298.弓矢開発(後編)

 クラウスが次に取り出したのはクロスボウの形状をなした弓である。……いや、普通のクロスボウですよねと問いかけるよりも先に、ハイエルフの前国王は深夜通販ばりのテンションで、オレに向き直った。


「突然ですが、ここでクイズです!」

「本当に突然だな」

「このクロスボウには、従来なかった機能が備わっております! さて、それは一体なんでしょう!?」


 いままで備わっていなかった機能と言われましても、こちとらクロスボウに触れる機会が皆無だったわけで、そんなモンわかるはずがない。正直にそう伝えたところ、クラウスはやれやれといった具合にかぶりを振るのだった。


「かぁ~……。お前さんもノリが悪いねえ? こういう時はワザとでもいいから付き合っておくもんだぜ?」

「あまりにワザとらしくてもどうかと思うぞ、オレは? んで? 従来なかった機能ってのはどういったやつなんだ?」


 よくぞ聞いてくれましたと表情を改めた後、クラウスは短剣を取り出してクロスボウに装着するそぶりを見せる。


 もしかして、『銃剣』ならぬ『弓剣』といった感じの代物なんだろうか? 先端に剣を付けることで、文字通り剣としても使えますよ的なやつ。


「惜しいな。そのアイデアも悪かねえけど」

「違うのか」

「コイツは剣そのものを矢として使うクロスボウでな。『複合式機構弓きこうきゅう・剣式壱型』って名付けた」


 ……どうしても中二病っぽいネーミングでないと気が済まないらしい。まあ、いまさら突っ込むのも野暮な話なので黙っておくけどさ。


 説明によると、この『剣式壱型』とやらは、矢の代わりに専用の短剣を装填して放つ武具とのことで、射程距離こそ短いものの、その威力は抜群だそうだ。


「欲を言えば、もっと距離を伸ばしたかったのですがな」

「コントロールが定まらなくなるのですよ。ギリギリまで調整したのですが」


 ダークエルフの鍛冶職人が改善点を挙げる中、それでも「大したもんだよ」と口に応じたのはクラウスである。


「いやいや、俺の無茶な要望をよく実現させてくれたよ。自分で言うのもなんだけどよ、剣を矢にするなんて、いままで誰も考えつかなかっただろうしな。そこらへんのデタラメさは、お前さんでもわかるだろ?」


 同意を求められたので、思わず頷いてしまったけれど。……ゴメンな、クラウス。元いた世界には剣を矢として使いこなす、体は剣で出来ているエミヤアーチャーっていう人がいるんだよ。『アンリミテッドブレードワークス』っていう宝具があってだな?


 ……長くなりそうなので止めておこう。理想を抱いて溺死したらかなわないし、本来の話題に戻ろうじゃないか。


 ハイエルフの前国王が次に取り出したのも、やはりクロスボウだった。しかも二種類ある。


フライハイトうちで作った軍隊には、こっちのヤツを標準装備として持たせるからな」


 そう前置きして、二つの片方を手に取ると、クラウスはそれをオレに差し出した。


「ちょっと持ってみろ。この時点では危なくないから」


 そう言われて、クロスボウを受け取ったオレは意外な驚きを覚えた。厳つい構造の見た目に反して、想像以上に軽量なのだ。


「『複合式機構弓きこうきゅう軽式弐型けいしきにがた』だ。誰でも扱えるように工夫してある」


 射程距離・威力・照準のしやすさなど、総合的にバランスの良いクロスボウで、製造コストもさほど掛からない。数を揃える必要がある軍隊にはもってこいだなと、クラウスは胸を張った。


 ちなみに。


 弐型というからには壱型もあるのかなと尋ねてみたところ、特にないという回答が。じゃあなんでわざわざ弐型なんて付けたんだよ?


「軽式壱型だと語呂が悪いだろ?」

「悪いかなあ?」

「その点、軽式弐型は響きがカッコイイ」


 ああ、やっぱりそこに帰結するのねと返事を受け流し、オレは残されたもう一つのクロスボウに視線をやった。


「そっちのは?」

「こっちのヤツは、まあ、とっておきだな。桁違いの威力がある分、反動がスゴくてよ」

「通常のクロスボウは肩に掛けて使用しますが、こちらは砲台のようなものを用意し、その上に固定させて使うのです」

「その通り。簡易的な弩砲バリスタと考えていただければよろしい」


 なるほど、クロスボウにしてはやけに大きい上、見た目にもごついし、ヘンな形をしてるなあと思ったら、バリスタだったのか、これ。


「『小型弩砲・剛ノ極ごうのきわみ壱式』だ。あんまり数を作る必要がねえかもなあ」


 クラウスの声に「ふむ」と頷きながらも、こっちは弐型じゃなくて壱型なんだねと、ネーミングにも独特のルールがあるんだなあとか、オレは余計なことを考えたりしていた。


 ネーミングはさておき、だ。


 くれぐれも取り扱いには気をつけるようにと念を押したのは、二人の鍛冶職人である。


「相当な破壊力がある。かなりの距離をおいた場所からも、大半の魔獣は一撃で倒せるだろうからな」

「スピアボア程度なら瞬殺ですよ。これを使う時、相手を選んでいただきたいですね」


 クラウスもこれを使う気はないそうで、それよりも先程の軽式弐型も用いた斉射戦術などを軍隊にたたき込むつもりらしい。


「火力があっても、散発だったら意味ねえし。軍隊としての統率力を優先したいね」

「そこまで考えていながら、なんでこれを作ったんだ?」


 まさかこれもカッコいいからという理由だろうかと、あまり期待していなかったオレを裏切るように、クラウスは神妙な顔つきで呟いた。


「念のためってやつだな」

「……念のため?」

「使わないにこしたこたぁねえが、それでも使わなきゃいけない日がくるかもしれねえ。……つまりはそういうことだよ」


 意味深な言葉を残し、オレが再び問いかけるのを制するように、ハイエルフの前国王は笑顔を作って続けるのだった。


「こうやって武具も開発したんだ。アルを呼んで、軍隊の詳細を詰めていこうぜ」

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