14.劇的・ビフォーアフター
新たにダークエルフのベルを迎えたことで、オレは家の改築計画を見直したのだが、とりあえず予定していた作業部屋をなくして、その分、寝室の部屋数を増やすことに決めた。
まあ、あまり大がかりな改築になっても時間が掛かるだけだしな。いきなり大きな家を作ったところで、内装がスッカスカでもしょうがないし。必要に合わせて、今後、少しずつ増改築していけばいいだろう、うん。
と、いうわけで、アイラとベルの手助けを受けながら、早速、「豆腐ハウス」の改築を始めることにする。
ベルは衣類の他、日用雑貨や生活用品の製作も得意だそうで、主にインテリア関係を作ってもらうことに。……奇抜なデザインにならないよう、作る前に相談してくれとお願いはしたが、どうなることやら……。
アイラには改築の手伝いと資材集めをお願いすることにした。木材も石材も十分に集めたが、ベルの製作面で何か必要なものが出てくるかも知れない。森のエキスパートであるアイラなら、材料集めをラクに進められるだろう。
オレはオレで、脳内に描いた設計図を元に改築作業に取りかかった。『
黙々と作業を進めている中、木材同士の継ぎ目が一切見えない仕上がりに、ベルが目をぱちくりさせている。
「え~? タックン、ちょースゴくない? そんな能力、初めて見るんですケド!」
「まぁのぅ。見た目こそ冴えないが、こやつはこう見えても、特別な能力を扱うことができる異邦人じゃしな」
ふふんと、得意げな顔を見せるアイラ。いや、何でお前が自慢してるんだよ。ていうか、見た目が冴えないとか、余計なお世話なんスけど!
「マジで!? ウチ、異邦人に会うの初めて☆ ヤバイ、バイブス上がりまくりなんですけど!」
「ぬふふふ~。タスクに掛かれば、こんな家のひとつやふたつ、造作でも無いわ」
オレをよそに、すっかり盛り上がる二人。……何だかんだ、仲良くなっているようで何よりです、ハイ。
とにかく、だ。作業を進めないことには、今夜の寝床の確保すら怪しくなるわけで。屋根のある暖かな部屋で安眠するためにも、改築を頑張らなければ。
***
改築があらかた片付いたのは、こちらの世界に来てから七日目の夜で、おおよそ二日間を作業へ費やすことになった。
とはいえ、短時間で改築を終えたことには変わりなく。見違えるほどに変貌を遂げた我が家の中で、オレは達成感に浸るのだった。
ではここで、皆さんには新しくなった家の内部を紹介しよう。脳内BGMとして、家のリフォームを特集する、例のビフォーアフター的テレビ番組の、あの曲をかけていただけるとありがたい。
ゴホン。えー、では、早速……。
広々とした草原に佇む、一軒の木の家。周囲には豊かな森が広がり、緑の爽やかな風を身体いっぱいに感じることができます。
遠くに海を望める南側に配置された玄関。扉を開けたらすぐに、開放感のあるリビングが広がります。中央に配置された、大きな四人がけの木製テーブルと椅子からは温もりが感じられ、ここで過ごす一時が笑顔で溢れるものになることを保証してくれるでしょう。
玄関を入って、すぐ左手にも扉があり、それを開けると……。なんということでしょう! 今まで「豆腐ハウス」と呼んでいた旧宅が、匠の手によって倉庫へ生まれ変わりました。
干し肉や丸麦も整然と並べられ、何がどこにあるか一目瞭然。暮らす人に嬉しい作りとなっています。
倉庫の北側へ隣接されたもう一つの部屋。こちらにはなんと、キッチンが設けられました。使いやすい高さのかまどに、家主こだわりの調理器具が用意されています。
もちろん、キッチンからリビングへの行き来も自由。できたての料理が、すぐに食べられるようにという匠の配慮です。
リビング中央から東側に延びた一本の廊下。「……スク」この廊下を挟んだ両側には、寝室が建てられました。北側に二つ、南側に二つ、合計四部屋の自由空間。
個人のプライバシーが守られるだけでなく、「……クや」ダークエルフの作ったベッドや小物などが配置され、快適さを追求した寝室となりました。
「……おい、タスク。何を一人でブツブツいっておるんじゃ?」
「アイラ……。いま、いいところなんだからジャマしないでくれって」
「なんなんじゃ、一体。ニヤニヤして気持ち悪いのう。ちょっと聞きたいことがあるんじゃが」
