カノジョ
溜まりに溜まっていた依頼をこなし、ギルドのドタバタも静まってきた。
バーサーカーに戻ったことで、銃と魔眼も本来の能力を遺憾なく発揮している。むしろ、登山で鍛えられたおかげか、以前より威力が増しているような気がする。
しかし、あれからあることが胸に引っかかっている。レティのことだ。
レティさんは俺に殺してほしいと言った。あの時は断ったけど、そもそも不老不死のアンデッドなら殺し切れなかったかもしれない。
今まで散々殺しをやってきて心は慣れていたはずなのに、レティは何故か殺せなかった。
多分、俺はレティさんを傷付けたくなかったんだと思う。だから、殺したくなかったんだと思う。どうしてかはわからないけど、俺はレティさんに何か特別な感情を抱いている。
「ねぇ、バース」
「…………」
「バースったら!」
「……ん」
「大丈夫? ぼーっとしてるみたいだけど」
「んー、ちょっと気にかかることがあってさ」
「レティさんのこと?」
「ああ」
「気にしすぎはよくないんじゃない? もう、会えないんだし」
確かに、レティとはもう会えない。能力を取り戻した今、レテイシア山に用はないし、わざわざもう一度あのきつい登山をしようとは思わない。俺の中にある開かずのドアを開けないためにも忘れてしまった方がいい。
「そうだよな。よし、腹も減ってきたし、そろそろ夕食にするか。今日はどこで食べる?」
「ああ、それなんだけど……今日は私が作るわ」
「えっ、チェリーコードが?」
「何よ、文句ある?」
「いや、だって、しばらく料理してなかったじゃん。腕が鈍ったんじゃないか」
「そうかもね。でも、一応料理の勉強はしてるんだから」
「へぇ、意外だな。料理には興味がないと思ってた」
「料理くらいちゃんとできた方がいいでしょ。か、カノジョなんだし……」
「うん、なんて?」
「なっ、なんでもないっ!」
聞こえないふりをしたことを後悔しつつ、俺は足早に先を歩いていくチェリーコードを追いかけた。
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