第10話 音楽室へ

幼馴染の智子が転校して来た。

俺は智子と一緒に学校内を散策している。

何というか嫉妬の目を向ける.....菜美とも一緒だ.....が。

その菜美が俺を睨んでいる。

ヤバイめっちゃ怖いわ!この子!


「和彦。幼馴染さんが転校して来たからって誘惑されないでね」


「あのな.....智子を何だと思っているんだ。痴女か?智子は」


「あらあら。和彦。何?痴女って?私が変態みたいだよね?あはは」


怖いって。

皆んな怖い!

嫌だわ私!誰一人として信用出来なくなりそう!

思いながら学校を案内する。


保健室、職員室、生徒指導室、理科室.....などなど。

そう案内していると.....目の前から小学生.....じゃ無いや。

先輩がやって来た。

そんな先輩もこっちに気が付いた様に見開く。


「.....ん?和彦じゃ無いか」


「.....あれ?先輩じゃ無いっすか」


「.....何をやっているんだ?ハーレムの様な感じになりながら」


「人聞きが悪いっすよ先輩.....」


確かにコイツら.....睨んでいるけど。

先輩は、ニシシ、と笑いながら。

智子を見た。


「.....君は初めましてだね。私は玉木という。和彦のお世話をしている三年生だ」


「先輩!?」


何て事を言うんですか!と俺はワタワタする。

智子が目をパチクリしながら先輩を見る。

え、嘘.....という感じだ。


「えっと.....え?三年生.....」


「そうだ。まぁ体型は小学生並みだけどな。宜しく。で、君の名前は?」


「あ、すいません。私は.....柚木智子です」


「ふーむ。智子か。宜しくな」


和気藹々(わきあいあい)。

そんな感じで.....触れ合う、先輩と智子。

すると菜美が髪を少しだけ整えながら見上げてきた。

俺を、ヤレヤレ、的な感じで見る。


「.....でも和彦、幼馴染さんの.....智子さんって何時から一緒なの?」


「.....ああ、アイツか?アイツとは.....そうだな。幼稚園の頃からだよ」


「.....え、付き合いそんなに長いの.....うーん」


「何でお前が考え込む必要が有るんだ?」


俺は???を浮かべながら菜美を見る。

菜美は、うーん、と悩む。

すると智子が先輩の元から戻って来た。

先輩は俺達に手を挙げる。


「じゃあ、皆んな私は行くからな」


「.....あ、はい」


「.....和彦。女の子に簡単に手を出すなよ?あと、何か有ったら呼ぶんだぞ。私を、二人とも」


「先輩.....」


いや.....と思いながら俺は額に手を添える。

菜美と智子は、はい、と返事をする。

いやいやと俺。

フフフ、と怪しい笑みを浮かべながら。

先輩は、じゃあな、と言い残し去って行った。


「.....良い先輩だね。和彦。本当に」


「.....そうだな。ちょっと.....色々.....洒落かどうかも分からない事を話すけどな」


「.....和彦の周りが.....少しだけでも穏やかで良かった。.....その、昔は.....そうはいかなかったからね」


懐かしい.....と言うか。

あまり思い出したく無い記憶だ。

騒がしかった。

俺は.....俺が.....人嫌いを起こした.....あの日を。


「.....和彦?顔が.....」


「.....!.....あ、ああ。何でも無い」


菜美に言われてハッと現実に戻ってくる。

智子が.....深刻そうな顔をしていた。

俺はそんな智子に声を掛ける。

そして笑みを浮かべた。


「.....死んで無いから大丈夫だ。智子。俺は.....だ」


「.....許せない人達も居たからね」


「智子。もう良いんだ。過去は過去だ。そして今は今だから」


「.....だね」


正直。

あの過去を忘れるっちゃ無理が有る。

だが、思い出したからタイムマシンの様に過去に戻れる訳じゃ無い。


だから.....俺はもう忘れる。

あの記憶も.....全部、葬り去る。

それで良いのだ。


「.....えっと.....」


「.....菜美。すまん」


「.....うん、良いんだけど.....」


「.....」


かなり心配げに俺達を見ていた、菜美に答える。

そして歩みを進めた。

もう時間が無いと思いながら、だ。

それから.....智子に聞く。


「.....智子。何処か見ておきたい場所とか有るか」


「.....あ、うん。音楽室かな」


「.....そうか。お前、音楽好きだもんな」


「うん」


よし、と言いながら俺達は歩く。

そして音楽室にやって来た。

吹奏楽のリズムの良い音が聞こえる。

俺は.....口角を上げながら智子を見る。


「.....入るか?」


「.....時間が無いし後でで良いよ。私、吹奏楽部に入りたいからね」


「.....そうか」


そして去ろうとした時。

目の前にポニテに近い女の子が立っていた。

眼鏡をかけている。

こっちに笑みを浮かべていた。

俺達は顔を見合わせて?を浮かべながら居ると。


「吹奏楽部に入りたいのかな?」


とその女の子は元気良く声を掛けてきた。

よく見ると.....三年生だ。

俺は驚きながら顔を上げる。

すると智子が、私が入りたいんです、と手を挙げた。


「.....そうか。じゃあ入部届を持って来て。そしたら.....ね。あ、私は三年で部長の羽鳥優子(ハトリユウコ)。宜しく」


「.....部長.....」


「.....そうだね。因みに.....確か.....飯草くんだっけ?一緒に居る子だよね?君」


「.....へ?あ、はい」


有難うね、飯草くんを気に掛けてくれて。

とゆっくりと頭を下げた羽鳥部長。

俺は首を傾げながら聞いてみる。


「えっと.....知り合いですか?」


「.....飯草くんは私の近い親戚だね」


「.....え!?」


でもとは言え私に話し掛けてくる事なんて無いけどね。

ああいう性格だから、と。

少しだけ苦笑して寂しげな顔をした。

俺は祭に後で聞いてみようと思いながら居ると音楽室のドアが開いて男が出て来る。

同学年の様だが。


「部長」


「.....どうしたの?谷川くん」


「演奏の音合わせの時間無いです、早く来て下さい」


「そうか。.....あ、君達、すまないね。後でね」


と声を改めてハキハキさせながら。

じゃ、と言いながら音楽室に入って行く羽鳥部長。

俺達はそれを見送ってから。

菜美と智子が話す中、考えた。


「.....祭.....」


祭の野郎.....。

何であんな良い人が居るのに教えてくれないのだ。

それとも話せない理由が?

思いながら.....俺は溜息を吐いて。

智子と菜美に向く。


「とりま、教室に帰るか」


「.....そうだね。和彦」


「だね」


頷き合ってから。

俺達は静かに音楽室を後にした。

それから.....俺と菜美は別れて教室に戻って午後の授業を受ける。

因みに.....菜美には力強く脅された。


あまり智子さんとイチャイチャしない事、と、だ。

釘を刺されたとも言えるな。

俺は盛大に溜息を吐いた。

そんな事は無いと思いながら、だ。

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