第5話 新人ノベル作家、玉木

説明したかどうかは分からないが。

俺と祭は通っている学校のクラスではあまり良い歓迎はされてない感じだ。

何故かと言われたら俺の友人の祭の事が有るからだ。

その為に俺達は.....クラスでボッチに近いのだ。

それは.....無視に近いと思う。


なので体育でも俺達のコンビだけだ。

もし俺が祭から離れれば.....全ては解決するのかも知れない。

でもこの現実は俺と祭は全く気にしてない。


イジメが起こっているとかそういう事では無いので、だ。

それに万が一そんな事が起こったら多分.....祭がキレるだろう。

祭は抑止剤になっているのだろう。


祭はきっとイジメが起これば.....自己犠牲にして俺を守る。

それは避けなければと思いながら俺は祭を目だけ動かして見て.....落とし物と思われる目の前の小説に目を戻す。

祭が横で立ちつつ聞いてきた。


「.....それ小説なのか?」


「.....小説だと思うな。.....だけどこれは.....発売されているのを見た事ない。何だろうな.....」


二年B組。

俺達のクラスだがその昼休み。

目の前の原本と思われる小説を見ながら俺は顎に手を添える。


印刷は俺の義妹が勤めてイラストを提供している有名な伝統文庫では有る。

だが販売はされていない本の様に見えるのだ。

それを思いながら.....祭に言葉を発する。


「.....これは原本に近い物かもなって思ってな」


「ん?原本っちゃなんだ」


「.....印刷前の.....見本みたいな感じの本だよ。発売されてない本でこの本でOKなら本を発刊するみたいな」


「.....ああ、成る程な。.....で、それをあの先輩が持ってたと。何でだ?」


それはちょっと分からない。

想像として.....はあの先輩がラノベ作家の可能性も有り得るが.....それで簡単に当て嵌めたら失礼だろうしな。


全く分からないな.....と思いながら教室の外を見ると。

何故かクラスの男子が外を見ていた。

蜂が巣箱に群がる様に、だ。

俺は?を浮かべながら見つめる。


「.....何やってんだアイツら」


「.....そうだな。祭.....ってあれ?」


同じ様に外を見ると.....廊下に少女が立っていた。

つーか、俺の義妹だ.....って、え?何やってんだ!?

思いながら俺は直ぐに立ち上がって教室から出て行く。

すると菜美も俺に気が付いた様にパアッと顔を明るくして駆け出して来る。


「.....和彦.....!」


「お前?!何だよ!?この場所で何をやっているんだ!?」


「あ、えっとね。.....お弁当作って来たから食べて」


「..........え!?」


予想外の言葉に俺は相当に衝撃を受けた。

まさか.....菜美が俺に弁当!?

これまで作って来た事は無いのにか!?

