第六章 バラバラの家族関係

第17話 放置の家

ミリアに会ってお互いに良かったね、と話していた時の事だ。

それは本当に突然の事だった。

菜美に対して誰か分からないが捨て垢とメールを使い菜美を攻撃するという宣戦布告がされたのだ。

俺はその攻撃文章に眉を顰めながら。


とにかく今はお互いに気を付けようという話になった。

そんな次の日曜日は創作意欲が湧いた様で菜美はまたも徹夜で色々描いた。

これはその次の日の月曜日の話だ。

ゴールデンウィークに突入してからの話で有る。


「お兄ちゃん。はい、ご飯」


「おう」


という感じでの朝のいつもの食卓。

だが俺達の様子に目を丸くして俺の父親と裕子さんが向かい合った。

それから.....裕子さんがニコニコしながら話してくる。


「.....でもどうしたの?何時も和彦って呼んでたのに.....お兄ちゃんだなんて。菜美」


「.....うん?あ、えっとね、心変わりっていう感じだよ。せっかく仲良くなったんだから何時迄も和彦っていうのもね、と思ったの」


菜美は頬を掻きつつ恥ずかしがりながらその様に話す。

その様子に裕子さんも成る程と顎に手を添える。

それから.....笑みを浮かべた。

俺もちょっと赤面する。


「ふむふむ。成る程。それは良い事ね。私も.....結構変わってみたい気もするし」


「.....裕子さんは変わっている事にかなり挑戦している気がしますけど」


「うーん。でも和彦くん。色々な事にエンジョイするのは大切よ。だってそうでしょう?新しいことで何か発見出来るかも知れないしね」


あはは、とお茶目な可愛らしい笑顔を見せる裕子さん。

俺は本当に相変わらずだ、と思いながら口角を上げつつ反応する。

すると.....親父が珍しく新聞を読みながら言葉を発した。

寡黙なのだが、珍しく、だ。


「.....だが仲良くするのは良い事だな。うむ」


「.....あら珍しい。貴方が言葉を発するなんて」


「失礼だな。裕子。私は機械人間か」


「う、うーん。あはは。まぁそれは.....うん。でも.....嬉しいわ。貴方達が少しだけでも仲良くなったのなら。この通り、和夫さんも嬉しく思っているみたいだしね」


裕子さんは冗談めかしつつ俺を見てくる。

親父も少しだけ口角を上げている様に見えた。

俺は.....その様子に少しだけ頬を掻きながら菜美を見る。


菜美も少しだけ嬉しそうに俺を見てきていた。

その様子に.....今日も頑張るか、と思えて。

ご飯を食べた。



しかし土曜日のメールがつっかえて.....何か上手く事が回らない。

と言うか.....何処のどいつだあんなメールを送ってきやがった馬鹿は。

警察に頼るか?とか思いながら.....俺は近所の公園に足を運ぶ。

少しだけ休憩と思いながら、だ。


「.....ハァ.....」


溜息が少しだけ漏れる。

ゴールデンウィークの初っ端にこんな時間潰しかよ。

と思いながらも今日は皆んな忙しいので俺は邪魔になる。

なので外に出てやって来たのだが。


ベンチで缶コーヒーを飲みつつ目の前で遊んでいる幼い少年少女を見る。

良い元気っぷりだな、と思いながら居るその時だ。

女の子らしき人に声を掛けられた。


「あまり息を吐き過ぎると幸せが逃げるぞ。少年」


「.....?.....は、羽鳥先輩!?」


後方を見ると、黒縁の眼鏡を掛けた先輩が立っていた。

よ、と声を上げながら俺の横に腰掛ける。

それから.....俺を見てくる。

俺はそんな羽鳥先輩に聞いた。


「何やってんですか?こんな場所で」


「.....いやいや、それを言うならこっちも何だけど。何をやっているのかな?君は」


「.....うーん、家族が忙しいから外に来た。そんな感じっす。でも先輩.....この地区に住んでいるんですか?」


ビンゴ。

そんな感じだよ、と少しだけ.....顔を顰める、羽鳥先輩。

でも今はちょっと外に来たくなったから。

と顔を上げる羽鳥先輩。


「.....でも.....君が居てくれた。暇が潰せそうだね」


「.....喋り相手になりますかね」


「君の様な優しい人は十分喋り相手になるよ?」


羽鳥先輩はニコッとした。

うーん、優しい、か。

俺は.....本当にそうなのかな。

思いながら.....考え込む。

羽鳥先輩は頬杖を膝で付きながら目の前を見る。


「.....でもこの光景も良いね。見るのは。子供が元気な姿をね」


「.....俺があまり子供を見ると不審者になりますけどね」


「それもそうだ。あはは。.....あ、じゃあもし良かったらウチに来ないかい?」


「.....え?」


声が出てしまった。

羽鳥先輩の家?

行っても良いのだろうか?

