126.戦闘メイド
はい? ダークエルフの国からも移住? なんでまた?
それがですね……と、すっかり恐縮した表情で、義理の弟は説明してくれた。
なんでも、先日ダークエルフの国へ戻った際、長老会に呼び出されたイヴァンは、この領地についての質問攻めにあったそうで。
ただ単に遊びへ行ってきただけのイヴァンとしては、特に目新しい発見があるわけもなく。
それならば、些細なことでもいいから何かしらの情報はないのかと尋ねられ、つい、オレとのお茶会で話題に上がったハイエルフの移住のことを話してしまったそうだ。
で。それを知った長老達が、
「なんでハイエルフちゃんのところだけ!? ズルい!」
「私達のほうが先に仲良くなったのに!」
「こうなったら、私達も押しかけちゃいましょ!」
……あ、おじいちゃんたちの癇癪は想像に耐え難いので、カワイイ女の子達が盛り上がっているように脳内変換してから皆様へお伝えしておりますが、つまりはそういうことらしい。
「ハイエルフばかりが優遇されるのはいかがなものかという意見が大半でして……」
「自分たちも移住を認めろと?」
こくりと静かに頷くイヴァン。優遇するとかそういう話じゃなくて、単に働き手として受け入れるって話だったんだけど。
「俺もそう説明したのですが、取り合ってもらえなくて」
「聞く耳持たずか。っていうかさ、そこまで主張するってことは、ハイエルフの国と仲が悪かったりするのか?」
「とんでもない、むしろ良好ですよ。察するに、今回の件は嫉妬に近いものではないかと」
尚更タチが悪いわ。受け入れる側の立場にもなってくれ。
「長老たち曰く、自分たちのほうが義兄さんも受け入れやすいのではないかと思っているみたいで」
確かにね、何度も交易を重ねて友好関係もあるし、付き合いやすいこともわかるけど。だからといって、保留している案件を一方的に進められてしまうのはどうかと思うわけだよ。
とりあえず、前向きに検討するからよろしく伝えといてとだけ言い残し、あとはイヴァンへ任せることに。はあ、何だか大事になっていなこれは。
ため息をついていても始まらないか。仕方ない、少しでも早く受け入れ体制を整えるために、準備を進めることにしよう。
***
それからしばらくの間、オレはがむしゃらに働いた。
畑の拡張、家畜の世話、エビの養殖池の増設に、移住者用の住居建設などなど……。
自由な時間のないままにタイトなスケジュールが組まれ、ひたすらそれをこなす日々である。
忙しい中でも発狂せずにいられたのは、カミラがすべての予定を管理してくれていたおかげで、さながら秘書のように作業を切り上げるタイミングを教えてくれたからだ。
「というかさ。オレはとても助かるんだけど、ファビアンの側にいなくていいのか?」
食事休憩の間、気になっていることを尋ねると、長身の戦闘メイドは首を横に振った。
「仕事の都合上、あちこち飛び回っているお方ですので。不在の間は問題ありません」
「ファビアンって何の仕事してるんだ?」
「お話されてませんでしたか。主な事業としては宝石商を営まれております」
他にも畜産や紡績業にも手を出しているらしい。手広いなあ。
ちなみにハイエルフたちとは、一年に一回開かれる宝石の見本市「ジェムショー」で知り合い、意気投合したそうだ。
「私としては、ファビアン様に出払っていただき、ご友人たちと好き勝手過ごしてもらいたいというのが本音なのですが」
精神衛生を正常に保てるので、帰ってこない方がいいのですと、カミラは知的な表情をほころばせる。さいですか。
「それよりも」
顔を近づけてカミラは続ける。
「タスク様もさそがしお忙しいと存じます。よろしければ私が連絡を入れ、専属の戦闘メイドを手配させますが」
「今のうちはカミラがいてくれるから大丈夫だよ。自分でできることは自分でしたいし」
むしろ、この間から戦闘メイドという職業が気になって仕方ない。戦闘とついているからには、恐らくそういった技術に優れていると思うんだけど。
カミラと接しているところを見るに、身の回りの世話が完璧なメイドとしか思えないのでイマイチ理解できないのだ。
「当然です。日頃から武力を誇示するなど野蛮以外の何者でもありません。主人の身を守る時にのみ、力を行使するのですよ」
胸に手を当てたカミラは、誇らしげに口を開く。護衛とか警護の役割みたいな感じなのか。
「トレーニングとか大変そうだな」
「ええ。戦闘メイド協会には精鋭のメイドのみ所属を許されていますので。日々の鍛錬は欠かせませんね」
「精鋭って、具体的にはどのぐらいのレベルなんだ?」
そうですねと、顎に手を当てしばらく考え込んでから、カミラは朗らかに口を開く。
「ステゴロでワイバーンを倒せるぐらいでしょうか」
「……ステゴロで?」
「ステゴロで」
「ワイバーンを?」
「はい、ワイバーンを」
にこやかに微笑む戦闘メイド。……できるだけカミラの機嫌を損ねないように努めよう、うん。
***
開拓作業は好きだし、楽しい。充実感を覚えるのも確かだ。
だがしかし、予定がギッチギチに詰まった状態の中での作業は苦痛でしかない。朝起きたら農作業、そのまま家畜の様子を見に行って、休む間もなく建築に取り掛かるとか、やらされている感満載である。
せめて何かしらの息抜きができないかと考えたオレは、就寝前に一杯飲もうと、アレックスとダリルのもとへ足を運び、ワインを譲ってもらえないかと持ちかけたのだが。
ふたりからは「こんなに早く熟成するわけないじゃないですか」と断られてしまい。じゃあ、せめて甘いものを食べさせてくれと、今度はロルフのカフェへ足を運んだものの。
「ちょうどよかった。新メニューのアイデアをお聞きしたいと思っていたんです」
といった具合で、ここでも働かされてしまう始末。領主だからある程度はしょうがないとは思うけど、少しは休ませてもらいたい。
そこでオレは思考を巡らせたわけだ。物作りで苦痛を感じているのなら、物作りでその苦痛を解消すればいいんじゃないかって。
意味がわからないかもしれないが、とどのつまり、やらされているって感じてしまっているのがいけないわけで、自分が作りたいものを思う存分作ることができれば、そういったストレスも軽減するのではという結論に至ったのである。
……あれ? 改めて冷静に考え直してみると、自分でも何言ってるか、ちょっとわかんなくなってたな。本格的に疲れているのか……?
と、とにかく、自由に物作りがしたいのだ! 創作意欲がバリバリあるんです!
そんなわけで、ここ数日間、就寝前に集会所へ足を運んでは、チマチマと
たまに様子を見にくるアイラから、ヘンテコなもんを作っておるのうなんて言われてしまったものの、組み上げなければ全容がわからない代物なので仕方ない。
それからも、チマチマと作業を進めることしばらく。
創作意欲のすべてをつぎ込んで、ようやく完成したそれは、日本ではお馴染みの『あの装置』だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます