



美咲「それが・・・そうでも無いのよね・・・」



ミクオ「?」



美咲「まあいいわ。それより、ミクオこそ、聖杯戦争で勝ち残ったら、何を望むの?」



さっき美咲から教えられた、この闘いの名前だ。



7人のマスターがそれぞれサーヴァントを召喚し、最後に勝ち残った者の前に出現する(聖杯)に満ちた酒を飲み干すと、およそなんでも望みが叶うと言う。故に、マスター達はサーヴァントの力を借りて、全力で闘う。



ミクオ「俺は・・・」



美咲「うん」



ミクオ「・・・生きた証が欲しいんだ」



美咲「証?」



ミクオ「うん。どうして俺に生まれたのか、俺が居たから何かが変わったのか、その答えが欲しいんだ・・・。だから人生をやり直したくてさ・・・そしたら、この闘いに参加する事になって・・」



美咲「なるほど・・・ね」



ミクオ「あ、ごめんな!くだらない理由で・・・」



美咲「あ、ううん・・・そんなことないと思う」



ミクオ「美咲、あ・・美咲ちゃんは何か望みは有るの?」



美咲「うふ♡ 美咲でいいわよ」



ミクオ「あ、うん」



美咲「私かぁ・・・」



ミクオ「うん?」



美咲「そうね、私もミクオと同じかなぁ・・・」



ミクオ「お?」



美咲「やり直したい、むしろ、やり遂げたい事がある感じかな」



ミクオ「どんな事?」



美咲「・・・」



ミクオ「?」



美咲「・・・泣くわよ?」



ミクオ「え」



美咲「嘘嘘(笑 もうね、これはホント意地よ」



ミクオ「・・・?」



美咲「本当にね・・・悔しかったのよ・・・」



ミクオ「・・・」



何を望んでいるのか、問いには答えなかった美咲だが、その代わりとばかりに、ミクオに一振りの短刀を渡した。



ミクオ「これは?」



(とゆうか、どこから出したんだろう)



美咲「お守り♡ 素手よりはマシでしょ?すっごい上物なんだからね?」



ミクオは袋を開け、短刀を取り出した。


漆で塗られた柄の辺りに、(宗近)と彫られている。



ミクオ「ありがとう・・・」



美咲は満足そうに微笑んだ。



美咲「さてと、じゃあそろそろ行こっか」



ミクオ「う・・・うん」



いよいよ闘いが始まるのかと思うと、ミクオは嫌な汗が出てくる気がした。



美咲の説明では、例外なくマスターとサーヴァントが出会う場所には結界が張られていて、他のマスターやサーヴァントはその中に侵入できなくなっているらしい。


ミクオ達の場合は、今話している渋谷駅の中に居る限り攻撃を受ける事は無いが、ここから出た瞬間、結界は消滅するとの事だ。



美咲「用意はいい?行くわよ?」



ミクオは覚悟を決めた。



ミクオ「うん、行こう」



駅の出口に向かって歩き出しながら、美咲がポツリと呟く。



美咲「あ、そう言えば。さっき、ライダーのサーヴァントが消滅したわ」



ミクオ「えっ?」



美咲「今回のライダーは、ロンメルって人だったみたい。今、聖杯から直接私の意識に情報が送られてきたわ」



ミクオ「へえ、便利だな。でも、ロンメルって・・・? 戦車の人だっけ?」



美咲「聞いた事あるような気もするけど、闘ったことは無いわね。それよりも・・・」



美咲は聖杯から送られ来た情報の一部に違和感を感じていた。



(現世の名前が・・・チャオ??)



