第29話 お前らが居るからもう怖く無い
祭は途轍も無く危険な目に遭っている。
いや.....危険な目に自らが飛び込んでいるというか。
まるで.....火に飛び込む虫の様な。
いくら因縁の相手とはいえ、危険過ぎる事をしている。
俺達がもう止めるしか方法が無い気がする。
「羽鳥先輩。大体の.....その、祭の行動は分かるんですか?」
「.....祭は正面から殴り込みをするタイプだからね。もう喧嘩は始まっているかも知れないね」
「じゃあ手遅れになるんじゃ.....」
菜美の言葉に羽鳥先輩は黙る。
俺達は廃工場に向かい、走っていた。
途中、息が切れそうになり止まったりしているが。
とにかく.....祭が.....と思いながら動かない足を引っ叩いて走る。
「.....手遅れでも私は行って助けたいと思っている。祭.....今度は私だけじゃ無い。和彦くんも菜美さんも居る。そして皆んなが居る。だから大丈夫だ」
そう、あの頃とは違う。
と羽鳥先輩は少しだけ笑んだ。
そうしていると.....例の廃工場が見えて来た。
そして俺達は立ち止まる。
目の前、丁度.....祭が誰かと会話していたから。
「のこのこと戻って来た理由は何だ?飯草」
「.....テメェら。神子をまだ自由にしてやってないんじゃ無いか?神子が泣いていたもんでね」
「.....神子だ?.....佐藤の事か?確かにアイツはまだ.....俺達の人形では有るな。そもそもお前が売ったんだろ。顔も良いしな」
「.....」
祭が握り拳を作った。
これ.....マジか。
と思って錆びた柵から奥を見つめる。
菜美と.....羽鳥先輩も複雑な顔をしていた。
「因縁に決着をつける。お前ら。神子を解放しろ。じゃなければ神子は囚われた蝶のままだからな」
「.....アホかお前」
ゾロゾロと廃工場の奥からエンジェルズと思われる不良一味が出て来た。
まさかの事態だった。
その事に.....祭は一瞬だけ怯む。
だが.....目を瞑って.....言葉を発する。
「.....神子は.....お前らのせいで.....俺のせいでまだ苦しんでいる。だから俺が楽にしてやると決めた。今度こそ終わりにする。神子は自由に生きるべき人間なんだ」
「.....自由ね.....まぁこの人数倒したら考えてやる事も無い。でも無理だとは思うぜ」
「やってみなきゃ分からないけどな」
「.....やっちまえ!お前ら!」
そして殴り合いの喧嘩が始まろうとした、その時だ。
バイク数台の音が廃工場の入り口からした。
それから、ちょっと待て、と声が。
俺達はその方向を見る.....って言うか羽鳥先輩がいつの間にかそのバイク集団と一緒に居た。
「.....お前ら.....!?羽鳥.....!?」
祭が動きを止める。
エンジェルズのリーダーも手を止めた。
そしてバイクを降りた、数人はヘルメットを取る。
結構個性的な奴らだけど.....まさか。
「.....一人対数十人。それは幾ら何でも不公平だと思うからね」
「.....何を.....お前が呼んだのか!?羽鳥!」
「.....そうだよ。祭。私はアンタに死んで欲しく無いから。それはコイツらも同じだと思うからね」
そうだろ?と背後の数人に聞く、羽鳥先輩。
ソイツらは頷き合って、祭を見る。
俺と菜美はまさかの事に.....見つめる事しか出来ずに居た。
そして.....羽鳥先輩は言う。
「.....この場には和彦くんも居る」
「.....何.....和彦が!?」
「.....そうだよ。皆んな.....お前が大切なんだよ。祭。アンタはアンタしか居ない。死ぬ様な真似はしない方が良いよ」
「.....」
祭は.....唖然としながら.....俯いた。
それから.....全く.....と呟く。
口角を上げてどうしようも無いクソッタレ共だな。
と、言った。
それから.....祭は俺を見る。
そして羽鳥先輩を見た。
「.....和彦。羽鳥。お前ら。.....有難うな。お前ら手伝ってくれ」
「了解です。リーダー」
そして祭はエンジェルズに向いた。
それから.....って事だけど良いか、と呑気な感じで言う。
エンジェルズは.....完全に怯んでいた。
冷や汗を流している様に見える。
「.....り、リーダー。これは無謀じゃ無いですか?相手は不死鳥です.....よ!」
「.....一時期は瀕死になったくせに.....偉そうに.....やっちまえ!!!!!」
「.....桑島。.....俺はもう怖くないんだ!!!!!」
そして数十人対数人の本気の殴り合いが始まった。
が、結局の話。
不死鳥の方が思いっきり強かった様だ。
エンジェルズは壊滅した。
☆
俺の自宅に帰って来た祭。
それから.....不死鳥の奴らも来た。
俺は.....祭の擦り傷に消毒薬をぶっかける。
イッテェ!!!!!と祭は声を挙げた。
「我慢しろっつーの」
「お前!和彦!少しは加減しろ!」
「ったくどうしようも無いボンクラだよなお前」
不死鳥の奴らが目を丸くして俺を見ている。
スッゲェ、リーダーが尻に敷かれている。
と顔を見合わせながら、だ。
菜美が絆創膏を貼った。
「全く。お前が一人で突っ込んで行った時はどうしようかと思ったぞ」
羽鳥先輩が怒った様に言う。
その事に祭は.....少しだけ申し訳無さそうな顔をした。
それから.....俯く。
そして謝った。
「.....本当にすまなかった」
「.....本当にな。もうやるなよ。俺も心配だから」
「.....お前も来るとは思わなかった。有難うな。和彦」
そうしていると。
インターフォンが鳴った。
俺は?を浮かべながら.....インターフォンを見る。
それから.....祭にニコッと口角を上げて向いた。
「祭。客人だ」
「.....え?俺にか?」
「お前じゃ無いとダメだ」
「.....?」
祭は???を浮かべながら玄関を開ける。
すると目の前を見て唖然とした。
その人物とは.....神子だ。
神子は俺達を見て.....困惑した表情を浮かべていた。
「.....神子?お前.....」
「.....何やっているの?アンタ」
「.....何をやっているって.....」
「.....死んだらどうするの?死んだら意味無いのよ?馬鹿なの?」
神子は必死に訴えを言う。
俺たちはそれをジッと観察する。
すると神子は.....涙を流しながら.....祭を見た。
「.....死んじゃったら.....本当に意味無いのに.....」
「お前を愛していた」
「.....え?」
「.....お前が心配だったから.....喧嘩をしに行ったんだ。お前が.....お前が.....囚われているって知ったから」
馬鹿なの.....それが嘘だったら.....どうする気だったのよ.....と膝を曲げる神子。
俺は.....それを見ながら.....祭を見る。
祭はそっと寄った。
「.....お前が.....嘘を吐くわけないだろ。なんたってお前だからな」
「馬鹿.....」
神子の涙を拭ってやる祭。
その姿を見ながら.....空を見た。
今日も良い天気だな、って思える。
何時もよりも、だ。
「.....良かったね。お兄ちゃん」
「.....ああ。本当に何よりだ」
そして.....この祭の喧嘩事件は幕を下ろした。
それから数日後。
また驚く事態が発生した。
それは.....神子と俺達の事だ。
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