下山

「最後に二人まとめてよしよしさせて」


 レティに優しく頭を撫でられ、俺とチェリーコードは並んで苦笑した。

 俺たちに山を下る体力は残っていないが、幸い獣のボスが背中に乗せてくれるとのことだった。レテイシア山の環境に慣れている獣のボスなら、一日もかからず下りることができるだろう。


「レティさん、お世話になりました。こう言うのもおかしいかもしれませんけど……お元気で」


「ええ。あなたたちも達者でね。さようなら」


 レティの長い抱擁をやり過ごし、獣のボスの背中に跨る。

 レティさんとはもう二度と会うことはないかもしれない。レティさんが開かずのドアの鍵を持っているとすると、俺の記憶にはずっと穴が開いたままだ。

 考えないようにしようとすればするほど気になってしまう。もどかしい。


「あの、レティさん――」


 言いかけた言葉はレティに届かず、禍根の鍵を残して別れとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る