ミクオ「うん?」



美咲「ううん、なんでも無いわ」



ミクオ「あぁ、うん」



実際に参加者が消滅、しかも即座にやられたらしいとゆう事実に、ミクオはまたもや目の前を歩いている美咲が心配になってくる。



ミクオ「美咲・・・」



美咲「ん?」



ミクオ「美咲は怖くないの?」



美咲「怖い? 別に・・・かな?」



ミクオ「凄いな・・・」



美咲「そうかしら? さぁ、そろそろ出口よ、気をつけてね」



目の前に改札口が迫っている。あそこを抜ければ結界は切れ、そこからはすなわち戦場だ。



軽い足取りの美咲に続いてミクオが改札を抜けた時だった。



前を歩く美咲がふいに立ち止まる。



美咲「早速おでましよ」



ミクオ「えっ?」



美咲が身構える。


さっきまでの美咲とまるで雰囲気が異なっている。


それはミクオにもわかった。


周囲を見渡すと、人気のない駅前の広場の隅に、ふたりの人間が立っている。


拍子抜けするほど落ち着いた様子で、美咲がその者達に問いかける。



美咲「こんにちは。で、アンタたち、誰?」



すると、片方の男が応じた。


Tシャツの上にジャケットを羽織った至極普通の男である。



男「誰?と来ましたか。まあ、あなた達と同じって事になるでしょうねぇ」



男は少しづつこちらに近づきながら答えた。



美咲「そうみたいね」



美咲はその場から動こうとしない。ミクオが自分よりも前に出ないようにカバーしているようにも思えた。



男「まぁ、言っても問題無いでしょう。私は清水と言う者です。そして、こちらは我がサーヴァントのヒロさんです」



それを聞いてミクオはヒロと呼ばれた者に目を向けたが、その姿に強烈な違和感を感じた。


男は、山法師のような装束を着込み、背中には籠を背負っている。


髪も乱れ、目の焦点も定まっておらず、今のところ言葉も発していない。



ミクオ「なんか、あいつおかしくないか?」



ミクオは背中越しに美咲に囁く。



美咲「たぶん・・・バーサーカーだと思う」



ミクオ「バーサーカー!? 狂戦士ってこと?」



美咲「うん・・・ついてないかも。一人目から、相手が悪いわね・・・」



ミクオ「だよね・・・。逃げる?」



美咲「はぁ? なんでよ」



ミクオ「え、だって、敵わないんじゃ?」



美咲「んー、相性は悪いけど、敵わない訳じゃないと思う」



ミクオ「でも、相手が悪いって」



美咲「あー。それは・・・ちょっとね、知ってる人に似てて・・・」



ミクオ「え?大丈夫?」



清水「何をボソボソ話してるのか知りませんが、たいそうな余裕ですねぇ」



緊張感の感じられないミクオたちを清水がけなして来た。



美咲「そうね・・・たいした事なさそうだなぁ・・・って♡」



清水「ほう・・・奇遇ですね。私も貴方がたを見て、ついてるなあって思ってたんですがね」



美咲の姿を見れば、当然だろう。



美咲「失礼ね。そっちこそ、どうせたいした英霊じゃないんじゃないの?その人」



清水「おやおや、さっきもライダーのサーヴァントを倒したこのヒロさん、いえ、弁慶さんをなめてくれたものですねぇ」



よし、かかった! と美咲は思った。



相手の真名を言わせるため、美咲はわざと挑発していたのである。


だが、



ミクオ「え、弁慶・・・武蔵坊!?」



逆に、ミクオは弁慶と聞いて完全に臆してしまった。



ミクオ「逃げよう、美咲。他の敵を相手にしたほうが・・・」



美咲「大丈夫、まかせて」



ミクオを他所に、当の美咲はまったく臆した様子が無い。


相手側の男もまた余裕綽々な様子だった。



清水「ヒロさんは強いですよ? ライダーを一撃でした。まあ、強力な宝具であろうバイクにも乗らず、マスターを置いて、ネカフェに行こうとしていたのが悪いんですけどねぇ」



