その願いを殺す

「私のこと、殺してくれないかしら?」


 フラッシュバック。

 そうだ、海辺の街――レアルタだ。死にたがりのクローディア。結局、あの時は手を下さずことなきを得た。

 そもそもクローディアは自ら死を望んだわけではなかった。クロードが他の人間を傷付けることを怖れたからだ。

 だが、レティは違う。

 レティは不老不死の苦痛に耐えかねて自ら死を望んでいる。混じり気のない、純粋な願いだ。

 俺は首を横に振った。


「お断りします」


「あら、どうして?」


「理由がないからです。レティさんを殺しても俺は得をしない」


「損得勘定の殺しなら、私は得をするわ。これはあくまでもお願い。必ずしもあなたが得をしなくてもいい。あなたの殺しは罪深いエゴよ。殺す相手のことなんて考えていない。自分の感情と目的に従順。そんな殺し、都合がよすぎると思わない?」


「それは……と、とにかく、俺はレティさんを殺したくありません! 俺は殺したくない人は殺さない! それじゃ駄目ですか!」


 開き直って詰め寄ると、レティは噴き出した。


「ふふふっ、忘れて。大人げなかったわね。困らせるつもりはなかったんだけど」


「……力になれなくてすみません」


「謝ることはないわ。私の方こそごめんなさい。そうよね。私が楽になれたとしても、今度はあなたが苦しむことになるのよね」


 ――またあの目だ。


 無性に胸が痛くなる。不透明な記憶が揺らぎ、激しい頭痛をもたらす。


 ――もしかして、俺はレティさんのことを知っているのか?


「ぐっ!?」


 頭痛が一線を越え、脳内が真っ白になる。


「あっ、バース、血が!」


 気がつけば目尻から血涙が滴り落ちていた。

 チェリーコードのおかげで頭痛は治まったが、胸に残るしこりは消せなかった。

 余計なことを考えるな。もう、レティさんのことは忘れよう。

 チェリーコードの支えを借りながら、俺はさっさと帰り支度を始めた。

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