第一村人発見

「泣いているのか?」


 背後から声をかけると、少女はびくりと肩を震わせてこちらを振り返った。

 年は同じか一、二歳下くらいだろうか。金糸のごとき髪は風に揺れ、赤い瞳は涙に濡れている。


「び、びっくりした……誰?」


「俺は――」


 言いかけて気付く。


 ――名前を忘れてしまった。


 現実の記憶はあるのに、名前だけが抜き取られてしまったかのように思い出せない。


「……忘れた」


「嘘、名前を忘れるわけないじゃない。あなた、怪しいわね」


「違う、俺は――」


 誤解を解こうと一歩踏み出すと、少女はわずかに後退った。


「来ないで! 変なことするつもりでしょ!」


「しないって。俺はただ話を聞きたいだけだ。ほら、立って」


 手を差し伸べようとした瞬間。


「うっ!?」


 少女に突き飛ばされた。たったそれだけなのに、目の前が真っ暗になった。

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