238.今年の冬(前編)
冬の季節を楽しく過ごす対策として、今年は屋内用の玩具をいくつか用意した。
日が落ちるのも早くなったし、寒空の中で遊ぶ子供たちが風邪をひいたら大変だからなあ。
というより、辺りが真っ暗になったところで、子供たちはお構いなしに平気でジャングルジム上ってるし、見ているこっちがヒヤヒヤするのだ。
そんなわけで、お手玉とけん玉、あとヨーヨーを作り、子供たちの反応を伺うことに。
古典的だと思われようが、古来より伝わる玩具である。娯楽の少ないこの世界では、子供たちにも受けるんじゃないかと。
「そんなモン作らなくてもよ、将棋やらせりゃいいんだよ、将棋」
クラウスはそう言うけれど、将棋は複雑だからなあ。子供らにしてみれば、リバーシのほうが親しみやすいだろ?
いっそ、『どうぶつ将棋』みたいな簡易版将棋を作ろうかとも考えたけど、幸いにも準備した玩具が大人気だったので、しばらくは様子見だ。
お手玉は大人たちにも好評で、手先が器用なエリーゼやベルなんかは、可愛らしい柄のお手玉を作っては各所に配り歩いている。
子供たちの習得のスピードにも驚かされた。けん玉とヨーヨーに至っては、「君たち、どこでそんな技を習ったの?」って聞きたくなるほどに、アクロバティックな技を連発している。お金が取れるレベルだぞ?
もちろんそれ以外でも、お絵かきやおままごとなど、それぞれにのびのびと時間を過ごしているようだ。
学校の教材に、マンガを提供してまで将棋を普及させようとしていたクラウスはガッカリしていたけど、ま、そのうち子供たちにも将棋の魅力は伝わるって。……多分。
***
マンガ関連の話題をもうひとつ。
マルレーネが執筆へ加わることが決まった。医療がマンガのテーマになる。
とはいえ、そんなに重い内容ではなく、手洗い・うがいの重要性や、薬学の知識などをわかりやすく伝えるものとなっており、少しでも医学に興味を持ってもらいたいという熱意が感じ取れる。
「大陸には医師が不足しておりますから。私のマンガを読んで、医師を志してくれる子供が現れてくれたら幸いですわ」
黒髪の女医が柔和な表情で呟く。とてもじゃないけど、触手うんぬんと言っていた同一人物とは思えないね。
「認めていただけるようでしたら、遠慮なく触手も描きますが」
「……止めてくれ」
そうですか、と、力なく肩を落とすマルレーネ。前言撤回、平常運転だった。
それと、作家陣へマネージャーを付けたオレの判断は、どうやら正解だったらしい。
「センセーイッ!! 原稿くださいっ!! げんこぉ!!」
……と、領内を駆け回る、マネージャーの仕事についたダークエルフを見るのが珍しくなくなったからだ。
対象はもちろんソフィアである。ネームはオッケーを出したのに、何してんだよアイツは。
「だってぇ、仕方ないじゃない!!」
この日はエビの養殖池に逃げてきたのか、新婚の魔道士は、視察に来たオレと鉢合わせしたことにバツの悪そうな顔を見せながらも、必死に弁明を試みた。
「意欲が湧かないのぉ! そんな状態じゃ、面白いマンガなんて描けないわよぉ!」
「やかましい。そもそもお前がマンガを描きたいっていうから、こっちも了承したんだ。続きを待つ読者のためにも描けっての」
「たぁくんの意地悪ぅ!」
「意地悪じゃねえって。ていうかさ、原稿が白紙のままだったら、クラウスに愛想つかされるんじゃないか?」
「うっ……」
「クラウスは出版事業の責任者だからなあ。自分の奥さんがそんな感じだと、縁を切られる可能性も……」
「うううううぅぅぅぅ! 描けばいいんでしょう! 描けばぁ!!」
ソフィアは投げやり気味に叫び、そして家の方向へ大股で歩き始める。
「あんまり大きな声を出すなよ、エビがびっくりするだろ?」
「なによぉ! たぁくんってば、アタシの原稿とエビとどっちが大事だっていうの?」
「現時点ではエビだな。美味しいし。完成した原稿次第で変わるかもしれないけど」
「も〜〜〜っ!!! わかったわよぅ! ちゃんと仕上げるってばぁ!!」
ぷりぷりと怒りながら立ち去っていくソフィア。途中、ダークエルフのマネージャーが合流していたけれど、あちこちを探して走り回っていたようで息を切らしている。
可哀想に……。ソフィアにはもうひとりマネージャーを付けてもいいかもなあ。進行管理といより、監視役みたいな感じになっちゃうけど。
エリーゼの執筆状況は順調そのもので、相変わらずの優等生っぷりを発揮している。
「た、タスクさんの妻として、恥ずかしい仕事はできませんからっ」
ふくよかなハイエルフは頬を染め、照れ混じりに呟く。くぅ〜……! その健気さが愛おしいよね! 思わず抱きしめちゃうぐらいにっ!
その後、原稿そっちのけでいちゃつき始めたので、オレの存在が進捗の妨げになる可能性も否定できないワケだけど……。
……ある程度は自重しよう、うん。
***
あ、そうそう、例のダッチオーブンも動きがあったんだった。
次はそれについて話したい。
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