15.種の収集、ハイエルフの救助
「綿花を栽培したい?」
「そそ☆ ここの畑で育てられないかな~って♪」
そこまで言い終えると、ベルは魚とキノコの香草焼きを美味しそうに頬張りはじめた。
「ん~、美味し☆ タックン、お料理上手だねえ」
「お褒めの言葉ありがとう。……じゃなくて、どうして綿花を栽培したいんだ?」
「んとね☆ 改築の時、ベッドとか小物とか、雑貨とかぁ。とにかく、ウチ、メッチャがんばって色んなモノ作ったじゃん?」
「ああ、本当に助かった」
「エヘヘ~☆ どういたしまして♪ そんでね、全部作り終えたら、ウチが持ってた材料の在庫がなくなっちゃって」
「無くなった?」
「うん☆ キレイさっぱり、在庫ゼロ☆」
あっけらかんとしているが、それはかなり申し訳ないことをしたのではないだろうか。確か、方々を歩き回って、服を作るための材料を集めてたんだよな?
「それは悪かった……。ベルの物まで使ってもらうなんて」
「ううん! それはノープレなの! メッチャ楽しかったし☆ それに、ウチが作ったモノ、この家にちゃんと置いときたいし♪」
「でも……」
「そ・れ・よ・り・も!」
オレの口を人差し指で抑え、ベルはウインクしてみせる。
「ここで生活していくなら、色んな材料抑えておいた方がイイと思うんだよね~。コットンやリネンがあれば、服だけじゃなくてタオルも作れるし☆」
「なるほど……」
「そんなワケで、綿花を育てられないかなって☆」
パンもどきを手に取り、一口分を頬張ってから、ベルは続けた。
「とりあえず、種が欲しいんだケド……。タックン、心当たりあるかな?」
「綿花の種、ねえ?」
椅子の背もたれに寄りかかり、オレは腕組みして考え込んだ。うーん、『ラボ』のゲーム中だと、商人から入手する以外方法はなかったような気がするな……。ていうか、そもそも商人と取引しようにも、村や街がどこにあるのかわかんないしな。
どうしたもんかと悩んでいると、それまで黙って食事を進めていたアイラが、イノシシ肉とパンもどきを両手に持ったまま切り出した。
「何を悩んでおるんじゃ。種ぐらい簡単に手に入るじゃろ?」
「アイラっち! それ、マジなん!?」
「うむ。タスクの能力を使えば問題ない」
自信満々に言い切るアイラ。オレの能力? 構築と再構築のことか? どっちも種なんか作れないぞ?
「何をキョトンとしておるのじゃ。おぬし、もしや忘れているのではあるまいな?」
「忘れてるって、何を?」
「阿呆ぅ。そもそもおぬしが言い出したことじゃぞ? 畑に生えている丸麦。あの種はどうやって手に入れたんじゃ?」
「……あ」
そうだった。丸麦の種、あれはそもそも、そこら辺に生えている雑草を切り取ったら変化したんだっけ。
「な? 理屈が同じであれば、他の種も入手できるであろう?」
ぬふふふ~と、笑うアイラ。「ついでに他の植物の種を手に入れるのも良かろう」と続け、アイラはまた食事を再開させたのだった。
***
そんなこんなでアイラ先導のもと、森の中で色んな種の採取に明け暮れているわけなんだけど。
実を言うと、この入手方法に若干の不安が無いわけでもない。だって、そうだろ? 丸麦だって、雑草を切り取って変化した種から生えてきたわけだし……。
綿花を切り取って変化した種から、そのまま綿花が生えてくる保証がどこにある? 他の植物になったりしないだろうかと心配になるのだ。
案外、そこら辺に生えている、謎の植物から入手した種が綿花になったりしないかな、なんて思ったりするんだけど。とにもかくにも、育ててみないとわからないワケで。
綿花以外にも、アイラに野草や自生している香辛料を教えてもらいながら、それらも併せてスパッ、スパッと刈り取りつつ、種を入手していく。
上手くいくかはさておき、畑で育てることで、安定して生産することができれば儲けものだしな。
「そういえば」
色んな種を採取しながら、オレは気になっていたことをアイラに尋ねた。
「アイラって、服とかどこで手に入れてるんだ? もしかして手作りか?」
「いや。長い付き合いがある行商人がおってな。そやつと取引しておる」
「行商人と取引?」
「狩りで生計を立てているというたであろう。剥ぎ取った皮や牙などを、衣類や食料と交換しておったのじゃ」
「へえ~。その行商人とは定期的に会っているのか?」
「あやつも忙しくてな。ある程度、取引する物品が貯まってたら、こちらから来てもらうように呼びかけるのじゃ」
「そんなことができるのか」
「うむ。おぬしさえよければ、今度家に来てもらってもよいぞ。丸麦などがあれば、あやつも喜んで取引するであろうしのう」
「そりゃ楽しみだな。是非、頼むよ」
……と、ここまで話していて、気になったことが。あれ? 三毛猫のアイラは忌み子なんだよな? 猫人族と人間族からは、呪われた存在として嫌われていると言っていたはずだけど……。
それなら、商人と取引するのは難しいんじゃないか? 疎まれた存在と物品の売買をするなんて考えにくいし。どうやって取引をしていたんだろう?
