初めての依頼
正式にパーティーを組んだ俺とチェリーコード。
まずやるべきことは装備調達……といきたいところだが、所持金はゼロだ。今日の夕食代や宿泊費もない。つまり、まずは依頼をこなすしかないだ。
「うーん、どの依頼も報酬が安いな」
スマホで依頼の一覧を見てみる。難易度が低い順に表示するが、どれも大した稼ぎにはならなさそうだ。
「どうしようかしら。簡単な依頼だと効率が悪すぎるし、かといっていきなり難しい依頼に挑戦するのもリスキーだし……私たちにちょうどいい依頼を探さないとね」
「そうだな。それにしても、難易度の高い依頼には犯罪者を殺すのもあるんだな。なんだか物騒だ」
「逆よ。犯罪者を殺すことで物騒じゃなくなるんじゃない。一人の犯罪者を殺すことで何人もの命が救われるなら、選択の余地はないでしょ」
確かに、それが正義だ。正義に犠牲は付き物だ。完璧な正義などどこの世界にも存在しない。だが、もし自らの手を汚さなければならないとしたら――
思考が傾きかけたところで、俺はぶんぶん頭を振った。
難しいことを考えるのは後だ。今は俺たちに合った依頼を探すことが先決だ。
「おっ、これなんてどうだ? トンネル開通」
「えー、初めての依頼なのに華がないわね」
「そんなこと言ったって、リスクはない方がいいだろ。割には合わないかもしれないけど、初っ端から死んでしまうよりはましだ」
チェリーコードは不満げだったが、渋々依頼を受けることを了承した。
スマホのマップを開くと、幸いなことに工事の現場は近くだった。
現状、徒歩以外に移動手段がない。金がない以上、この街を走り回っている馬車には乗れない。
街から出たら、景色ががらりと変わった。華やかな雰囲気はなくなり、左右の木々が天上を覆っているのも相まって暗いような気がした。
「ああ、あそこだな。しかし、馬鹿でかい山だな。これじゃ開通するのに何年かかるかわからない」
「実際何年もかかってるわ。割に合わないから人手も少ないし、いつか放置されちゃうかもね。はぁ、この山のせいでティルナに行くのも一苦労だったわ」
「ティルナ?」
「さっきの街のこと。このトンネルはティルナと発展途上のシェスティーナを繋げるためのものよ」
「なるほど、この山があるせいで遠回りしないといけないのか」
「そういうこと。じゃあ、頑張ってきてね、バース」
「えっ、君は手伝ってくれないのか?」
「力仕事は男に任せるわ。それに、私、ヒーラーだし」
「えぇ……」
木に背中を預けて座り込むチェリーコードにうなだれつつ、俺はとぼとぼ現場監督らしき男の元へと向かった。
男は筋肉質で背が高く、俺なんかでは太刀打ちできそうもなかった。小突かれただけでも死んでしまいそうだ。
「あのー、依頼を見て来たんですけど」
「おう、新入りか。仕事は簡単だ。ひたすらこれで山を掘り進めるだけだ」
ぶっきらぼうに男から渡されたのはツルハシ。山と交互に見比べるとなんだか気が遠くなってきた。
スマホはあるのに、機械はそこまで発展していないらしい。やれやれ、異世界が現実世界より不便だとは思わなかった。
げんなりしながら山に空いた穴の中を進む。外からでも奥の壁が見えるくらいだ、開通はまだまだ先になりそうだ。
ツルハシを振り上げる。その先端が岩肌に当たった刹那――
「あれ……」
先が見える。奥の方から光が漏れている。
唖然としていると、現場監督の男が走ってきた。
「よくやったぜ、あんちゃん! あんた、ただ者じゃねぇな。クラスは?」
「バーサーカーですけど……」
「よし、あんたは使えそうだ。しばらく俺の下で働きな。仕事には困らせないぜ」
「ど、どうも……」
「今日の仕事は終わりだ。報酬は弾むぜ、今日はいいものを食いな」
釈然としないながらも、初めての依頼は成功したようだった。
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