杞憂と気障

 何人殺しただろう。

 俺たちはベアトリーゼが回してくれる依頼をこなし、着実に上位ランカーになりつつあった。

 順風満帆な中、チェリーコードから話があると切り出された。

 場所はシェスティーナで一、二を争う人気レストラン。何週間も予約に空きがない状態だったが、名前を告げるとあっさりパスしてしまった。


「それで、話って?」


 飲み物を注文した後、俺は促した。

 チェリーコードはしおらしく俯けていた顔を上げ、一呼吸置いてから口を開いた。


「うん、あのね……バースはさ、私とパーティーを組んでよかったと思う?」


「なんだよ、唐突に」


「私って、バースに必要かな?」


 ――ああ、初めて出会った時の顔だ。


 多分、チェリーコードは俺に捨てられるんじゃないかと怯えている。一人になって路頭に迷うことを怖れている。

 俺は笑った。対照的に、チェリーコードはむっとした表情になった。


「私、真剣よ」


「いや、ごめん。でも、おかしくてさ」


「何がおかしいのよ」


「杞憂なんだよ」


「えっ?」


「あのな、第一君をパーティーに誘ったのは俺なんだぜ? 必要じゃなかったら誘ってない」


「でも……私、何もできてないわ。ヒーラーだから戦えないのはわかっていたけど、最近はまともに回復もしてないもの。全然役に立ててない……」


 長いまつ毛が伏せられる。

 俺は手を伸ばして指先で白い頬に触れた。


「馬鹿だな。役に立つとか役に立たないとか、そんなのどうでもいいんだよ。君には俺のそばにいてほしいんだ」


「どうして……?」


「俺だって一人になりたくないからさ。それだけじゃ駄目か?」


 タイミングがいいのか悪いのか、頼んでいた飲み物が運ばれてきた。

 チェリーコードはくすりと笑った。


「ふふふっ、いいわ。一人は寂しいし、一緒にいてあげるわ」


「なんで急に上からなんだよ」


「とにかく、乾杯しましょ」


「はぁ……まあ、いつもの調子に戻ってくれたならいいや」


 グラスを交わし、甲高い音が響く。


「……ありがと、バース」

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