いや、まあ、忌み子なんて、オレからしたら全くもってバカバカしい話だけど、オレと同じような考えの人が、他にもいるってことだろうか。
様々な考えに思考を巡らせているうちに、いつの間にかぼーっとしてしまっていたらしい。アイラの呼びかけが耳に届いたことで、オレはようやく我に返った。
「タスク! 何をぼけっとしておる!」
「おお、アイラ」
「何度も呼びかけておったというのに、まったくおぬしは……」
「悪かったって。で、どうしたんだ?」
「前を見てみよ」
「前?」
そう言って、アイラが前方を指差す。目をこらして眺めやった先には、大きな木の下で倒れている人影が。
「お、おい。あれって……」
「安心せえ、生きておるよ。呼吸音がここからでも聞こえる」
耳をピクピクと動かしながら、アイラは続けた。
「見たところ、ハイエルフのようじゃの。それにしては、随分と……」
「とにかく、助けないと!」
「わかっておる。いくぞ」
オレたちは顔を見合わせて頷くと、倒れたまま動かないハイエルフの元へ急いだ。
***
木陰に倒れていたハイエルフは、ブロンド色のロングヘアがとても美しい、ぽっちゃりとした体型の、とても可愛らしい女性だった。
森と同化するような、深緑色をしたリネンの服を身をまとい、苦しそうな顔をしている。
「おい、大丈夫か!?」
「しっかりするのじゃ!」
苦悶の表情を浮かべるハイエルフへ、オレたちは必死に呼びかけたのだが。彼女から返ってきたのは予想を裏切るものだった。
「……お、おなかが……」
「痛いのか!?」
「空きました……」
「……はい?」
「お腹、空きましたぁ~……」
そして森にこだまする、「ぐ~~~~~っ」という大きな腹の音。顔を見合わせるオレとアイラ。空腹のためか、さめざめと泣き始めるハイエルフ。……えーっと……。なんだ、これ?
とにかく、助けないわけにはいかない。手持ちには採ったばかりのリンゴしかないので、それで空腹をしのいでもらいつつ、ハイエルフを家まで連れ帰って、食事を用意することに決めた。
***
「おいしぃ! 美味しいですっ!!!」
テーブルに並ぶ料理を次々に頬張りながら、ハイエルフは恍惚とした表情を浮かべている。
「そんなに慌てなくても、料理はいっぱいあるから、ゆっくり食べなよ」
「あ、ありがとうございますっ! どれもこれも美味しくて、つい!!」
「タックンはお料理上手だモン☆ ね?」
「丸麦のパンなんて、ワタシ、生まれて初めて食べましたぁ! すっごく美味しいんですねえ!!」
「あ~。材料足りないから、あくまでパンに似たような何かになっちゃったけど」
「全っ然、問題ないですっ!! 美味しいです、ハイ!!」
フードファイターと見間違う勢いで食べ進めるハイエルフを、隣に座るベルが楽しげに眺めている。まあ、確かに見ていて惚れ惚れとする食べっぷりではある。
……しっかしなあ、オレの想像していたハイエルフとは、ちょっと違うんだよな、彼女。特徴的な長い耳や、可愛らしい顔立ちに綺麗な薄藍色の瞳はいかにもって感じなんだけど。その、体型がかなりふくよかというか、ぽっちゃりというか。
ファンタジー作品に登場するハイエルフといえば、すらっとした長身に、抜群のスタイルを誇る美貌の持ち主が定番だと思っていたのだが……。まあ、ギャル系のダークエルフが存在するし、こういうハイエルフもいるのだろう。
「ん? タックン、どしたん?」
「……いや、なんでもない」
オレの視線に気付いたのか、ベルが小首をかしげている。ま、事実は小説よりも奇なりともいうし、この世界にも色んな人たちがいるってことだろう、うん。
勝手に結論を導き出し、ひとりで納得していたオレだったが、同じ疑問をアイラも抱いたらしい。テーブル越しにハイエルフをしばらく眺めやった後、口を開いた。
「ところでおぬし、ハイエルフの割に随分と肥えた体型をしておるが……。おぬしの一族は皆、そのような体型なのかえ?」
ちょ、おまっ……! 女性に対して聞きにくいことを、なんてド直球で尋ねるんだ、おい!
ああ、ほら、笑顔で食べ進めていたハイエルフさんも、手の動きを止めてしまって、見る見るうちに暗い表情へ……!
「おい、アイラ。お前、初対面の相手になんて失礼なことを……!」
「ほえ? なにがじゃ?」
「何がって……。世の中には体重とか体型のことを、気にしている人だって大勢いるんだからなっ」
「いえ、いいんです……。本当のことですから……。一族の中で、太っているのワタシだけですし……」
「ていうかさ☆ ハイエルフの住処って、もっと、ず~っと北にある山の中じゃん? なんでこんな森まで来てたん?」
話題を転じるようにベルが切り出し、体型についての言及はなくなったと思ったのだが。ハイエルフの口から続けられたのは、意外な言葉だった。
「その……。森の中で倒れていたのは、ワタシのこの体型が原因なんです……」
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