第5話 弔い
その女は、交通事故で亡くなった恋人を弔うためオイソレ山へ来たのだと話した。
「まぁ、確かにこの山には、昔からそういう言い伝えがあることを否定はしないけど」関原は言った。
しかし、そんなのは死者には届くものではないし、不毛な行為でしかない。死者をいくら讃えたり、周りの者が悲しんでも、一番悔しいのは、死者の方のはずだ。例えば、「あの人は私の心に生きています」などとそれらしく告げても、それは、思い出として生きているだけで、死者は客観的には死んでいる。
……このようなニュアンスで意地悪く告げたところ、弔い行為というのは、死者に届くことはなくても、生きている者たちがむしろ慰めを求めて行われるある種の癒しの儀式でもあるため、むやみに否定されるものではない、と思い直し、それなら、といつもの定型文句を言った。
「Aコースには行かないほうがいい。Bコースにしましょう」
「え、どういう意味ですか?」
「Aコースの方が難所が多いんだ。見たカンジ、登山にはあまり慣れていない様子だし、初心者にちょうどいいBコースにした方が無難です」
適当なウソをついてBコースへと誘導する。
「それでは、Bコースにします。ご忠告ありがとうございました」
尾崎と名乗った二十代ほどの女は、Bコースへと足を向けた。
地震が起こった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます