怪物

 トップランカーまであと一歩というところまで迫った。

 何人も殺しているうちに、俺は罪悪感をなくした。これが悪いことなのかはわからない。だが、今はそれでいい。俺は俺の、俺たちの目的を果たすだけだ。

 俺が怖れているのはただ一つ。心までバーサーカーに支配されやしないか、ということだった。

 いずれ心をなくしてしまうのではないか。殺戮を楽しむようになってしまうのではないか。現にその片鱗が俺の脳内をちらついている。

 とはいえ、不思議と俺が不安になることはなかった。バーサーカーの特性か、殺しの邪魔になる負の感情は濃度が薄かった。

 今回の依頼も犯罪者の抹殺。俺は淡々と銃を構え、トリガーを引く。

 弾丸がターゲットの頭部を穿ち、椅子から力なく崩れ落ちる。

 その時、俺は違和感を感じた。


「死体……あれはフェイクか」


 ターゲットは最初から死んでいた。弾丸が当たった衝撃で倒れたという感じだった。

 直感が危機を察知する。


「チェリーコード、はめられた! ここから離れるぞ!」


 チェリーコードの手を引いて立ち去ろうとした時。

 屋上のドアが勢いよく吹き飛び、紙一重のところでなんとか避けた。


「やっぱここか、バース!」


 奥から現れたのは白髪の男。瞳は金色に爛々と光り、顔には不敵な笑みを張りつかせている。

 どうして俺の名前を知っている? いや、今そんなことはどうでもいい。この男からは強い殺気が感じられる。


「バース、知り合い?」


「なわけないだろ。あんた、誰だ? 俺のことを知ってるのか?」


 男は唇の両端を吊り上げ、尖った歯を剥き出しにした。


「有名だぜ。てめぇは目立ちすぎた。てめぇみたいなバーサーカーがいるとむかつくんだよ。目障りだ」


「おいおい、嫉妬か?」


「ふん、思い上がるな。殺しってのはな、こうやってやるんだよ!」


 拳が髪を掠める。風圧が身体のバランスを崩させ、そこにすかさず二発目が飛んでくる。


「ぐっ!?」


 カウンターを仕掛けたが、俺の拳は男の頬を掠っただけで蹴りを食らってしまった。

 幸い腕で防いだものの、骨は完全に折れ意識が飛びそうになる。


「ちっ、掠っただけでこれか……今の蹴りは挨拶代わりだ。俺の名はリバース。また会おうぜ」


 リバースと名乗った男はそう言い捨てて消えた。

 ビルの隙間を飛ぶ怪鳥のようなシルエットが遠ざかる。意識が遠のく。

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