Stage2 暗闇の底『迷宮』の鍵
やつらが「死んだ」のはなぜだ。
おれならそんなへまはしない。そうか。そんな間抜けなやつだからこそ死んでしまったんじゃないか? きっとそうだ。
やつらはゲームの敗北者――おれはそうではない。
やつらのいない世界へ。
鍵はおれの手の中にある。
どんと身体ごとぶつかるようにして、ナイフを男の背中に突き立てた。短いナイフは、肋骨と肋骨の間をすり抜けて心臓を貫き、刃は鍔元まで身体に食い込んだ。「どうしてだ」と疑問をその顔に張り付かせた男が振り返ったが、おれを掴もうとした手は、何もない真っ暗闇を掻いただけで、だらりと下に垂れた。次の瞬間、男の表情がゆっくりと弛緩していった。
じめじめした床へ前のめりに倒れていった男は、そのままの姿勢で動かなくなった。じわじわと白い上着に赤黒い染みが浮き上がってくる。突き立ったナイフはその背中から難なく抜けた。
背中から刺すとは、卑怯?
なにを馬鹿な。ここではだれもが、だれかの背後を取ることばかりを考えている。自分以外の存在は、それが何であれ競争相手であり、蹴り落とすべき敵であることに間違いはない。だから、おれに後ろから刺されるようなこいつが間抜けなのだ。
おれは男の頭をつま先で小突いてみた。ぐらりと力なく首が捻れて、男の顔がこちらを向いた。永遠に見開かれたままの目とだらしなく開いた口。男は死んでいた。
こうして、おれは勝者に、男は敗者になった。
ただ、それはとても運がよかったからだ。こいつはそばにおれが息を潜めてうずくまっていることにまったく気づかなかった。おれの前を通り過ぎて無防備な背中をおれの前に晒したのだ。だから刺した。
だから、おれに気を緩めているいとまはない。いずれはだれかがここへやってくる。それはおれやこいつと同じ “player” かもしれないし、おれたちを狙っているやつらかもしれない。今度はおれが、だれかに背後を取られるかもしれない。いや、現にいま、背後に何かが迫りくる圧力を感じる。
急いで倒れた男の脇にしゃがみこみ、荷物を小さな明かりの下で手早く漁ると……見つけることができた。鈍く黒鉄色に光る金属。小さな割にずしりと重いこれは――この
ついに手に入れることができた。力を込めて握りしめる。しかし、うかうかとしてはいられない。いまこうしている間も、ここへはだれかがやって来ている。つぎは、おれがこの男のように背後から刺し殺される番かもしれない。ここには『鍵』を狙っているものが数限りなくいる。 “player” も、そしてやつらもだ。
おれは立ち上がり、男の死体をその場において、『迷宮』を更に奥へと走りはじめた。周囲の闇がいっそう濃くなってゆく。
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