空中デート

 リバースを撒き、俺はチェリーコードを抱えたままビルとビルの間を滑空していた。

 風が気持ちいい。鳥になったような気分だ。


「バースの馬鹿っ! 飛ぶなら飛ぶって言っておきなさいよっ!」


「怒るなよ。いい作戦だったろ」


「運がよかっただけよ。バースはいつもいつも無茶ばっかり」


「はははっ、バーサーカーの性かもな。でも、こうして空を飛んでいるとそんなことも忘れてしまう。ほら、景色もいいだろ」


 ビルを超えるたびに移ろう夜景。改めて横目を振ると、チェリーコードと頬が触れ合いそうな距離だ。

 俺はあえて横を向かなかった。振り向いてしまえば羞恥で墜落してしまいそうだったから。


「ねぇ、バース……俺の女って――」


「わあああああっ! 言うな! あれは流れで言っただけで!」


「じゃあ、嘘だったの?」


「嘘って言うと嘘になるけど……とにかく、あんなやつにチェリーコードを渡したくなかっただけだ」


 顔が熱くなる。こうしているとチェリーコードの体温や柔らかさが、まさに手に取るように感じられる。

 俺はチェリーコードのことが好きなのかもしれない。素直に好きだと思える。


「な、なんかデートみたいね」


「そ、そうだな。まあ、たまにはこういうのも悪くないか」


 思えば、チェリーコードと出会ってから依頼や殺しばかりこなしてきた。この異世界で娯楽に興じるということがなかった。

 きっとチェリーコードも疲れている。こんなアクロバティックなデートじゃなくて、世間一般的なデートをした方がいいに決まっている。


「このまま街を出ようか。リバースを倒したら、しばらく依頼は休んでどこか海が見える街で暮らそう」


「そうね。こ、今度はちゃんとしたデートに誘ってよね」


「ああ、もちろん。今度はちゃんと地上でデートしよう」


 月明かりの下、俺たちは空中デートを夜が明けるまで楽しんだ。

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