と思いながら居ると.....羽鳥先輩が続きを話した。


「ゴールデンウィーク、人も多いから外に出れなくて暇だからね。もし良かったら上がって行きなよ」


「いや.....でも.....」


「.....ああ。ウチの関係を心配しているのかな?.....大丈夫だよ。君がもし来てくれたら万々歳だと思うよ」


「.....だと良いんですけど」


俺は缶をゴミ箱に捨てながら。

羽鳥先輩を見る。

じゃあ決まりだね、と口角を上げながら勢いよく立ち上がる、羽鳥先輩。

それから.....俺を見た。


「.....この坂の上に有るからね。来て来て」


「.....はい。じゃあお邪魔します」


そして俺は羽鳥先輩の家に行く為に公園を後にした。

それから.....俺は坂を上がって行き。

驚愕する事になる。

それは何故かと言えば.....。



屋敷だ。

その屋敷ってのは所謂、洋館。

つまり.....家が相当にデカイと思う。


白い壁に青の屋根。

まさに.....城の様に見えなくも無い尖塔の様な。

驚愕しながら立ち尽くす、俺。


「.....マジすか。噂でこの家はしていましたけど.....まさか羽鳥先輩の家だなんて」


「.....ウチの親がそこそこの地主だからね。だから屋敷を建てれるんだけど.....」


自嘲気味に笑う、羽鳥先輩。

その顔は.....親との少しの差が有る事を思い知った。

だが羽鳥先輩は直ぐに明るくなって。

さあさあ、上がって!と言う。


「こっちが玄関。あ、侍女でおばあちゃんで居るけど気にしないで」


「いや、気になりますけど.....」


信じられない。

侍女まで居るのかよ。

思いながら俺は.....目を丸くしながら羽鳥先輩に手を引かれ屋敷に入った。

そして.....内装を見てまた驚愕する。


「.....シャンデリアが直に付いている家なんて初めてっすよ.....」


「この装飾品はあまり高く無いよ。意味も無く付いているって感じ」


カーペット、食器棚、そして.....色々が有る。

何だこの家。

って言うか.....うん。

場違いだな、俺.....と思いながらリビングらしき場所に侍女のおばあちゃん。


名前を時田晴子(トキタハルコ)というらしいが、まるでメイドの服を着込んだ年齢不明の方と一緒に案内されて付いて行く。

その中で羽鳥先輩が聞いた。


「晴子さん。お父さんは.....」


「秀吉様は相変わらずでございます。お部屋に篭ってますね。全て任せられております」


その事に.....羽鳥先輩はキッと目を鋭くした。

そしてこう呟く。

まるで.....恨みを持っているかの様に、だ。

原状況にかなり怒っている様に見える。


「.....あの糞爺」


「.....?」


「.....あ、何でも無いよ。ごめんね。お客様が来ても.....そんな感じが許せなくて」


あはは、と笑みを溢したが。

俺は.....複雑な家庭なんだな、と思ってしまった。

まるで.....昔の俺の家庭の様な.....だ。

少しだけ.....昔を思い出す。


「.....ハァ.....」


借金を押し付けられたまるっきり嫌な記憶しか蘇らないけど。

そう、考えながら。

リビングに入って行くと誰も居らず、長テーブルと椅子が10脚ぐらい有った。


まるで静寂の森の様なそんな感じだ。

時計の.....古時計の音が鳴っているが、その音しか聞こえない。

俺は.....誰も居ないのか、と思いながら羽鳥先輩を見る。


「.....また誰も居ない.....」


そう言っていた。

そして悲しげに俯く。

だが直ぐに俺が居る事を思い出したかの様に顔を上げて。

それから晴子さんに指示をした。


「.....お茶を出して、晴子さん。あ、お茶菓子も」


「はい。お嬢様」


それから晴子さんは静かに去って行く。

それを見送ってから.....俺は羽鳥先輩に聞いた。

聞いて良いものか分からなかったけど。

どうしても聞かずに居られなかった。


「.....ご両親、お忙しいんですね」


「.....違うけどね。私を放ったらかしにしているだけだよ。それも.....使い捨ての駒の様に。多分、私は一応、置かれているだけみたいな感じかな」


「.....」


家族の愛を知らない。

その様な回答でやはりと思いながら俺は羽鳥先輩を.....俺と重ね合わせてしまった。

本当に.....親父の父さんと母さんに.....似ている。

そいつらゴミ共に俺は博打ばかりして愛を受けなかった事が、だ。


「.....先輩」


「.....何かな?和彦くん」


「色々、乗り越えて来たんですね、ずっと」


「.....そうだね。もう慣れたけど」


こんな家族間で居ながら.....吹奏楽部長。

俺は.....スゲェなこの人と思いながら。

尊敬の眼差しを向けた。

だけど。


「.....あ、ごめんね。早く座ろ。ね」


「.....はい」


まるでドブ沼の状態の足元。

そして闇は決して拭い切れてない。

思いながら.....俺は。

複雑な面持ちで.....羽鳥先輩を見た。

本当に強いんだな、とも思いながら。

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