25.ワーウルフの害獣対策
ガイアたちワーウルフの家は、オレたちの家の北側にある森を切り拓いて建てることになった。
一夫多妻制だということはわかったが、集団で生活を送る習性があるそうで、住居は一つだけでいいらしい。まあ、その分、大きな家を用意しなければならないのだが。
作業は総出で進めていったが、ワーウルフたちが総じて盛り上がっていたのは、オレが能力を使っている時だった。
アイラたちと同様、ワーウルフも異邦人を見たことがないらしい。オレが簡単に樹木を切り倒し、
「タスク殿! 上腕二頭筋がナイスですぞ!」
「大円筋も輝いてる!」
「キレてる! キレてるよ!」
……作業中、万事こんな感じなので、正直うるさくてたまらないのだが。ワーウルフたちは、このボディビルのかけ声があると調子が出るそうで。
あ、そうなんスかと、乾いた笑いで応じたものの、本当に尋常じゃない速度で作業が進んでいくので、気持ち《ハート》って重要だなあと。そんなことを思いましたね、ええ。
そんなわけで、あっという間に住居が完成。北側の森、水場があった付近がキレイに切り拓かれ、そこへ二階建ての大きな家が建てられた。……ちなみに、建築の際、オレの
ワーウルフの要望を取り入れて作られた家の内部は、一階の大部分がトレーニングルームで占められ、他はキッチンとリビングスペース、風呂を設けた。寝室は二階となっている。
あ、例の抱えられていた大釜、結局、風呂だったらしい。『魁!!○塾』に出てくる、『男○名物! 油風呂!』みたいなヤツだったので、結構ビックリしたんだけど……。体格が立派だと、あのぐらいの大きさが必要なのだろうか?
そうそう、ガイアたちの家は屋上にも出ることができる。洗濯物を干すスペース用かと思っていたら、月の光を浴びてのポージングが日課となっているらしい。……そっかー、マッチョ道を極めるには必要不可欠ですよねー。
家の裏側にトイレ、東側に井戸を掘り終えたら作業は終了。ちなみに井戸を掘り進める時も、ガイアたちからのかけ声は、絶え間なく穴の中へ降り注いでおりまして。
地下を掘り進めているので、穴の内部に残響音を含んだ大声が籠もり、非常にやかましいワケですよ。いや、その独特のノリのお陰で、全体の作業スピードがものすごく速くなっているから、結果的に助かっているんだけどね。
あと、いちいち何かしらの作業が終わった瞬間、ポージングを取るのは何なんだろうか。習性かっ!? ワーウルフの習性なのかっ!?
穴から引き上げられた時、お互いに「ナイスバルク!」って呼び合ってるガイアたちを見て、ちょっと顔引きつっちゃったもんな。いかんいかん、これからは一緒に生活を送る仲間なんだ。ワーウルフのことをちゃんと理解していかないとな、ウン。
前回と同じく、結界を張ってくれていたハイエルフのエリーゼが、「お疲れ様です」とタオルを片手に駆け寄ってくる。筋肉ムキムキの、この場にそぐわない、ほんわかした笑顔に癒されるなあ……。
「なあ、エリーゼ、ちょっと聞きたいんだけどさ」
「な、なんでしょう。タスクさん」
「この世界のワーウルフって、みんなこんな感じなのか?」
「こんな感じとは?」
「あのー、肉体美というか、筋肉を追求するというか……」
「い、いえ。ワタシ、ワーウルフさんは初めてお目にかかったのでちょっと……」
「そっか」
……もしかしたら、ガイアたちが特殊なだけかも知れないのか。うーむ、謎だ。
「あ、それともうひとつ」
「な、なんですか?」
「えっと、上手くいえないんだけど、防音効果のある結界とかある?」
「遮音、ですかね? それならワタシも使えますけど……」
「……あー。何だな、もし、今後、今みたいに穴を掘る機会があって、ガイアたちがかけ声をかけ始めたら、それ使ってもらってもいいかな? ちょっと集中できなくてさ……」
ワーウルフたちには聞こえないように、最後だけはヒソヒソ声で伝える。耳元で話しかけられることに慣れていないのか、エリーゼは少し身を固くしながら、頬を赤らめつつ、そして、オレの期待とは正反対の答えを口にした。
「そ、それは大丈夫なんですが……。いいんですか?」
