第三章 四年ぶりの幼馴染

第7話 何でそっち!?

目の前で玉木先輩の妹と弟の姉妹と兄弟が祭と菜美と一緒に遊んでいる。

そんな子供の無邪気さを見ていると落ち着くなと思う。

嫌な事を全く考えて無い気がするから、だ。

でもそれでいて.....そうだな。

豆腐ぐらいに色々繊細な事は知っている。


どういう事かって?

簡単に言ってしまうと.....そう。

子供は心が非常に脆いんだ。


豆腐を箸でいとも簡単に破壊出来る様に脆いのだ。

そして一度壊したものを直すのは楽じゃ無い。

俺の場合も.....子供の頃に心が傷付いてしまって今でも癒す事が出来てない。

母さんが倒れた姿を見た時の全然何も出来なかった.....無力感を.....癒す事が出来ていないのだ。


俺はあの時に何か出来た筈なのに。

母さんはその事でまだ生きていたかも知れないのに。

それでも何も出来なかった俺は.....ただ、今でも思う。

その一言を、だ。


悔しい、と。


例え幼い子供だったとしても.....小学生。

119番ぐらいは出来た筈なのに恐怖で動けなかった。

全く動かない母さんを見ながら.....青ざめる事しか出来ず。

後に帰って来た父さんのあの蒼白した顔を今でも覚えている。


俺は.....子供を見ているのが好きだが子供を.....あやすのは不得意だ。

自らがまた何かを壊すんじゃ無いかって思ってしまう。

きっと多分、PTSDに近いんだと思うけど。

病院に行ったら恐らくは.....治るのかも知れないけど。

今の技術なら、だ。


つまり俺は.....昔、病院に行ったのだ。

母さんが倒れた直後に、だ。

だけど診断結果は何も.....以上無し。

俺は.....マトモすぎたのだ。


だから俺は俺自身が大丈夫と思っていた。

しかしそれは気の所為で今となっては母さんの倒れた姿を思い出す。

子供ってそういうもんなんだと今更ながら知った。


そして今になって.....悔しくなる。

そういうのが有るから.....俺は子供には触れられないのだ。


まるで.....雪が溶ける様に.....消えてしまうかも知れないから。

俺は.....目の前の玉木先輩の兄弟と姉妹を見ながら.....その様に複雑な顔で思う。

すると.....こっちの視線に気が付いた様に京子ちゃんと恭子ちゃんが近付いて来た。


「ねぇねぇ。お兄ちゃん。遊ばないの?」


「.....俺か。俺はなちょっと遊べないんだ。ごめんな」


「え?何で?遊ぼうよ。お兄ちゃん」


そう言われてもな、と俺は苦笑する。

思っていると.....向こうから洗濯物を持って来た玉木先輩が戻って来た。

助かったと思いながら、玉木先輩に聞く。


「手伝わなくて大丈夫っすか?」


「大丈夫も何も.....逆に聞こう。君達が大丈夫か。すまないね」


その声と同時にゴホゴホと咳が聞こえる。

向こうに横になっている雄太郎さんもいつの間にか起き上がって頭を下げていた。

俺達は顔を見合わせて、首を振る。

そして笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよ。俺達は」


「.....そうっすよ。俺も」


「そうだね、和彦」


そんな俺達の言葉に.....君達は本当に優しいんだな、私の目に狂いは無かった。

と言いながら、洗濯物を置きつつ俺達に感謝しているという様な顔で向く玉木先輩に、あ、そう言えばと菜美が声を挙げる。


「ところでそれは良いですが.....先輩、小説が大賞を受賞したって仰ってましたよね?あれって.....」


「え?ああ。私の.....恋愛小説だ。それが伝統文庫で受賞したんだ」


「おめでとう御座います!」


その菜美の手を叩いた喜びに笑みを浮かべながら少しだけ恥じらう先輩。

それから後頭部に手を添えながら.....満面の笑顔で有難う、と言った。

八重歯が素敵だな、この人、と思う。


「まあその、それは良いんだが.....お礼をしようと思ったら君達が居るのに洗濯物を.....入れてしまったのを謝る。すまなかった」


玉木先輩の言葉に俺達は顔を見合わせる。

それから.....玉木先輩をもう一度見た。

子供達を見ながら口角を上げる。


「お礼は要らないっす先輩」


「.....え?そういう訳には。今だって子供達の.....」


「俺達はそれがお礼になりました」


「.....へ?」


祭がその様に笑みを浮かべ柔和に話す。

本当に成長したな、と父親でも無いにも関わらず祭の事を思ってしまった。

昔の祭なら絶対に有り得ないしな。

思いながら俺達は立ち上がる。


「じゃあ、帰るか」


「そうだね。和彦」


「そうだな」


目をパチクリする玉木先輩。

そして去ろうとすると、玉木先輩が待ちたまえ!