ミクオ「なぁ、美咲。やっぱり弁慶って強いんじゃないの?」



美咲「そうね・・・おそらく力は相当強いわね・・・」



ミクオ「・・・とゆうかさ」



美咲「ん?」



ミクオ「契約の儀式?あいつらもしたのかな?」



美咲「でしょうね。想像したくないけど(笑 」



ミクオ「あの清水って奴のほうが、ある意味凄いな・・・」



美咲「ウケる(笑」



ミクオ「俺・・・美咲で良かったよ」



美咲「あら、嬉しいじゃない♡」



やがて、双方が間合いまで近づいた。



美咲「よーし、ミクオに褒めてもらったし、頑張っちゃおうかしら♡」



一歩踏み出した美咲は、無言で目の前に立っている弁慶に話しかけた。



美咲「はじめまして弁慶さん。貴方とは闘ってみたいと思ってたけれど、我を忘れたバーサーカーの貴方には興味はないのよねぇ」



ジロリ、と弁慶は美咲に視線を向けたかと思うと、謎の笑みを浮かべる。



美咲「?」



と、突然弁慶は、手にした金剛杖で美咲に殴りかかった。


跳躍してそれをかわした美咲は、



美咲「え、いきなり?!」



改めて身構える。


聞く耳も持たず弁慶が二撃目を繰り出してくる。



美咲「戦前いくさまえの口上もできないのね・・・ガッカリ。セイバーかランサーの貴方と闘いたかったわ・・・」



そう言い終わった時である。


いつの間にか、弁慶が持つ金剛杖が真っ二つになっていた。



ミクオ「えっ・・・?」



何も見えなかった。


一体どこから現れたのか、美咲の手には彼女の背丈よりもはるかに長い、2メートルはあろう長さの薙刀が握られている。



弁慶「グルル・・・!!」



弁慶は砕かれた金剛杖を投げ捨てると、背中の籠から薙刀を取り出した。



美咲「あら、同じ得物えもの同士ね」



それから数合、金属音を響かせ両者の撃ち合いが続いた。


一撃一撃が重い弁慶が繰り出す薙刀の斬撃を、美咲はたくみにいなしている。


緊張のせいで喉をカラッカラにしながらも、その光景をミクオはただ見守るしかなかった。



(この子、何者なんだ?!めちゃくちゃ強い・・・)



