射撃訓練
馬車に揺られて一時間。
トンネルと森を抜けたら近代的なビル群が見えてきた。恐らくあの街がシェスティーナだろう。
馬車がビル群の中を駆け出すと、時代錯誤にも似た違和感を感じた。
しばらくして、馬車は一際規模が大きいビルの前で止まった。初めは宿屋かと思ったが、中に入るとギルドであることがわかった。
受付で長方形の重厚なケースを受け取る。
中身を確認すると、スナイパーライフルとその備品が型にきっちりとはまっていた。
「暗殺するバーサーカーなんて聞いたことないぞ……」
「まあ、いいんじゃない? 遠くから狙撃する方が攻撃されにくいし、体力の少ないあなたに向いているわ」
「そうは言っても、当てられなきゃ意味ないよな。俺、銃なんて触ったことないし」
「確か、ギルド内に射撃訓練場があったはずよ。そこで練習してみたら?」
「そうだな。魔眼とやらを試してみるか」
受付嬢の案内で地下へと通された俺たち。そこには人間を模した的が陳列されており、人間を解体する工場のようでなんだか気味が悪かった。
スナイパーライフルを型から外す。重量感と硬質感が手のひらに伝わる。
スコープとマガジンを本体に取り付け、格好だけ構えてみる。
「最新式のスナイパーライフルか」
振り返ると、迷彩服姿の女が立っていた。射撃訓練場の教官だろう。
「最新式のスナイパーライフルはリロードの必要がない。マガジン内で弾丸が生成されるため、ほぼ無限に射撃ができる。己の精神力が続けばの話だがな」
「どういうことですか?」
「弾丸を生成するたびに精神力が削られるということだ。弾丸生成のエネルギー源は精神力、すなわち精神力がなければ銃としての機能は果たさない。まあ、スナイパーライフルであれば連続で撃つことはあまりあるまい」
「精神力がなくなるとどうなるんですか? 死んでしまうとか」
「死には至らないが、気を失ったり動けなくなったりはする。気に病むな、大抵の銃にはリミッターがかけてある。精神力が限界を迎えたらトリガーが引けなくなる。さあ、もう一度構えてみろ」
教官に従ってもう一度銃を構える。スコープを覗き込み、トリガーに指をかける。
「構えは悪くない。衝撃を逃がしやすい構えもあるが、まずは自分に合った構えを探すことだ」
しかし、教官の声は俺の耳には届いていなかった。
今、俺の視界にはこれから撃ち出される弾丸の動きが見えていた。
見える。空気の流れ、弾道、重力。トリガーの指をわずかに力ませると、銃の呼吸が聞こえてくるようだった。
これが魔眼……この近距離ならあの的に当てられる。いや、外しようがない。必中させられるという絶対的な自信がある。
俺の呼吸と銃の呼吸がぴったりと合う。瞬間、トリガーを引き絞る。
タイミングは完璧。あとは弾丸が的の心臓を貫いて終わり。そう思っていたが――
轟音と共に的が弾け飛んだかと思うと、弾丸は壁を大きく抉り抜いた。衝撃波は亀裂となって壁を奔り、ギルド自体をぐらぐら揺らした。
「しまった……危うくまたトンネルを開通させてしまうところだった」
呆然と立ち尽くしていた教官だったが、はっとして俺の肩をたたいた。
「馬鹿者、やりすぎだ!」
「うっ!?」
デジャブを感じながら、俺の意識は暗転した。
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