「何が?」
「ワタシの遮音の結界。半径五十メートルぐらいの、ありとあらゆる音が聞こえなくなっちゃいますけど……」
「持続時間は?」
「半日ぐらいですかね?」
「……止めておこう」
どう考えても、ガイアたちのかけ声に慣れた方が手っ取り早い。むしろ、理解を深めるためにも、一緒にマッチョ道を極めるのもいいかもしれない。
……まあ、冗談でも言い出したら最後、鬼のようなトレーニングに付き合わされそうなので、心の中だけの発言で留めておくけどね。アイラの狩りとはまた異なる、生命の危険を感じそうだしな、うん。マジでマジで。
***
住居の完成後、オレはベルとガイアたちを引き連れて、『
ベルがワーウルフを迎えに行ってから、何度か『遙麦』を植え直したものの、育ち始めた大半の『遙麦』は、相変わらず十角鹿に食い荒らされていた。
せっかく畑を四面作ったのに、収穫面では今までとあまり変わらず。ガイアたちの到着がもう少し遅ければ、諦めて二重柵を作ろうかと考えていたぐらいだ。
ベル曰く、ワーウルフは十角鹿に強いということは聞いていたけど、ガイアたちにも相当に自信があるようで、大胸筋を誇示するように胸を張って、こう言い放つのだった。
「お任せあれ、タスク殿! 十角鹿如き、マッスル道を追求する我々の敵ではありませんな!」
マッスル道はさておき、相当に頼もしい。いわゆる、十角鹿の天敵がワーウルフなのだろうか? それとも、彼ら自身の特殊な技能で、効果抜群な罠を作り出すのだろうか?
ワクワクしながらワーウルフの様子を見守っていると、ガイアたちは列を作り、畑の周りを歩き始めた。……ふむ、まずは畑の状況確認といったところなのかな。
畑の周りをぐるりと歩いたガイアたちは、足を止めることなく、そのまま二周目に突入。畑の周りを歩き続ける。それが三周、四周と続き、流石に何かおかしいと感じたオレは、隣にいるベルへ話しかけた。
「なあ、ベル。ガイアたち、アレ何やってんの?」
「何って……。もち、十角鹿対策っしょー?」
いやいやベルさん。「何変なこといってんの?」みたいな顔でオレのこと見てるけどさ。オレにはただ単に歩き回っているようにしか見えないんスけどね?
「アハッ☆ ナルホドねー。ノープロっしょ! ガックンたち、ちゃんとやってるよー」
「いや、ちゃんとやってるって言われてもさ、オレには何をやってるのかわかんないんだって」
「うんうん☆ ガックンたち、ああやって歩くことで、畑の周りにニオイを付けてるんだよ♪」
「匂い?」
「そそ☆ 動物にだけわかる特殊なニオイっていうのかなー。十角鹿が嫌がるニオイなんだよねー」
何でも、ああやって歩くことで匂いを残し、ここはワーウルフのテリトリー内だと教えるそうだ。凶暴な性格とはいえ十角鹿は草食、ワーウルフは肉食だ。捕食者が近くにいることがわかれば、ここを諦めるという寸法らしい。
なるほどねー……と素直に感心していると、ベルは更に続けた。
「ま、それでも、たまーに諦めきれない十角鹿が来たりするケドさ☆」
「ダメじゃね、それ?」
「アハッ☆ ホント、たまにしか来ないからノープロだよぉ! 来たら来たで、ガックンたちがやっつけちゃうし♪」
「その通りっ! ご安心くだされ、タスク殿!」
いつの間にか、匂いを残す作業を終えたらしい。歩み寄ってきたガイアたちが、ポージングを交えながら口を挟んだ。
「我ら、黒い三連星! 十角鹿の一頭や二頭、現れた瞬間、角ごと首をへし折ってご覧に入れましょう!」
両腕を上げ、力こぶを見せつけるガイア、オルテガ、マッシュの三人。あー、うん。そうだね、何の問題もなくやってくれそうだね、ホントに……。
そして次々とポージングを変えていくガイアたち。何か声をかけないと止めそうにないなと思っていたのだが、オレが口を開く前に話し始めたのは、当の本人であるガイアだった。
「ところでタスク殿。伺いたいことがあるのですが……」
「ど、どうしたの?」
「こちらで家畜を飼う気はございませんかな?」
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