いつかは
ダイニングの椅子からキッチンを見渡す。
さすがに城のようなギルドのキッチンということもあり、そこいらのものとは広さが違う。とはいえ、まともに使うのは今回が初めてだ。
「チェリーコード、俺も手伝おうか?」
「ううん、気にしないで。バースはそこでくつろいでいて」
しばらくチェリーコードが料理している姿を見ていなかったが、案外手際はよかった。俺の知らないところでしっかり勉強しているのだろう。
それより何より――
「……可愛いな」
髪はポニーテールに結い上げており、真新しいエプロンを着こなしている。捲った袖からは細い腕が伸び、華奢な色気を醸し出している。
雰囲気が変わるとドキドキするもんだな。ずっと一緒にいるから見慣れたと思ってたけど、改めて見るとやっぱ可愛い。
いつもと違うチェリーコードの魅力に見惚れているうちに、料理の皿がダイニングへと運ばれてきた。
「できたわ。久しぶりに作るからあんまり自信はないけど」
「いや、美味しそうだよ。いただきます」
スープを掬い、息を吹きかけて冷ましてから一口。
味は薄めだが、普通に美味しい。レストランの料理とはまた異なる温かさがある。
無言のまま食べ進めていると、チェリーコードは顔を綻ばせた。
「ふふっ、腕は鈍ってなかったみたいね。自信もついたし、これからは毎日料理しようかしら」
「ああ、頼むよ。今度は裸エプロンで」
綻んだ顔が一瞬にして真っ赤になる。
「ばっ、馬っ鹿じゃないのっ! そんなことするわけないでしょっ!」
「はははっ、残念。じゃあ、メイド服とかは?」
「そ、それくらいだったらいいけど……」
新婚夫婦のようなやり取りをしながら、テーブルの上は片付いていった。
そういえば、俺の当面の目的はチェリーコードを幸せにすることだった。俺はチェリーコードを幸せにできているだろうか。
口を開きかけて、やめた。
まだ早い。幸せと言い切るにはまだ早い。
俺がチェリーコードに見合う男になったら、その時は――
新たな決意を胸に秘め、夜は深まっていった。
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