239.今年の冬(後編)

 先日のアルフレッドのガチ説教は、ココたちが消費した分の妖精鉱石を集めてくれるということで一件落着。


 できることなら説教が始まる前にそれを言ってほしかったけど、一通り湯浴みを堪能してからだからなあ。そりゃ足もしびれるって話である。


 ……で、その後どうなったかというと。


 妖精鉱石で作った湯船にマナを回復する効果があるという新発見に、さすがのアルフレッドも驚いたようだ。


 ほらなぁ? ダッチオーブンを作ったオレの判断は間違いなかったじゃんかぁ。


「当たり前じゃないですか。普通の人だったら、こんなに貴重な石で調理器具作ろうなんて考えませんよ」

「デスヨネー」

「あまつさえ、湯船代わりにしようだなんて正気の沙汰じゃありません」

「デスヨネー……」


 ……うん。これ以上なにか言うと、さらに怒られそうな気もするので黙っておこう。


 とはいえ、医学的見地からすれば興味深い現象に違いなく、リアやマルレーネたちと相談し、妖精鉱石を医療用に使えないかという検証をするそうだ。


 湯船に妖精鉱石をひとつ入れるだけでも効果があるみたいだし。医学に少なからず貢献できたなら、ガチ説教されたかいがあるというものだ。


 ダッチオーブン、というより、鍛冶に使う鉄鉱石は獣人族の国から仕入れるらしい。


 あれ? ダークエルフの国でも鉄鉱石採れたんじゃなかったっけ? わざわざ獣人族の国に頼む必要もないだろ?


「ここだけの話、商人たちを使って工作活動をしようと考えておりまして……」


 メガネをキラリと光らせて、アルフレッドが呟く。


「交易の便宜を図る代わりに、この土地フライハイトの情報を広めてもらうよう依頼するのです」


 この領地の豊かさと、忌み子として移住してきた猫人族が快適に暮らしているという実情を喧伝してもらう。


 情報が広まれば、他の種族で虐げられている忌み子たちも、自分の置かれている環境に不満を抱き、結果、指導者へ反感を抱くだろう。


 そのタイミングでこちらから移住を持ちかければ、スムーズに忌み子たちを受け入れられる……って。


「そんなに都合よくいくのかなあ? 反抗する住民たちを害する可能性だってあるだろう?」

「判断を見誤らないためにも、精度の高い情報が必要なのです。だからこそ商人たちに便宜を図るわけでして」


 特に重点的な働きかけを行うのは、人口の多い兎人族とじんぞくだそうだ。


「人が多ければ、それだけ反乱が起きた時の対処も困難になりますから。騒ぎが大きければ大きいほど、外にも漏れやすいですし」

「外部へ失態を晒すよりもマシな方を選ぶ、か」


 首肯するアルフレッド。


「獣人族の商人との取引も、そのための先行投資だとお考えいただければ。もちろん、贈賄などの不正は行いません。その点はご安心を」

「わかった。任せるよ」


 うちとしても人が増えるのは助かるし、苦しい立場の人たちを救えるのなら何よりだ。


 龍人族の商人いわく、取引の額は多いほうがいいということで、鉄鉱石だけでなくホップも大量に頼んでおく。


 ハーフフットのアレックスたちから、エール作りが順調という報告を受けていたのだ。増産体制を整えておきたい。


 追加してレッドビーンズも発注を出しておく。年が明けたら、どら焼きに続く和菓子の試作に挑戦しよう。


 個人的には今川焼きが食べたいので、ランベールに金型を作ってもらいたいけど、こっちは鉄鉱石が届いてからだ。まだまだ先になりそうだな。


***


 以前より検討していた、警察組織がいよいよ発足された。


 ワーウルフのガイアが組織の代表を務め、各種族から選抜された三十名が配属される。


 警察組織だし、みんなにもわかりやすいような制服を用意しなきゃいけないなと思っていたんだけど……。


「何をおっしゃいますかタスク殿っ! 己の鍛え上げられた肉体こそが鎧なのですっ! 制服など必要ありませんなっ!」


 ガイアは声高らかに言い放ち、サイドチェストを披露してくるわけだ。


 ……上半身裸で短パン一丁とか、警察官としてどうなんだそれ? 『こち亀』でいうところの、海パン刑事デカしか想像できないぞ?


 すったもんだ協議した結果、『肉体美が強調される制服ならば可』という妥協を引き出すことに成功。ベルに頼んで制服のデザインをしてもらった。


 オレとしては、『銀河英雄伝説』の帝国軍みたいな黒と銀であつらえた軍服とかが好みなんだけど。


 「できたよー☆」と、ベルから手渡されたのは、白シャツに紺色のベスト、カーキ色のスラックスという、意外にもシンプルなデザイン案だった。


「はぇ? カワイイのがよかった?」

「いや、これでいいんだけどさ。ベルのデザインだし、もっときらびやかな感じになるのかなって」

「え〜? だって、警察っしょ? 動きやすい服装のほうが良くないかなって♪」


 ……ごもっともです。ちなみにワーウルフたちはシャツを着なくてもいいとしておいた。


 ベストだけなら自慢の筋肉も披露できるだろうしな。その点はガイアたちも了承してくれた。


 それと、追加でベレー帽の作製も頼んでおく。ぱっと見て、警察だと識別できた方が都合がいいだろう。


 当面の間、領地の巡回が警察組織の任務となる。平和な土地だけど、市場の運営が始まれば人の出入りも激しくなるし、今のうちから備えておくに越したことはない。

 

 それと、領民たちからの御用聞きも担当する。不自由なく暮らせるよう配慮しているつもりだけど、流石に細部まではわからない。


 困っていることがあれば、警察を通して意見を伝えてもらう。領地運営に活かそうと考えたのだ。


 巡回中の警察隊を見た子供たちなんかは、「カッコいい!!」と憧れの眼差しを向けているみたいだし、それだけでも組織を編成したかいがある。


 ガイアたちには、子供たちの良き手本にもなってもらいたいからな。


 まあ、『マッチョ道』を追求する子供が増えても困るんだけどさ。……大丈夫だろ、たぶん。

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