第18話 回らない世界

この家は娘を.....放置した家だと思う。

っていうか表現するなら任せっきりと言える。

そう.....表現はしたく無いが、実際にそうだと思ってしまう。

今の羽鳥先輩が可哀想に見えて仕方が無い。


だけど決してそれは言ったりはしないが。

言ってしまったら失礼だ。

だけどその、目の前の.....羽鳥先輩は.....悲しそうだった。

俺達は大きいリビングで会話をしている。

その中で.....申し訳無さそうな顔をする羽鳥先輩。


「.....ごめんね。せっかく.....来てもらったのにこの有様ってね」


「.....いえ.....大丈夫っすよ」


「正直に言ったらあの人達に出て来て欲しかったんだけど.....昔から仕事だけだからね。私は放ったらかしだから」


あの人達とその様に表現するのは.....きっと今の父親と母親を両親として認めたく無いからだろう。

本当に.....そのモヤモヤは.....うん。

表現が出来ないだろう。


そんな感じで思いながら居ると。

ピコンと音がして俺のスマホにメールが入った。

俺はスマホを取り出してみる。


「.....何だ?」


(お兄ちゃん。貴方は一体、何処に居るのかな.....?)


「.....」


何これ。

たったこれだけの文章なのに相当に怖いんですけど。

思いながら.....メールを見つめる。

すると羽鳥先輩がスマホを見ながら、どうしたの?、という感じで首を傾げていた。

俺は、すいません、と断りを入れる。


「義妹からのメールっす。返事してきて良いですか?」


「.....ああ。君の義妹ちゃんだっけ?良いよ、返事してきなよ」


「.....有難う御座います」


そう言いながら。

俺は.....スマホを持ってから席を立ち上がって。

それから廊下に出た。

そして.....返事を打つ。


(俺は今、ちょっと用事が有る。すまんけど.....もう少ししたら帰る)


(用事?うーん。でも女の子と会っているよね?何やってるのかな?)


(いや、ちょ、何で知ってんだよ.....)


(ホルマリン漬けにされたいの?殺されたいの?どっちなのかな?)


何度も言うけど怖いんですけど。

思いながら顔を引き攣らせて返事を待つと。

とんでもない事が書かれていく。

何が書かれているかと言えば.....。


(私、今、そっちに向かっているから)


という感じ.....え?

俺はハァ!?と声が出てしまった。

コイツ何考えているんだ!?

思いながら.....驚愕しつつ思っていると。

背後の扉が開いた。


「ど、どうしたの?」


羽鳥先輩が目を丸くしながら顔を見せた。

俺は.....いや.....と言いながら。

顔を引き攣らせて大丈夫っす.....と答える。


いや、大丈夫って何が大丈夫なんだ?

来ている事に変わりは無いだろ。

っていうか何で場所を知ってんだアイツ。

盛大に溜息を吐きながら申し訳ない感じで羽鳥先輩を見る。


「.....すいません、義妹が来るみたいです。この場所に」


「.....あ、そうなんだね。.....じゃあ迎える準備しておこうかな」


「.....えっと.....良いんですか?この家にご迷惑じゃ.....」


「君の知り合いなら大歓迎だよ。それに何人迎えようが.....ね」


羽鳥先輩はその様に悲しげに言いながら。

控えめにニコッと笑みつつスリッパを準備する。

そして.....晴子さんに話をした。


俺は.....本当に優しい人だな、と思いながら居て。

そして.....本当に可哀想だな.....と思う。

そのまま俺は義妹の到着を待つ事にした。



「何やっているのかな?お兄ちゃん」


「.....よ、よお。菜美。とりま落ち着け」


「落ち着くとかそういう問題かな?私に黙って女の子の家に?へえ?勇気が有るね?お兄ちゃん.....?」


菜美はジト目をしている。

だがその、なんて言うか目が死んでいる。

俺は恐怖に怯えながら.....玄関先で苦笑する。

すると.....背後から羽鳥先輩が顔を見せた。


「久々だね。菜美さん」


「.....羽鳥先輩の家だったんですね。此処」


「.....そうだね。まあ無駄に広い家だけど。ささ、入って入って」


そして笑みを浮かべながら菜美に対して入る様に促す羽鳥先輩。

菜美は黒髪を揺らしながら、お邪魔します、と言いながら靴を脱いだ。

それから俺を睨んで入る。

いちいち睨むな俺を。


「でも.....あの、ご両親とかは?」


「.....居ないもんだと思って良いよ。アレはね」


「.....???」


羽鳥先輩の言葉に俺を見て?を浮かべる菜美。

アレ、という言葉が気になっている様だ。

色々有るんだ、世の中は、な。

思いながら.....少しだけ複雑な面持ちになる。


「ささ、入って、入って。紅茶を準備させるからね」


「.....あ、はい.....」


「.....」


俺達もリビングに戻る。

そして.....椅子に腰掛けた。

少しだけ居づらい様な感じを見せる、菜美。

俺はそれを見てから.....対面の羽鳥先輩を見つめる。

羽鳥先輩は苦笑しながら.....俺達を見つめてきた。


「ごめんね。私.....本当に両親が嫌いなの。だから.....言い方がちょっと雑いけど.....」


「.....あ、そうなんですね.....」


「.....」


心の底からの嫌悪。

そして.....心の底からの絶望。

その気持ちは.....体験した人じゃ無いと分からないだろう。


思いながら.....俺は羽鳥先輩を.....。

心の底からの憎しみの篭った様な笑みを見せる羽鳥先輩を見た。

この.....状態は多分、俺達にどうこう出来る問題じゃ無い様な気がする。



「今日は楽しかったよ。君達が来てくれて」


「.....はい」


「そうっすね」


羽鳥先輩はニコニコしながらそう言う。

俺は少しだけ控えめな笑みを見せながら。

菜美も笑みを見せつつ。

帰宅の準備をする。


「.....アドレスも交換したし、何か有ったら連絡するね」


アドレス交換にピクッと反応した、菜美。

それから.....眉を顰めた。

そして俺を見てくる、菜美。

俺は少しだけ顔を背ける。


「.....お兄ちゃん.....?」


「ま、まぁ良いじゃ無いか。あはは.....」


全くもう。

と文句を言いながら.....ハイライトを消しつつ。

後で覚えておいてね、と笑顔で言う菜美。

俺はその恐怖を感じながら.....苦笑しつつ羽鳥先輩に向く。


「.....また来ます」


「.....有難う。.....じゃあね。二人とも」


手を挙げて笑顔で手を振ってくれる羽鳥先輩。

その様子に俺達も笑みを浮かべて手を振る。

そして先輩と別れ。

その日はそれで終わりかと思ったのだが.....終わらなかった。

先輩が.....俺達の家にやって来たのだ。


「.....ごめんね。.....突然で本当に申し訳無いんだけど泊めてくれない?私を」


着の身着のままの姿に。

それは.....心の底からの助けを求める声だと俺は.....気が付いた。

その事は.....俺だけしか気が付かないだろうけど.....だ。

俺は再び眉を顰めざるをえなかった。

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