324.児童館を作ろう

 数日後。


 オレは美観地区の一角に資材を運び込み、来賓邸と同規模の建物を作り始めた。子ども連れの家族を対象とした三階建ての施設で、名称はズバリ『児童館』である。


 ジークフリートから送られてくるであろう玩具の数々を、この施設の中に運び込み、領民たちに使ってもらおう。そういった思いから児童館を建設する運びとなったわけだ。


 もっとも、美観地区の施設群は建設の真っ最中。ファビアンいわく「悪いけれど、そちらに割ける人手はないよ」ということなので、オレ自身が構築ビルド再構築リビルドのスキルを駆使して児童館の建設にあたっている。


 とはいえ、国興し騒動以来、ここ最近は執務にかかりっきりであり、集中して取り組む時間はない。


 ではどうしているかといえば、休憩時間を削ったり、執務後に残業という形で時間を捻出しているため、児童館の建設作業は、結局、スローペースになるのだった。


 もどかしい気持ちはあるものの、少しずつ作業が進んでいくのは苦ではない。実際のところ、執務のストレスはもの作りで解消できているので、いい息抜きになっているのだ。


 仮に国王という立場に就いても、構築や再構築を使っての創作作業は続けるんだろうなあと考えながら、児童館作りは進んでいった。


 一階は体を動かして楽しめるフロアにした。地上には木製のボールプールに滑り台、ボルダリングエリアを用意して、空中にはネットを張り巡らせる。安全面に配慮して吸収力のあるマットを敷き詰めているが、これはベルのお手製によるものだ。人気デザイナーに依頼するような仕事ではないんだけど、本人はいたって乗り気でカラフルなマットを何十枚も作ってくれた。


「アハッ☆ このぐらい問題ナッシン♪ 子どもたちのためだったらなんでもするよ★」


 いやはや、ありがたい。ちなみにエリーゼにも二階フロアへ設けた読書スペース用に絵本作りをお願いしたのだが、こちらも短期間に十冊近くを書き上げてもらえた。マンガの執筆で忙しい中、本当に申し訳ない。


「き、気にしないでくださいっ。ワ、ワタシにとって、子どもたちは宝物ですからっ!」


 そう言って胸を張るハイエルフの妻に感謝を伝え、読書スペースを完成させると、残りの部分はテーブルゲームを遊べる部屋を設けるのだった。いまのところ将棋とリバーシぐらいしか用意がないけど、そのうち種類を増やせていけるといいな。トランプにスゴロク、あとカルタとか。


 三階はジークフリートから送ってくるであろう玩具類を用意する予定になっている。お義父さんがどのぐらいの量を送ってくるつもりなのか未だにわからないし、ひょっとするとこのフロアだけガラガラになってしまう可能性もあるのだが、そうなったらそうなったで、オレが玩具を作ればいいだけだしな。


「ますます、“のんびり”とかけ離れた日々になるのう」


 ボルダリングをいとも簡単に上りながらアイラが呟いた。遊具用の施設を用意すると宣言した際、不審な眼差しを向けていた猫人族の妻も児童館の設備には満足しているらしく、「安全性の確認をせねばな」と、自ら率先してボールプールやネットでの遊びに興じている。


 そういや学校にジャングルジムを作った時にも同じ光景を目にしたなと思いつつ、オレもオレで、こっそりとボールプールではしゃいだりしていたのだった。大人になっても楽しいじゃん、ボールプール。むしろ、大人になってからのほうが楽しめるというか。


 そんな感じで、建築の合間に遊びを挟みつつ児童館は完成した。三階部分は空のままだけどね。ま、しばらくの間は一階と二階だけで十分だろ。


 お披露目して間もなく、児童館の中は子どもたちであふれかえるほどの賑わいを見せた。遊具ではしゃぐ様子に親たちは目を細め、くれぐれもケガなどしないようにと時折声をかけている。まずは満足いく結果となったと言っていいだろう。


 利用者が増えるようなら管理する人員を増やさないといけないなあと考えていると、高らかな笑い声とともに、美観地区の責任者が顔をのぞかせた。


「やあやあ、タスク君。さっそく賑わっているようでなによりだよ!」


 赤い前髪をかき上げながらファビアンは口を開くと、子どもたちの笑顔を見やってから続けるのだった。


「さすがは僕の心友しんゆうだ。領民を思って作られた児童館、まさに美観地区にふさわしいっ」

「それはどうも」

「しかし、いいのかい?」


 龍人族のイケメンは笑みをたたえているが、その表情に不釣り合いの真剣な声で疑問を呈する。


「キミの息子のために、陛下がわざわざ玩具を送ってくれるのだろう? 一言の断りもなく、領民たちと共有して問題にならないかな」

「いいよいいよ、話せばお義父さんもわかってくれるさ」


 ぶっちゃけた話、むちゃくちゃな量の玩具を送られても迷惑というか。成長していくにつれ、カオルも興味をなくしていくだろうし、それなら最初から領民たちと共有してしまったほうが有効活用できる。


 それに子どものための娯楽はまだまだ少ない。思い切って遊べる場所を用意するのも大人の務めだよ。カオルが遊びたくなったら、オレがここに連れてくればいいだけの話だしな。


「もしかしてだけれど、タスク君。キミは自分の息子を領民たちと一緒に遊ばせるつもりなのかい?」

「最初からそのつもりだったよ。子どものうちぐらい、地位や立場なんて気にすることなく遊ばせてやりたいじゃないか」


 児童館を通じて、カオルに友だちができればいいと考えていたからな。関係性を理解するのは大人になってからでも十分だろ?


「ふむ。身分に関係なく、広く交流を持つ、と。なかなかに興味深い教育方針だね」

「そんなたいそうな話じゃないよ。自由に遊ばせてやりたいだけなのさ」

「いやいや、立派な心だけだよ。貴族階級の中には、平民と関わり合うのを嫌う面々もいるからね」


 ファビアンはそう呟くと、気持ちを切り替えるように爽やかな笑みを浮かべ、「ボクもキミを見習うとするかな」と続けるのだった。


「見習うって?」

「なぁに、ボクとフローラとの間に子どもが産まれたら、この児童館を利用させてもらおうと思ったのさっ」

「その時はカオルとも遊んでやってくれ」


 ハッハッハ! 任せたまえ! ……声高く口を開く龍人族に視線を送りながら、オレは二人の間に産まれた子どもがどのように育つかを想像した。


 できれば性格はフローラに似てほしい、そんなことを考えたのはここだけの秘密だ。

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