第6話 玉木の家

さて.....俺と祭は取り敢えず玉木先輩の家に行く事になった。

その事については菜美も誘ってみると是非、行きたいと言っていて.....でもその.....何だろうか。


その菜美の行きたいという言葉なんだが.....かなり玉木先輩に対してか?殺意を感じたのは気の所為だろうか。

ニコニコしていたのに殺してやる的な感じだったのだ。

俺は苦笑いを浮かべながら.....それをスルーで流したが。


何だろうな.....あの強烈な殺意は。

考えながら俺は.....午後の授業を受けた。

そして放課後になり.....祭と菜美と俺は待ち合わせをしていた場所に向かう。


門の辺りに玉木先輩が立っていた。

俺達を見掛け笑みを浮かべる。

菜美がかなりビックリしていた。


「え、こ、この人が先輩!?.....え.....小学生みたい.....」


「小学生とは失礼だね。私は仮にも18歳だぞ」


「.....は.....はい.....」


「でもまあ、間違えるのは仕方が無い体型だからな。以後は気を付けてほしい。.....さて、皆んな行こうか」


ダボダボの制服を揺らしながら歩き出す、先輩。

本当に見るからに小学生の様な行進だ。

俺はそれを見ながら空を見る。

空は.....晴れ渡っていた。


でもその空を長時間見ていると.....葬式の日を思い出す。

母さんの.....葬式を、だ。

あの空も晴れていた。

だから.....あまり空を長時間は見れないのは相変わらずだな。

雲が無いのに曇っている様な.....。


「どうした?和彦」


「.....なんでも無い。祭」


「.....そうか?だったら良いが」


「.....」


祭にこれ以上の心配をさせる訳にはいかない。

思いながら俺は真っ直ぐに前を見る。

それから先輩に聞いた。


「.....先輩」


「何だ?」


「ご家族は.....いらっしゃるのですか?」


「.....ああ。私の家族は大家族だからな。母親と父親、私と.....双子の兄弟、双子の姉妹が居るよ」


何故、その様な事を聞いたのか。

それは.....先輩が戦っているから。

少しだけでも.....頑張っている先輩を支えてくれる人は居るのかなって思ったのだ。


でも.....しっかりと先輩を支えてくれる人は居る様だな。

有る意味、良かった。

例えば.....俺みたいに.....母親という支えを失うと.....少しだけでも日常などが.....変動するから。

精神不安で倒れたりもするから。

思いながら居ると.....先輩が俺を見てくる。


「.....でも何故、その様な事を聞いてくるんだい?」


「.....そうですね。俺自身が.....母親を失っているからでしょう」


「.....え?」


その言葉に立ち止まる先輩。

俺はハッとして直ぐに.....先輩を見る。

先輩は.....俺を心配げに見ていた。

俺は慌てて首を振る。


「だ、大丈夫ですよ。.....俺、そんな母親が居ない生活は慣れましたから」


「.....そうなのか?.....そうか。私は有り得ないな.....母親が居ない暮らしなど。強いな君は」


「.....」


玉木先輩は感慨深い感じを見せながら。

お母さんが居る事に.....幸せを感じないといけないな。

そう.....先輩は静かに呟いた。

俺はその姿を見ながら.....声を出す。


「さあ。行きましょう。先輩」


「.....そうだな。和彦」


「.....」


先輩は驚きながら目を丸くして俺を見る。

そして.....柔和な顔をした。

本当に君は昔の私の幼馴染に.....という言葉が聞こえた気がしたが。

俺は目だけ動かして詳しく聞かなかった。



高校からあまり離れてないこの町の三丁目辺りに有った玉木先輩の住まい。

かなり古い家だ。

表札に玉木、と記されている。


築何十年と言える様な、だ。

多分、中古物件だろうけど.....本当にお金が無いのだろうな。

俺は思いながら祭と菜美と共に.....見上げていた。

玉木先輩は苦笑しながら説明する。


「.....雨漏りもする。戸もぎこちなくしか閉まらない。.....だけど良い家だよ。.....さあ、入りたまえ」


「.....はい」


俺達はその言葉に柔和に返事しながら.....笑みを浮かべる。

そしてその家の玄関に向かうと。

唐突にガラッと戸が開いた。

そして.....俺達を見つめ目を丸くする女の子。


「.....ん?.....ただいま。京.....」


「へ?ヒョヒェ!!!!!皆んな!お姉ちゃんが彼氏連れて来た!!!!!」


そんな叫び声を上げる、玉木先輩の妹さん.....え、ちょ。

俺以外にも男が居るんだけど.....。

と思いながらもその女の子は目玉が飛び出そうな反応をしつつ叫びながら家の中に入って行く。


まさかの事に俺は真っ赤に赤面した。

唖然とする玉木先輩。

それから溜息を盛大に吐いた。


「.....す、すまんな。京子はちょっと.....アレなんだ。かなり.....勘違いしやすいんだ」


「あー.....先輩も大変っすね」


「.....そうだな.....」


祭は苦笑いというか苦笑する。

俺もその言葉に苦笑しながら.....玉木先輩の招きで家に入った。

それから.....玉木先輩の家族に会う。

玉木先輩のご家族の皆んなは目を丸くしていた。


「.....その方々は?」


奥に居た、寝ている中年ぐらいの男性が起き上がりながら聞いてきた。

俺は衝撃を受けながら先輩を見る。

先輩は.....俺を見て説明した。


「.....私の父、玉木雄太郎だ。.....肺がんを患っている」


「.....先輩それ.....」


「.....だからこの家は貧乏なんだ。みんな頑張ってくれている。だから今が成り立っているが.....お母さんは高月給を目的にホステスでもある」


「.....そうなんすね.....」


少しだけ.....家を顰めながら.....祭が言う。

そういや祭の.....お母さんは確か.....癌で死んだ筈だ。

少しだけしか聞いた事が無いが。

それで父親と対峙して不良に走った.....だったっけ。


「.....祭。大丈夫か」


「.....ああ、大丈夫だぜ。俺の愚かさを思い出しただけだ」


「.....」


すると俺に子供が抱き付いて来た。

俺はビックリしながら見る。

小学校低学年ぐらいの少女だ。

右の髪の毛を結んでいる。


「ね!お兄ちゃん、美鶴お姉ちゃんの彼氏なの!?」


「.....いや、ちょ、彼氏じゃ無いよ!?」


「えー!じゃあ何で来たの!?」


コラ!京子!と先輩が怒る。

そしてその少女を俺から引っぺがした。

それから俺達に先輩は向く。


「.....すまないね。適当に座ってくれ。お茶を淹れてくるから」


「はい」


「あ、はい」


俺達は返事しながら遊んでいる子供達の間に座った。

子供達は俺達を狙う様な仕草を見せる。

それからニヤニヤした。

う、うーん、俺達、生きて帰れるだろうか.....。

思いながら祭と菜美を見ながら苦笑した。

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