美咲は敏捷な立ち振る舞いで見事に攻撃をかわしながら、弁慶が撃ち込んだ後の隙を逃さず、


その都度相手の腕や腿に何度か刃を撃ち込んでいた。


そして今も、宙を切った弁慶の刃が地面に突き刺さる。


この隙を逃すまじとばかり、



美咲「はあぁぁっ!!」



美咲が振り下ろした刃が、弁慶が持つ薙刀の柄を断ち切った。



弁慶「・・・」



美咲「はい、二本目撃破。次は何かしら?」



俗に弁慶の七つ道具と言う。


まさかりか鎌か、換えの武器を取るまで、美咲は攻撃の手を止めて待つ。


が、弁慶は次の武器を取り出そうとはせず、こちらから見ても背中の籠には


他の武器が入っているようには見えない。



清水「ヒロさん!どうしたんです?!しっかりしてくださいよ!」



劣勢に業を煮やしたのか、清水が発破をかけた。



弁慶「・・・」



弁慶は背中の籠を下ろすと、地面に中身をぶちまけた。



逆さまにされた籠の中から、いくつかゴロゴロと転がりはしたが、


それらは篭手や鎧通し等であり、薙刀を持つ美咲に対抗しうる得物では無かった。


すると、やけになったかのように、弁慶は得物も持たずに美咲に襲いかかってきた。


殴る、掴む、蹴る、だがどれも、美咲を捉える事はできない。




美咲「貴方には共感する部分も合ったから、ずっと会いたかったのに残念・・・次はちゃんと闘えるのを楽しみにしてるわ」



そう言うと、美咲は薙刀を大上段に構えた。



美咲「座に戻りなさい。終わりよ」



美咲が薙刀を振り下ろす。




まるでそこに何も居なかったかのように、弁慶は消滅した。


いつの間にか、マスターである清水も姿を消している。



美咲「ふぅ・・・」



ミクオ「お疲れ様・・・」



美咲「ありがと♡ まずは一勝ね」



気づけば美咲の手から薙刀が消えている。



ミクオ「美咲・・・強いんだな・・・」



美咲「あら?言ったでしょ?そこそこ強いって」



ミクオ「酒の事って言ったよな・・・」



美咲「あはは・・・とりあえず、いきなりの戦闘で疲れたわ。休みましょう」



ミクオ「あ、うん」



それはそうだろう、自分なんか、見ていただけでヘトヘトだ、とミクオは同意する、


混乱はしていたようだが仮にも敵は狂戦士。途中の撃ち合いには鬼気迫るものが有った。



美咲の先導で駅から街に向かい二人は歩き出す。


大通りを渡ると、美咲は1軒のコンビニに入った。



美咲「食糧とか飲み物、なんでも取っていいわよ」



そう言われてミクオは慌ててポケットを確認するが、財布は入っていなかった。



ミクオ「ごめん、財布が・・・」



美咲「あ、お金? 大丈夫よ」



ミクオ「え?」



美咲「ミクオ・・・いい加減わからない?」



ミクオ「えっと?」



美咲「・・・(笑 」



ミクオ「?」



美咲「この街には、人は居ないわ」



ミクオ「・・・」



目覚めた車両の中にも、駅のホームにも誰も居なくて変だとは思った。


けれど美咲とのランデブーポイントであり、結界の為だろうと勝手に思おうとしていた。


だがこのコンビニにも他に客はおらず、ミクオはレジに目を遣ったが、やはり誰もそこには立って居なかった。



美咲「だからなんでも取り放題。好きなのどうぞ」



美咲はドリンクコーナーでビールやワインを大量にカゴに入れている。



実を言えばミクオはさっきから空腹感を覚えていた。


それに、妙に眠い。


戸惑っているミクオに気づいたのか、



美咲「何か食べておいたほうがいいわよ? 人が居ないから、飲食店も機能してなくて、こんなところにある物しか食べれないけれど」



ミクオは仕方なく適当な弁当をひとつ選んだ。



美咲「あら?それだけ?」



ミクオ「え?」



美咲「たくさん食べて体力つけておいてね? マスターの体力が、この闘いの生命線だったりするから」



レジに有った袋に商品を詰め込み、会計もせずに二人はコンビニを出た。


しばらく歩いてゆくと、ある建物の前で美咲は足を止める。


そこは道玄坂に有るラブホテルだった。


この辺りに何件かある中でも一際古いホテルで、外観からして他と比べてみすぼらしかった。



美咲「入るわよ」



ミクオ「えっ?!」



美咲「何よ」



ミクオ「いや、ちょっと待って」



美咲「ん?」



ミクオは混乱した。


道玄坂だけにまさかとは思ったがいきなりラブホテル。



ミクオ「だって、ここラブホだよね」



美咲「そうね(笑」



ミクオ「なんで・・・」



美咲「休息しないとって言ったじゃない」



それ、休息と言うより御休憩だろ、とは言えず、



ミクオ「それにしても、なんでここ・・・他にもっと綺麗なとこあるじゃん」



実はミクオは、この辺りのホテルに何度か来たことがある。


もちろんアヤとだった。



美咲「そうね(笑 でも、ここがいいのよ。窓が無いから守りやすいの」



ミクオ「・・・?」



美咲「消滅したのはライダーとバーサーカーだけ、まだアーチャーもアサシンも残ってるわ。窓が有ると侵入や攻撃されやすいのよ」



言い分に納得したミクオは、美咲とホテルのドアを開いた。


襲撃された際に迎撃の準備時間が取れるよう上の階が良いとの事で、美咲は801号室を選んだ。


ミクオにはよくわからなかったが、美咲はホテルの入り口に、侵入探知の魔法陣もセットしていた。


部屋に入り、美咲は飲み物を冷蔵庫に詰めると、



美咲「私シャワー浴びてくるから、ミクオはご飯食べてて」



と、バスルームに入っていった。



ミクオ「う、うん」



部屋のレンジでコンビニ弁当を温めながら、ミクオは考える。



(この弁当もそうだけど、誰が作ってるんだ? 補充は・・・? 人が居ないのにどうなってるんだ・・・あ、そうだ!)



