204.夏祭り(中編)
生来の宴会好きな性格が幸いしてか、領民たちの夏祭りに対する理解力は異常に早く。
決行するぞと声をかけて間もなく、露天商をやりたいというグループが続出。飲食の提供は問題なく行われることとなった。
ちなみに結成されたグループはこんな感じ。
***
■クラウス・アルフレッド・ソフィアwith同人作家組……提供料理「から揚げ」
■リア・クラーラ・ジゼルwithハーフフット組……提供料理「カレー」
■エリーゼ・ベルwithハイエルフ・ダークエルフ組……提供料理「惣菜パン」
■ヴァイオレット・フローラwith妖精組……提供料理「花と果物によるフレーバードリンク」
■ハンス・ガイアwithワーウルフ組……提供料理「羊肉の香草焼き」
■ロルフ・グレイスwith翼人族・魔導士組……提供料理「合作による新作デザート」
***
各グループからの申し出を記載したメモに目を通す。提供時に必要となる設備等々は別途用意すればいい。
あと、アルフレッドに関してはグレイスと一緒のグループになりたかったようで、どうにかできないかと最後まで粘っていたけど……。
なんせ、クラウスに捕まっちゃったからなあ。今回は諦めてもらおう。
それと、提供する飲食物に関してはすべて無料にした。初めての試みだし、予算はすべて領地の財政で負担する。
金銭面に関しては、次回以降協議をしていけばいい。猫人族の歓迎会も兼ねているのだ。今回はみんなで楽しもうじゃないか。
……そう。せいぜい楽しませてもらうぞ?
「それで? おぬしの計画とやらは問題ないのかえ?」
執務室のソファへ横たわりながら、アイラが呟く。
「ああ。みんなの出方は把握した。当初の計画に変更はない」
「しっかし、おぬしもまどろっこしいのう。わざわざこんなことをせんでもよいではないか」
「誰が一番なのか。みんなが揃った場所で、それを証明する必要があるんだよ」
「そういうもんかのう? ……まあよい。おぬしとは共犯の身じゃ。せいぜい付き合ってやるとするか」
そう言って寝返りを打つアイラ。部屋の片隅ではカミラが物静かに佇んでいる。
「……カミラ。今回はメイドたちにも手伝ってもらうぞ?」
「かしこまりました。子爵の仰せのままに……」
頭を垂れるカミラへ満足感を覚えながら、オレはメモ書きの一番下へグループをひとつ追加した。
■タスク・アイラ・カミラwithメイド組……提供料理「当日までのお楽しみ」
***
迎えた当日の夜、夏祭り本番。
領地の中央部では各グループが出店を構え、それぞれに腕をふるっている。
妖精たちによって作り出された色鮮やかな外灯球が会場を照らす中、食欲を掻き立てる香りがあちこちから漂い、領民たちは早くも盛り上がりを見せている。
酒を片手に語り合う人もいれば、肩を組んで歌う人たちもいて、日本の夏祭りとは少し違うけれど、これはこれで風情があっていいものだ。
猫人族たちも楽しんでくれているようだし、子供たちは目をキラキラさせながら会場内を所狭しと駆け回っている。
その姿を視界に捉えながら、オレは静かに闘志を燃やしていた。
歓迎会を兼ねて祭りを開きたかった、もうひとつの理由。それを叶える日がついに……、ついにやってきたのだっ!
「……やる気を出しているところ、申し訳ないがな」
今朝、狩りで捕まえたばかりの十角鹿をさばきつつ、アイラは呆れがちにオレを見やる。
「子供たちの一番人気を取り戻すため、祭りを開くというのは、やはり大げさな気がしてならんというか……」
「何を言うんだ、アイラっ! お前だってオレの悲しみがわかるだろう!?」
学校が始まる前、毎日のように遊びに来ていた猫人族の子供たち……。おにいちゃん、おにいちゃんと慕ってくれたあの愛しい子供たちがだぞ?
学校が始まってからというもの、翼人族や魔道士たちが提供するお菓子に釣られ、オレの元を離れていくという屈辱っ……!!
畑にやってくる子供たちもミュコランが目当てだし……。
ここらで誰が子供たちに好かれているか、そして人気があるかを証明する必要があるんだよっ!!