思いながら.....唖然としたままキャラ物の青い弁当袋に入った弁当を受け取った。


周りの男子達が俺に対してザワザワと会話している。

その男子達の代わりにと言えるかも知れないが祭が教室から出て言ってきた。

菜美を見ながら、だ。


「義妹ちゃんか?」


「.....そうだな。.....まぁちょうど良いか。紹介するよ。俺の義妹、菜美だ」


「.....初めまして。菜美です」


祭はその初めましての言葉に顔を赤く染めながら目をパチクリした。

それから.....俺を見てもう一度、菜美を見る。

そ、相当の、び、美少女じゃねぇかという感じの目をしている。

それから祭は金髪の後頭部に手を添えた。


「.....そ、その。.....可愛いっすね。俺は.....飯草祭って言います。シクヨロっす」


「はい。宜しくお願いします。祭さん」


アイドル並みの笑顔を見せる、菜美。

そんな言葉を受けながら俺の首に腕を回して.....汗を流す祭。

それからヒソヒソ声で話す。

何だよあれ、的な感じで、だ。


「.....お前の義妹がこんな国民的な美少女に近いものとは思わなかったぞ!和彦!光の輪すら見えるぞお前!」


「え.....うん、まぁ.....紹介するのも面倒だったからな。すまん」


「.....いや.....驚愕だわ.....心臓バックバクだわ.....マジパネェよこれ」


そして?を浮かべて立っている菜美を見る祭。

モジモジしていた。

菜美は驚きながら見る。

それを苦笑しながら見つつ俺も立ち上がって菜美を見つめる。

そのまま俺はお礼を言う。


「.....有難うな。菜美。.....美味しく貰うわ」


「うん。.....美味しかったら良いけどね。じゃあ。待たせているから」


そして菜美は手を振って笑顔で去って行く。

男子生徒達は名残惜しそうに見ながら。

一部の生徒は俺を見ていた。

俺達はその目線から逃れる様な感じで教室に入る。

祭が弁当箱を見ながら言葉を発した。


「.....弁当か.....俺も七色に聞いてみるかな。作ってくれるかどうか」


「.....それ良いかもだな」


「.....じゃあ俺はコンビニで買ったパン食うわ。貴重品を味わって食えよ」


その言葉に椅子に腰掛けながら祭に頷く。

弁当箱をゆっくりと開ける。

そこには華やかな料理が入っていた。


ハンバーグとか卵焼きとかタコさんウィンナーとか。

って言うかこんなに料理出来るのかアイツ。

初めて知ったよ.....。


「.....ってかすげぇなそれ」


「.....そうだな。.....いただきます」


「あ、そこに有る、唐揚げくれねぇか?」


「あ?ああ、まあ良いぜ」


祭に唐揚げを食わせつつ俺は有難く菜美の飯を食う。

そしてご馳走様と言ってから。


時間が有りそうだったので玉井先輩を探す事にした。

忘れ物を届けようと思って、だ。

そして三階の三年の教室に向かった。



「.....玉木さん?そうだね.....この教室に居るよ」


目の前の眼鏡の男のクラス委員らしき人に聞いてから玉木先輩の居ると思われる教室にやって来た。

それから.....探すと確かに居た。

椅子に腰掛けて机に向いて。

そして.....友人?と話している、玉木先輩を、だ。


「.....居たな」


「そうだな」


祭に返事しながら俺達は教室に入ると。

玉木先輩がこっちに気が付いた様で俺達を見ながら目を丸くする。

三年の先輩達が皆んな俺達を見る中。

俺はそれを差し出した。


「.....落とし物っすよ。玉木先輩」


「.....あ、こ、これ.....わざわざ届けに来てくれたのかい?」


「そうっすね。大切な物だと思って」


俺の言葉に涙で目をウルウルさせながら、やっと.....戻って来た、と玉木先輩は呟いて.....本を見つめた。

俺はその姿に?を浮かべる。

思っていると俺と.....祭を見て玉木先輩はお礼を言った。


「有難うね。.....これはとてもとても.....とっても大切な本なんだ」


「.....でしょうね。それ.....見本の本みたいですから」


「.....これは私の本だ。ラノベだが.....デビュー作.....と言える」


「.....デビュー作って.....」


涙を拭いた先輩。

そうだ、私の家は.....貧しい家庭で、チラシに書いていたりした物をなけなしのお金で買った小説用原稿で書いてそれがようやっと大賞になった応募作なんだ、と再び涙を零しながら言う、先輩。

俺は.....その言葉を受けて、ふと、父さんを思い出した。

借金を押し付けられた.....父さんの俺が幼かった頃にふと言った言葉。


『.....貧しかったからな。家が.....だから借金まみれになったんだ』


俺は目を閉じた。

そして.....目を開けて先輩を見る。

先輩は自らの胸に本を押し付けていた。

俺はそんな先輩に頭を下げる。


「.....俺.....すいませんでした。.....今までその本を届けられず」


「.....いやいや、良いんだ。有難う。この大切な本が戻って来てくれただけでも有難いよ。君達みたいな優しい人達も居るんだな。この学校には」


先輩は涙を拭きながら満面の笑顔を浮かべた。

その姿は.....純真無垢な笑顔で俺もついつい笑みを浮かべたくなる。

そんな中で時計を見るともう直ぐ授業が始まる時間になっている。

俺は直ぐに先輩に頭を下げて言葉を発した。


「.....じゃあ、俺達、このまま戻ります。それ届けに来ただけですから」


「あ、待ちたまえ」


「.....はい?」


声を掛けられて俺は首を傾げて振り返る。

すると先輩は本を机に置きながら.....和かに俺達に向く。

もしで構わないのだが、と言いながら、だ。

そして先輩は核心部分を話す様な雰囲気を見せた。


「.....もし良かったら私の家に来ないか。お礼がしたい」


「.....え?」


「そこの.....君もだ」


「え?.....俺もすか?良いんですか?」


目を丸くして見合う俺達。

だがそんな玉木先輩が言葉を発してから他のクラスメイトが止める様に話した。

軽蔑の眼差しを向ける、玉木先輩のクラスメイトの先輩達。


その事に祭が喧嘩腰で警戒する。

俺も.....少しだけ溜息を吐こうとした、その時だ。

先輩が周りのクラスメイトを牽制した。


「.....あのな、人を見かけで判断するのか?それはあまり好きじゃ無い」


「.....でも.....飯草って確か不良だけど.....美鶴、危なくない?」


蔑視の眼差し。

祭が眉を顰めて.....このクラスもか、と呟く。

だが.....そのクラスメイトに大丈夫と言い聞かせる玉木先輩。

それから.....前を見て俺を見てくる、先輩。

そして笑みを浮かべた。


「大丈夫。飯草くんの事はかなり知っている。不良を辞めようとしているとね。それに君達は良い人の様だ。だから.....招いた。私の判断でも良いだろう」


「.....先輩.....」


「.....すまないな。このクラスは少々.....変に真面目で.....それなりに不良生徒に過敏でね.....申し訳無い」


俺と祭は顔をまた見合わせた。

それから.....頭を下げる、先輩を見る。

心の底の玉木先輩の良い点を見た気がする。

俺は思いながら.....柔和に先輩を見た。

祭も.....これだったら落ち着くだろうとも思いながら、だ。

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