死闘の手前

 夜が深まる。

 月明かりがいつにも増して降り注ぐ夜だった。

 視界は良好。が、スナイパーライフルを遠隔から操作しなければならないため、いつものように百発百中というわけにもいかないだろう。多少なり訓練したとはいえ、相手は無機質な的ではない。本気で殺しにかかってくる敵だ。


「ねぇ、バース」


「なんだ?」


「なんでわざわざ敵を待ち伏せしなきゃいけないのよ? 下手をすれば殺されてしまうかもしれないのに」


「逆だよ。こうして待っていれば奇襲されないだろ。少しくらい話をする余裕を作って、しっかりエイムしなきゃな」


 チェリーコードの顔に翳が差す。


「バースは死ぬのが怖くないの?」


 俺はあくまで笑ってみせた。


「もちろん怖いさ。でも、君がいれば大丈夫だろ」


「そ、そうね。バースは私がいないと駄目なんだから」


 月にうっすらと雲がかかる。

 刹那、屋上のドアが吹き飛ばされた。


「相変わらず派手な登場だな、リバース」


「ふん、潔いな、バース」


「そんなに俺を殺したいか? 俺を殺したら満足できるのか?」


「どうだろうな。少なくとも、お前は俺にとって目障りな存在だ。それに、何もお前だけが目的じゃない。その女」


「チェリーコードか?」


「そうだ。俺がこの世界を手に入れるにはその女がいる。お前を殺し、そいつを俺の女にする」


「それは叶わないな。チェリーコードは俺の女だ」


 銃声。

 外した。リバースが前に出る瞬間を狙ったが、やつのスピードは俺の想像を上回った。


「はっ、仕込みはバレてんだよ!」


「チェリーコード、飛ぶぞ!」


「えっ、ちょっ、嘘でしょっ!? きゃあああああっ!!」


 俺はチェリーコードをお姫様抱っこし、人工翼を展開しながら屋上から飛び下りた。

 昨日、リバースが使ったのも人工翼。屋上から逃げるには最適な代物だ。

 しかし、リバースも背後から人工翼で追ってきていた。


「殺し合いに二度目はねぇ! 大人しく死にやがれ!」


「それはこっちの台詞だ。大人しくしていてくれ」


 スマホをタップする。弾丸は風と重力の影響を受けながら飛び、リバースの人工翼に直撃する。

 残念ながら落下させることは叶わなかった。リバースは緩やかに落ちていき、ビルの窓ガラスを突き破って暗闇の中へと消えていった。

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