ヒーラーの少女

「あの、大丈夫?」


 目が覚めると、心配そうに少女がこちらを見下ろしていた。

 どうやら俺は気を失っていたらしい。


「馬鹿力だな、君」


「そんなわけないでしょ。あなたが弱すぎるのよ。私、ヒーラーだもの」


「ヒーラー?」


「そうよ。攻撃力なんてほとんどないし、回復魔法しか使えないわ。私がヒーラーじゃなかったら危なかったわね」


 ヒーラー、攻撃力、回復魔法。これらのワードはゲームで耳にしたことがある。どうやらこの異世界はゲームのような世界観も持ち合わせているらしい。

 ということは、俺にも何かクラスがあるんじゃないだろうか。まあ、少女に突き飛ばされただけで気を失ったあたり、嫌な予感しかしないのだが。


「名前、忘れたんだっけ」


「あ、ああ。俺はこの世界の住民じゃない」


「じゃあ、どこから来たの?」


「わからない。ここがどこかわからないんだ、説明のしようがない」


「そっか」


 なんとか誤解は解けたようだ。話ができればいい。まずはこの少女のこと、この世界のことを知る必要がある。

 俺は立ち上がり、ジャージについた土を手の甲で払った。


「君の名前は?」


「チェリーコードよ。よろしくね」


「ああ、よろしく。ところで、どうして泣いていたんだ? 何か嫌なことでも?」


 そう尋ねると、チェリーコードはあからさまに視線を伏せた。


「……私、いらないんだって」


「いらない?」


「そう。ヒーラーは足手まといだからいらないって」


「そんなことないと思うけどな。他に回復できるクラスがないなら重宝されるんじゃないか?」


「昔はそうだったらしいけど、今は違うわ。今は平和だし、ヒーラーがいなくてもパーティーは成立するの。むしろ、回復しかできないから煙たがられるわ」


 確かに、世界が平和で回復の需要がないのならヒーラーは必要ない。俺もゲームでヒーラーをパーティーに編成することはなかった。

 でも――

 俺はチェリーコードの肩に手を置いた。


「なあ、俺のクラスってなんだと思う?」


 空を見上げて考えるチェリーコード。

 いかんせん判断材料が少ない。それは俺にもわかっていた。そもそもチェリーコードから答えを引き出そうとは思っていなかった。もし俺のクラスがあれだったら――彼女を俺のパーティーに入れようと思っていた。


「私にはわからないわ。鑑定屋に行ってみるのがいいんじゃないかしら」


「鑑定屋か。案内、頼めるか?」


「別にいいけど」


「よし、じゃあ、早速行こうか」

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