第21話 鉄の壁

本当にクソッタレな世界とはこの世界の事を言うのだろう。

何故クソッタレかと言えば.....そうだな。

幾ら善人が頑張っても目標に手が届かないこの世界。

だから俺はクソッタレと表現している。


それは簡単に言うのであれば鉄の壁が目の前に有る様な。

打ち壊せない壁だ。


何故か悪人だけが優遇されて伸びてしまう。

俺の世界の見方が悪いのだろうけど。

申し訳無いが俺はそうとしか思えない。

羽鳥先輩の件を見て思った。


幾ら努力をしても手が届かない。

何故なのだろうか。

階段を降りながら.....俺は顎に手を添える。


「.....おはよう。お兄ちゃん」


「.....お、おう。おはよう?」


キルユー的な目をしている菜美とばったり会った。

何だコイツ.....?

思いながら俺は顔を引き攣らせる。

まさか.....昨日の事をまだ引きずっているのか?

と思ったら。


「.....お兄ちゃん。ポルノ雑誌の事は良いけど、羽鳥先輩の事。デレデレしないでね」


「.....あ、はい」


「.....殺すからね」


「.....は、はい」


いや、ちょ、怖いんですけど。

さっきの事件の事を知っているという事かコイツ。

って言うかあれは不慮の事故なんだけど。

思いつつ俺は盛大に溜息を吐いた。

すると義妹が踵を返して.....と思ったら止まる。


「.....あ、それと」


「.....何だ今度は」


「.....お兄ちゃん。羽鳥先輩ね、結構.....うなされてた」


「.....?.....ああ.....マジか」


そうだね.....って言うか。

うなされているよりかは.....うん。

子供の様な.....呻き声を上げていた。


と、菜美は複雑な面持ちになる。

俺は.....その姿を見ながら.....そうか。

と呟いてリビングの戸を見る。


「.....羽鳥先輩.....大丈夫かな」


「.....大丈夫とは言えないな。場合によっちゃ.....それなりに対応を考えないとマズイ.....とは思う」


「だよね.....うん.....」


顎に手を添えてうーんと悩む、菜美。

俺はそれを見ながら.....成長したな、コイツ。

と思ってしまった。

今思うべきでは無いのかも知れないが。

昔よりかは他の女性を労る様になったから。


だがしかし.....本当にクソッタレと思ってしまう。

羽鳥先輩.....は頑張っているのに。

何故こんな目に遭わなくちゃいけないのだ?

思いながら.....眉を顰める。

でも今は考えるべきじゃ無いな。


「.....羽鳥先輩が心配する。早く入ろう」


「.....あ、そうだね。お兄ちゃん.....」


菜美と一緒にリビングに入った。

このクソッタレな世界にも希望は有る筈。

思いながら俺は必死に動く。

そして.....もがいてみせ、争ってみせる。

思いながら.....俺は決意を新たにした。


「あれ?遅かったね?何をしていたの?」


「何でも無いっすよ。羽鳥先輩」


「だね。お兄ちゃん」


その様な会話をしながら。

朝ご飯の用意を手伝っている羽鳥先輩を手伝った。

それから.....椅子に腰掛ける。

裕子さんがニコニコしながら言う。


「家族が増えたみたいで嬉しい。私は本当に」


「.....そうですね」


「.....うん。お母さん」


羽鳥先輩は涙を浮かべて拭っていた。

何だろうな、簡単に表現するなら。

家族が増えたというか.....とてつもなく大切な人が増える。

そんな気がしたのだ。

俺の前の親父は何も言わないが.....嬉しいと思っている様だった。


「.....暖かいご家族.....」


「これが俺達の一家ですよ。羽鳥先輩」


「.....そうなんだね。私は.....愛を知らないから.....嬉しいよ。こんなご家族と一緒になれて」


羽鳥先輩は少しだけ.....悲しげに思いながらも。

そうなのかな、と呟いていた。

俺は.....その姿を見ながら少しだけ複雑な顔になる。

そんな俺の様子を見つつ裕子さんが笑みを浮かべた。


「傷だらけでも復活が出来る。それが分かると思う。羽鳥さん。貴方は.....幸せになれるよ」


「.....それは思います。羽鳥先輩。貴方は幸せになれますよ」


「.....有難う。皆さん」


羽鳥先輩は元からこの家に居た様な感覚だ。

だけど違うんだよな。

何でこんなにも仲良くなれるんだろうか俺達は。

俺は柔和に思いながら.....朝ご飯を食べる。


「その煮物は私が作ったんだよ」


「料理も上手だから.....そうね。和彦くん。お嫁さんにもらいなさい!」


「「!?」」


思いっきり吹き出した。

何を言って.....ハッ!

横を見ると菜美が眉を顰めてジト目を向けていた。

俺は慌てる。


「.....お兄ちゃん?」


「.....いや、裕子さんのジョークだろお前。.....マジにそんな顔しないで?」


「.....殺す」


「.....いや、だから.....」


いや、割とガチで怖いんですけど。

と思っていると菜美はゆっくりと立ち上がりながら俺を見下ろす。

イヤー!!!!!怪物!!!!!

この事に慌てて羽鳥先輩が止めに入る。

そして裕子さんは笑った。


取り敢えずは.....ゆったりしている。

思いながら俺は.....羽鳥先輩を見ながら。

少しだけ口角を上げた。


「.....羽鳥先輩。こんな家ですけど、宜しくです」


「あはは。そうなんだ。宜しくね。暫く」


「.....はい」


で、とりま菜美をどうにかしないと。

思いつつ俺は逃げる。

マジにキルユー的な目をしている。

怖いんですけど!


「皆んな。ご飯食べなさい」


「いやいや!裕子さん!食べなさいって言うか貴方のせいですけどね!.....菜美!落ち着けぇ!!!!!」


「殺す」


ゴールデンウィークが賑やかになった。

思いながら俺は.....笑みを溢す。

そして菜美を止めた。

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