本当にこの世界には人が居ないのか、試しにミクオはテレビのスイッチを入れてみる。


結果、通常のチャンネルはどれも映らず、映るのはPLAYBOYチャンネル、ミッドナイトブルー、パラダイステレビの3つだけだった。



ミクオ「やっぱり、リアルタイムの番組は映らないのか・・・」



愕然としたミクオは、ミッドナイトブルーと悩んだ結果、パラダイステレビの企画モノでチャンネルを止めた。



内容はと言うと、部屋の壁に開いた無数の穴から出ている沢山の男性自身から、どれが自分の彼氏の物か女性が当てるとゆうものだった。



(なんだこれ、有り得ねえだろ・・・)



と思いながらも展開が気になる。


温め終わった幕の内弁当を食べながら、ミクオはついつい見入ってしまった。



女優「見た感じ、これか、あっちのどっちかだと思います」


司会「どっちか選んでください。当たれば賞金ですよ!」


女優「んー・・・?」


司会「見てわからないなら触ったり、色々して確かめてください!」


女優「えーw」



(こんなのダメだろ・・・・)




美咲「へぇー、ミクオはそっち系が好みなんだ(笑」



ミクオ「?!」



いつの間にかバスルームから出て来た美咲が、ミクオの後ろで笑っている。


バスローブ姿で、髪はまだ濡れたままだ。



ミクオ「いや、これはその、テレビが映るか確認してて、たまたま・・」



美咲「いいからいいから♡ 面白そうじゃない(笑」



冷蔵庫からビールを取り出すと、美咲はミクオの隣に腰掛けた。



美咲「結構可愛い女優さんだね~」



ミクオ「そう・・かな」



美咲「あれ?タイプじゃない感じ?」



ミクオ「普通かな・・・?」



美咲「ふーん(笑 じゃあさ・・・」



ミクオ「?」



美咲「あの女優と私、どっちが好み?」



ミクオ「え・・・」



美咲「ねぇ、どっちどっち?(笑」



たじろいだミクオがテレビに視線を移す。


すると、正解できなかった罰ゲームとやらで、さっきは服を着ていた女優が裸にされていた。



ミクオ「げ・・・」



美咲「ねぇ」



ミクオが美咲のほうに顔を向けると



美咲「私も脱いだほうがいい??」



ミクオ「ぶ」



美咲はもうバスローブに手をかけている。



ミクオ「ちょ、ダメダメ」



美咲「え、なんで?」



ミクオ「わかった、美咲のほうが好みだから!」



美咲「あら、そう♡ なんか無理矢理感がするけどまあいっか」



ミクオ「・・・」



美咲「でもねミクオ」



ミクオ「うん?」



美咲「どうせ見ることになるわよ?(笑」



ミクオ「へ・・・?」



ミクオは改めて、美咲から説明を受けた。


サーヴァントとマスターの関係についてである。


聖杯戦争に参加するマスターは、それぞれの資質により、意図的、または偶発的に


一体のサーヴァントを召喚する。


サーヴァント、すなわち英霊は本来霊体であり、現世に存在する為に魔力を必要とし、


逆に言えば魔力さへ有れば食事も睡眠も不要だ。


魔力の蓄積量に個体差はあるが、魔力が尽きるとサーヴァントは消滅してしまう為、


契約したマスターから魔力の補給を受ける必要が有る。


補給の手段はいくつか有り、マスター自身が魔術師などである場合は魔力回路を形成して


自動で補給できるのだが、そうでない場合はマスターの生命力を物理的にサーヴァントに与えるしかない。


そして、その最も効率の良い供給手段が性的交渉なのだと言う。



ミクオ「えっと・・・それって」



美咲「ミクオって、魔術師だったりする?(笑」



ミクオ「自覚ない・・・」



美咲「だよね(笑 じゃあ、そうゆうこと♡」



ミクオ「え、えっと・・・」



美咲「大丈夫、まだ備蓄があるわ。契約した時に結構頂いちゃったから♡」



(あ、キスされた時、力が抜けたのって・・・)



美咲「さっきみたいに楽に勝てる戦闘が続けば、そうそう減らないと思うけど、無理をしたり、ダメージを受けたりしちゃうと、回復にかなりの魔力が必要になるわね」



ミクオ「そうなんだ・・・」



美咲「その時は・・よろしくね、ミクオ♡」



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