323.五匹の命名と諸問題
五匹揃って全身茶色だったミュコランの雛たちも、一週間もした頃にはある程度の見分けがつくぐらいに成長した。赤塚不二夫先生の『おそ松くん』でいうところの六兄弟よりもわかりやすい見た目なので、呼び間違えることはないだろう。
そんなわけで安心して名前をつけてあげる状況が整ったわけなんだけど、そうなったらそうなったでどんな名前をつけてあげようかという違った悩みが生じるのである。しらたまとあんこの時は、白と黒だったから見た目で即決できたんだけどなあ。
考えに考えたあげく、こういったことは変に奇をてらわない方がいいだろうと、結局、今回も見た目から名前を決めることにした。
薄茶色でつぶらな瞳の子は『ラテ』、同じく薄茶色だけど、眠たそうな瞳をしている子は『モカ』である。二匹よりもはっきりとした茶色をした子が『プラリネ』、ちょこんと後頭部にくせっ毛のある子が『ショコラ』、焦げ茶色をした子が『ガナッシュ』。
……安易なネーミングセンスだなという声が聞こえた気がするけれど、こういうのはわかりやすく覚えやすいほうがいいのだ。
いや、実を言うと、姉妹妻でもある五人の奥さんにそれぞれ名前を考えてもらおうかなと迷ったんだよね。雛も五匹いることだし、ちょうどいいかなって。
でも、そうなったらそうなったで、ヴァイオレットなんか三日三晩一睡もせずに熟考に熟考を重ねるんだろうなと想像できてしまったので、次の瞬間には却下したのだった。我ながら賢明な判断だったと思いたい。
幸いなことに五匹の雛につけた名前はどれも評判は上々で、ミュコランたちの住まいには入れ替わり立ち替わり人が押し寄せては、雛たちの名前を呼んではその姿を愛でているようだ。うんうん、やっぱり親しみやすい名前にして正解だったな。
しらたまもあんこも、五匹の名前には満足しているみたいなのでとりあえずは一安心である。もっとも、アイラに言わせてみれば、
「しらたまもあんこも、おぬしが名付け親になってくれたことを喜んでおるのじゃ」
ということらしい。よせやい、照れるぜっ。
……ごほん。それはさておいて。
五匹の雛たちが生まれて一週間が過ぎると、とある問題に直面することとなった。雛たちの親離れである。
しらたまとあんこも、生後間もなく親ミュコランと引き離され人の手で育てられた。気性の荒いミュコランを人慣れさせるために必要な措置だそうで、そのことは義弟でもあるダークエルフのイヴァンからも聞かされていたのだが。
雛たちとしらたまとあんこの仲睦まじい光景を目の前にすると、何というか、やっぱりかわいそうな気がしちゃうんだよなあ。ヴァイオレットからは「引き離すなど、なんてことを考えるのだっ! 血も涙もないのかっ!」って、超怒られたし。
結局、五匹の雛がある程度成長するまでの間は、しらたまとあんこと一緒に暮らしてもらうという結論に至ったのだった。しらたまもあんこも人懐っこい上に賢い。二匹に任せておけば、健やかに育ってくれるはずだ。
あとは運動面についても気を遣う必要がある。しらたまとあんこ二匹が来たときは、アイラが付きっきりで領内中を散歩に連れて行ったけれど、その頃は領民も少なかったこともあって、のびのびと歩き回れたのだ。
人口が増えたいま、同じように行動するのは難しい。ましてや雛は五匹いて、そのすべてに注意を払わなければならないのである。付き添いの負担はかなりのものだ。
どうしたものかなあと思案に暮れつつ領内を視察していた最中、学校に差し掛かったところでオレは足を止めた。校庭の一角、ジャングルジムなどの遊具で遊ぶ子供たちの光景にひらめきを覚えたのだ。
散歩に出られないのならいっそのこと、ミュコランたちの住まいの中に雛たち用の遊具を作ってやればいい。
ジャングルジムはさておくとして、たとえばハムスターが遊ぶような車輪型のおもちゃに滑り台、あとはトンネルや一本橋、飛び石なんかもあるといいな。もちろん、安全に配慮した形で作るのが大前提になるけれど。
そこはそれ、
……と、領主邸の庭先に資材を揃え、五匹の雛たちが喜んで遊ぶ姿を想像しながら遊具作りに励んでいたところ、カオルを抱っこしたリアとアイラがやってきてはそれぞれに感想を漏らすのだった。
「実の息子よりも先にミュコラン用のおもちゃを作るとは、ボクも予想していませんでした」
「まったく薄情なやつじゃのう。カオルがかわいそうだとは思わんのか?」
いや、必要になったらカオルの分も作るって。いまの時点でおもちゃを作っても、カオルが遊べないでしょう?
「それにオレだってカオルのために何か作ってあげたかったんだ。ベビーベッドとかさ」
「アハハハハ……。生まれる前にお父様から送られてきましたもんね」
「豪華な天蓋もついておったな。邪魔じゃから外したがの」
生まれる前から育児用品一式が送られてきたんじゃ、オレの出る幕がないんだよな。せっかくの構築のスキルも使いどころがないっていうか。
「
「言ってましたねえ、そういえば」
「ジークも孫がかわいいんじゃろうて。多少は大目に見てやるんじゃな」
「多少もなにも、来賓邸の応接間に入りきらない量だって聞いたぞ?」
「お父様は加減というものを知りませんから……」
「なあに、いっそ遊具用の館でも建ててしまえばよいのじゃ」
笑い声とともにアイラが呟くと、リアがいくらなんでもやり過ぎですよとツッコミを入れる。ほのぼのとしたやりとりに微笑ましさを覚えながら、オレはあることを思いついた。
「……それだ」
「はい?」
「遊具専用の施設を作っちゃえばいいんだよ!」
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