「この時のために用意したスペシャルメニュー『お好み焼き』と『いちご飴』! 領地ではまだお披露目していない、このふたつの料理があれば、子供たちの笑顔をこの手に取り戻せるのだ!」
「うむ。やはりおぬしは阿呆ぅじゃな。それに付き合う私も私じゃが……」
「私がおやつを渡すことを禁じたばかりに、子爵がこのようなくだらないことをするとは……」
アイラから肉を受け取ったカミラが残念そうに呟く。ふふ……、なんとでも言うがいい。すでに賽は投げられた。後戻りは出来ないのだよ!
お好み焼きもこの日のために研究を重ね、入手困難な豚肉の代わりに、臭みの少ない十角鹿の肉を使うと相性がいいことわかっている。
そしてなにより男の子はソース味が大好き! 鉄板の上でソースが焼ける匂いにつられて、わんぱくなキッズたちが集まること間違いなしだ。
女の子達にはいちご飴でおもてなしだ。日本でも流行った映えるスイーツなら、キュートなガールのハートのキャッチもイージー!
「カミラよ。私はたまに自分の夫が不安になるんじゃが……」
「アイラ様。こういう時こそ、奥方として子爵を支えて差し上げねばなりません」
……なんか後ろでヒソヒソ話し合っている声が聞こえるけど……。まあ、いい。
子供たちの人気を取り戻すふたつのメニューを用意してきたとはいえ、不安がないわけではない。
目下のライバルはロルフ・グレイス率いるグループで、新作デザートを提供すると言っていたけど、どのようなものかは最後までわからなかったからだ。
とはいえ。とはいえ、ですよ?
普段から両名は子供たちへおやつを与えていると聞いていますし? よほど珍しいものでなければ、子供たちの関心も向かないと思うわけですよ。
子供たちも甘いものを食べ慣れているだろうしね。であるなら、目新しいものを提供する我々の勝利は疑いようもないな!
……そう、まさに今しがたまで、そんなことを思っていたんだけど。
遠くから響き渡るロルフの声に、オレは衝撃を受けてしまったのだ。
「さぁ、いらっしゃい!! チョコレート工房と菓子工房の合作デザート! 新作『チョコレートクッキーアイス』はいかがですかぁ!?」
……ちょ、チョコレート、クッキー……アイス……だとっ……!?
くっ! 迂闊だった! 少し考えればノウハウを併せたひんやりスイーツを提供するぐらい考えられたじゃないかっ!
過ごしやすいとはいえ、気温が高いことには変わらない。そんな環境下においてアイスで誘惑されては、子供たちはひとたまりもないはず!!
「のう、カミラ……。あやつ、さっきから何をブツブツ言っておるのだ?」
「そっとしておいてあげましょう」
加えてチョコクッキーのトッピングっ! これには抗えないっ! 成す術もない!
ああ、子供たちが一斉にアイス目掛けて駆け出していくのが見える! くそう! オレはここでも負けるのか! デザートに屈してしまうのか!?
「そろそろ止めたほうがいいと思うんじゃが……?」
「我々は準備を進めるだけです。言われた通り、調理を進めましょう」
……いや、諦めるのはまだ早い。ソースの焼ける匂いが上がれば、いちご飴の映えっぷりがわかれば、そこに勝機を見いだせるはず!
その瞬間、今度はベルの朗らかな声が会場中へ響き渡った。
「は〜い☆ タックンお手製の石窯で焼いた、アッツアツのピザできあがったよー♪」
ぴっ、ピッツァ……だってぇ!?
ば、バカな……。エルフ合同チームは惣菜パンの提供じゃなかったのかっ……!? だからこそ喜んで巨大な石窯を構築したというのにっ……!
くっ、恐るべし、エリーゼとベルの知略……!
「おい。おい、タスク。こっちの準備できたぞ。できたと言っておろうに」
「アイラ様……、ここは落ち着くまでそっとしておいてあげましょう」
こうしちゃいられない……。ふたつのグループが本気を出してきた以上、いますぐ、オレも反撃に転じなければ……!
踵を返した先では、我が戦友アイラがオレの到着を今や遅しと待ち構えている。
「おっ。ようやく戻ってきたかタスク。準備は出来ておるぞ」
「任せろアイラ。オレは今から、鉄板の鬼と化す!」
「えっ? あっ、ハイ……」
「では我々メイド一同は『いちご飴』に取り掛かりますので」
「頼んだぞ、カミラ。いや、いちご飴の女神っ!」
「そういう面倒くさいのはファビアン様だけで十分ですので」
待ってろよ、子供たち!
オレたちの本当の戦いはこれからだ!
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