鑑定結果
チェリーコードの案内で花畑から街まで歩いてきた。
街並みはヨーロッパを思わせる光景だった。
敷き詰められた石畳、連なる木組みの家々。すれ違う通行人は剣や弓を背負っていたり、重厚な鎧を着ていたりする。物騒に思えそうなものだが、何せ皆が皆ファンタジーの登場人物のような格好をしているのだ。さほど違和感はない。
「着いたわ、ここが鑑定屋よ」
チェリーコードが足を止めたのは、通りから少し奥まった路地裏のぼろ屋の前。
とても繁盛しているようには見えない。クラスを鑑定する必要があるのは一度きり。需要が少ないのは当然と言えば当然だ。
異世界はもっと楽しい場所だと思っていたが、実はそうでもないのかもしれない。今のところ、ヒーラーが邪険に扱われていたり鑑定屋が寂れていたりと世知辛い。
俺は立てつけの悪いドアを無理矢理開けた。
「あのー」
「あら、いらっしゃい。久しぶりのお客さんね、嬉しいわ」
本や書類が山積みになっているデスクから出迎えてくれたのは、意外にも色気のあるお姉さんだった。鑑定屋というくらいだから貫禄のある老人を想像していたが、それはあまりにも見当違いだった。
「俺のクラス、鑑定してもらってもいいですか?」
「ええ、もちろんいいわよ。でも、その前に軽く自己紹介しない? お互い少しくらい素性を知っておいた方が信用できるでしょ」
「あー……それなんですけど、俺、この世界の住民じゃなくて。名前も覚えていないんです」
「へぇ、じゃあ、この世界のことは何も知らないのね」
「まあ……」
「なるほど。そういうことなら仕方ないわね。じゃあ、私の名前くらいは覚えておいて。私はロザリンド。ご覧の通りしがない鑑定屋よ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「さて、それじゃあ早速鑑定といきましょうか。ステータスを見ればすぐ終わるわよ」
直後、ロザリンドの目が俺を射抜く。気恥ずかしくて視線を逸らしそうになるが、彼女の目はそうすることを許さない。
しばらく俺とロザリンドは見つめ合い、瞬きのタイミングで視線の交錯は解けた。
「終わったわ」
「ど、どうでした?」
「結果から言うと、ご愁傷様」
「えっ?」
嫌な予感が脳裏に蘇る。
多分、俺のクラスは――
「バーサーカー」
心の声とロザリンドの声がかぶる。
俺は瞼を閉じ、ふっと息を吐き出した。
「攻撃力はどのクラスよりも圧倒的に高い。でも、体力とか防御力とか、他のステータスが異常に低いわ。女の子に殴られただけでも致命傷ね」
「……余命宣告みたいだ」
「まあ、余命宣告とそう変わらないからね。ちなみに、今時バーサーカーなんて珍しいわよ。パーティーで活躍できるクラスだけど、打たれ弱すぎて生き残れないの」
脱力。
異世界に胸を躍らせていたのが痛々しい。せっかく異世界に来たのに、死んでしまっては意味がない。ここで生きていく術を考えなければ。
「はぁ……ロザリンドさん、今は持ち合わせがないのでツケておいてもらえませんか。また来ますから」
「あははっ、それまで生きていればいいけどね。まあ、いいわ。また来てくれるなら今回はただでいいから」
「ありがとうございます……」
俺は力なく踵を返した。
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