と声を上げて追い掛けて来た。

俺達は?を浮かべる。


「.....じゃあせめて.....カステラ.....お茶菓子を持って帰ってくれ」


「でも先輩.....」


「良いから。そうじゃ無いと気が済まない」


そして紙袋にカステラを入れて。

俺達に渡してきた。

顔を見合わせて俺達は、じゃあ、と受け取る。


このまま貰い損ねたら失礼かと思う。

思いながら俺は玉木先輩を見た。

柔和な顔をしている。


「.....また学校でな。皆んな」


「.....そうですね。また学校で」


それから玉木一家の皆んなに見送られながら雨上がりの外に出た。

外は.....少し薄暗い感じで有ったが十分に帰れる。

思いながら俺達は顔をもう一度、見合わせた。


「.....じゃあ帰るか」


「そうだね」


「.....ああ」


正直に言ってこれほど楽しいのは久々の様な気がする。

どう楽しいかと言われたら、忘れるぐらいに。

またこの場所には来たい。

思いながら.....俺は街灯を見つつ。

今日の事を思い出しながら歩いた。



その日の夜、自室にて。

今日の事を菜美は楽しかったと言っていた。

祭りもそれなりに楽しんだ様だ

俺はフフッと少しだけ笑みながら勉強をする。

もう直ぐ三年生は生徒進路説明会が有ったりする。


五月になれば.....ゴールデンウィークも有るな。

さてどう活用したもんか。

と思いながら.....窓から外を見る。

少し曇っている。


「.....曇り空か.....それも嫌だな」


そう眉を顰めて呟きながら.....俺はもう一度、空を見る。

で思いを馳せていると。

いきなり電話が掛かって来た。


プルルルル


「おわ!?な、何だ!?」


今時、俺の携帯に電話してくるとか.....ボッチの俺に.....誰だ?

と思いながら鳴っているスマホの画面を見る。

非通知だった。

え?


「.....何だこれ?」


俺は???を浮かべる。

そのまま取り敢えず出てみる。

すると.....少女らしき声がした。

というのも.....俺と同い年ぐらいの、だ。


『.....久しぶりだね』


「.....ちょっと待て誰だお前.....?」


『私だよ。柚木。柚木.....智子』


はて、柚木.....とそこまで言い掛けてハッとした。

その名前はと思いながら、だ。

俺の.....隣の幼馴染の名前だ。

見開きながら俺は直ぐに話す。


「.....お、お前相当に久々だな。四年ぶりぐらいじゃ無いか?」


『そうだね。久々』


「っていうか何で俺の電話番号、知ってんだよ。お前、怖いわ」


『.....えっとね、和夫さん。貴方のお父さんの会社に今日、移籍して来た同僚.....私のお母さんなの。それで.....この電話番号、教えてくれた』


いや.....親父。

教えるなら俺の家の電話にしろよ。

何で.....俺の電話番号教えちゃうのよ?

思いながらも嬉しかった。

と考えながら居ると、智子が言う。


『今度、会って話がしたい』


「.....え?あ.....うん、まぁそれは.....」


とそこまで言っていると。

バァンと音がして後ろのドアが開いた。

そして.....眉を顰めた.....菜美が入って来る。

何だコイツ!?


「和彦。さっきから壁沿いに聞いてたけど誰と話しているのかな?」


「へ?ってかそれ、お前に言う必要有るか?」


「十分に有るけど?じゃ無いと.....それなりに分解するよ?和彦.....?」


「.....」


いや、分解て。

余りの怖さに.....俺は白状した。

幼馴染の女の子だと言う事を、だ。

すると.....菜美は盛大に溜息を吐いた。


「あのね、何で和彦の周りって女ばっかりなの?」


「.....好きでそうなっている訳じゃ無いんだが」


「.....ふーん。まぁ良いや」


その女、絶対に殺す。

と、とんでもない台詞を言った様な気がしたが.....。

小さくて聞き取れなかった。

敢えて聞かずに.....そのまま部屋を出て行く菜美を見送る。


『え?今の誰だったの?』


「.....あ、ああ。まぁその.....友人だ。だから気にすんな」


『うーん。まぁ良いけど.....それじゃあね』


ちょっと用事が有るからね。

と言葉を発した後に電話を切った智子。

俺はそれを確認してから。


ブッへェ.....と数秒ぐらいの息を吐いた。

何でこんなに息が詰まりそうになるのか。

分からないんだが.....。

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