……むう、ビフォーアフター的ひとりナレーションも終盤だというのに、何だというのか。
「何で寝室が四部屋もあるのじゃ?」
「何でって……。何で?」
「ここに暮らすのは、おぬしと私とベルだけであろう。ならば三部屋だけで十分ではないか」
「別に深い意味は無いよ。三部屋だけ作っても、家の設計上、バランスが悪いって思っただけだし。使わなかったら、物置にしてもいいと思ってるぐらいだしな」
「ふぅん。私はてっきり、おぬしの知り合いでも引っ越してくるんじゃないかと思うておったが」
「そんなわけないだろ。こっちの世界で知り合いなんかいないんだし」
「まあよい。知らず知らずのうち、同居する人数が増えるんじゃないかと、そんなことを思っただけじゃしな」
そう言い残して、アイラは尻尾を大きく振りながら立ち去っていく。何なんだよ、人数が増えるとか、微妙にフラグめいたこと言うなよな。そうなるかもなって、一瞬、本気で考えただろうが。
……おっと、いけないいけない。とりあえずナレーションを締めないと。ゴホンゴホン。
……木造平屋ながら、機能性に溢れた充実の住宅。自然と調和するような、匠の心遣いが伝わる一軒に仕上がりました。
***
……はい、途中でアイラの邪魔が入り、なんだかよくわかんないノリになってしまいましたが。我ながら、よくできたと思うんですよ、この家。惚れ惚れするレベルですわ。
一番大きかったのは、ベルとの共同作業で作ったベッドかなー? 麦わらでキレイな敷物をベルに作ってもらってから、左右に角材をつけて担架のようなものへと加工して。
さらに土台代わりになる木枠を
若干のたるみがあるから、腰や背中が痛くなることもなく、寝心地も抜群だしね。
そうそう、家の改築と併せ、食事面も向上しまして。新たに食卓を彩ったのは、丸麦を使った「パンもどき」で、これが予想以上の美味しさだったから、まあビックリ。
収穫した丸麦は
物は試しにと、水と塩のみを捏ね合わせ、ナンのように薄く焼いて作ったのが「パンもどき」なんだけど。これが風味豊かで甘みもある、非常に素晴らしい一品で。なるほど、これだけ美味しければ、貴族や上流階級だけが食べる高級品ということも頷けるな、と。
アイラが森で採取したキノコや山菜類も、美味しい物ばかりだったし。特に、自生されている香辛料を採ってきてくれたことは嬉しい限り。
野生のニンニクとショウガ、それに唐辛子、さらにはレモングラスまで。「こんな物なら、いくらでも採ってきてやるぞ?」とは、満更でもなさそうなアイラの弁だけど、塩だけの味付けも飽きてきたところなので、味に変化がつけられる調味料の存在はありがたいのだ。
お陰で改築後の夕飯は、こちらの世界にきてから初めてといっていいほど豊かなものになり、同居記念と改築祝いを兼ねて、オレたちはちょっとしたパーティを開くことにした。
少しずつ改善されていく異世界での生活。できれば、このまま平穏無事に、まったりとした生活を送りたいところ……なんだけど。
自給自足を目指すからには、やらなければいけないことがまだまだあるわけで。次に取り組むべき事と、先ほどのフラグ回収を、翌日、まとめて行うことになったのだった。
***
どうも、皆さんご機嫌いかがでしょうか? こちらの世界にきてから八日目の昼下がり、ワタクシ、本日は森の中から実況をお送りしております。
ええ、ええ。もちろん一人で来ているワケじゃありませんよ。こんな物騒なところ、一人で来たら命がいくつあっても足りませんからね。
「なぁにをゴチャゴチャ言うておるのじゃ? さっさと先に進むぞ」
「はいはい、わかりましたよー」
ガイド兼護衛である猫人族のアイラは、耳をぴょこぴょこ動かしながら、あたりをキョロキョロと見渡し、オレの先をスイスイと進んでおります。
まったく……。森に慣れてるアイラと違って、こっちは歩きにくい道に悪戦苦闘しているんだから、ちょっとはゆっくり歩いてくれたっていいだろうに。
……はあ、まあいいや。さてさて、今日、森の奥深くまでやってきたのは、狩りが目的ではない。
ではなぜ、こんなところまでやってきたのかというと、話は昨日の夕飯まで遡ることになる。
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