束の間の休息

 依頼の報酬を受け取った後、俺とチェリーコードはティルナの街に戻って宿屋を押さえた。


「こんな豪華な宿屋に泊まれるなんて夢みたい。バースがいなかったら確実に野宿コースだったわ」


「よかったな。俺もびっくりだよ、俺にこんな力があるなんて」


「さすがはバーサーカーね。何年もかかるトンネル開通を一瞬でやってのけちゃうなんて。しばらく仕事にも困らなさそうだし、なんとかなりそうね」


「そうだな」


 ソファーに深く身体を沈め、俺はふっと息を吐いた。

 異世界に転移して、俺は体力と引き換えに強大な攻撃力を得た。可愛い女の子とパーティーも組めて、展開的には最高のはずだ。


「なんだかなぁ……」


 それでも、俺の気分は冴えなかった。なんというか、今のところこれといった目的がない。これでは現実世界と大差ない。

 俺が現実世界でほしかったのは幸せじゃない。生きる目的だ。つまらない生活にはもううんざりだ。異世界で、この力で、俺の人生を変えてみせる。

 瞼を閉じかけると、チェリーコードがベッドから立ち上がった。


「夕食にしましょ、お腹が空いたわ。パーティー結成の記念日だし、いいレストランに連れていってよね」


「はいはい、お嬢様。なんか俺の扱い、荒くなってないか?」


「気のせいよ。ほら、眠くなる前にさっさと行きましょ」


 チェリーコードに手を引かれ、俺は夜の街へと繰り出した。

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