第6話 気がついたら1週間も経っていた

 どれ位、世界樹の中を周回したことか。考えるのを止めていたから時間間隔がない。目を覚ますと、そこはいつものシェルターの部屋だった。あの、映画みたいな夢は何だったのだろうか。現実味がありすぎてちょっと怖いぐらいリアルで、でも、勇者の奥さんが命懸けで、この世界を守ったのは、間違いない事実で・・・。

 ・・・不思議な夢を見た。


「お兄ちゃん?」

 ガバッ

「お兄ちゃんが起きた!」

 枕元で寝ていたミーシャが、おれが起きたことに気がついて跳ねるように部屋から出て行った。そう言えば、おれ、壇上で倒れたんだった。多分、ずっと看病してくれてたんだ。


 ぬうっとおれの部屋に緑のお腹の大きなホブゴブリンが入って来た。そして狼男の田辺さん。つまり、今は夜なのだろう。おれは、上半身を起こした。


「ひかる君起きなくていい」

「ひかる、魔石を見せてくれ。はー、やっと光るのが収まったみたいだね」


 お守り袋をいつの間にか首に掛けられていて、この中に世界樹の欠片が入っていた。


「タクミさん、おれ、どのくらい気絶してました?」


「気絶じゃないよ。1週間昏倒していたんだ」

「ミーシャに礼を言うんだぞ。ヒールと、下の世話までしてくれたんんだ」


「エッ、12歳の子にさせたんですか?」


「最初は、お母さんの由紀さんが、やっていたんだよ。由紀さんは、看護師の免許を持っているからね。でも、点滴より、ミーシャちゃんのヒールの方が効果的だったんだ。後は親子でね」

「命の恩人に礼を言えよ」


 そこに、由紀さんとミーシャが入って来た。テキパキしていたミーシャと目が合った時の気まずさったらなかった。


「元気になったのね。ヒールってすごいわ、衰弱していない」

「よかったー」

「おい、ひかる君、お礼は!」

 田辺さん、狼男の顔で言うと脅しに聞こえます。

「あ、ありがとうございます」


「タクミ君、見回りに行ってくる」

「わたしゃー寝るよ」

「大災害からこっち、目まぐるしかったからね。1週間の出来事を話すよ」

「私、紅茶、持ってきます」

「ミーシャも寝なさい」

「大丈夫ー。魔力満タン」

「元気なのはいいけど。ひかるちゃん、ミーシャをよろしくね」


 田辺さんは、鋭い顔をして夜の警備に、由紀さんは、あわあわ言いながら、自室に帰った。

 そして夜は更けた。-------------------




 その夜、おれは、勇者が、魔王と刺し違えたという日本の情報を聞いた。まいった。勇者と魔王が差し違えた話は、現実だった。それを聞いて、おれは、自分が見た夢をタクミさんに話した。その時、ミーシャも紅茶を飲みながらちょこんと座って聞いていた。二人とも、おれの話を全く疑わなかった。


「タクミさん、それで、巫女って何ですか?」

「巫女は、日本だと、神様との取次をする女の人だね。この場合世界樹の意思を取り次ぐ人ってことかな」

「じゃあ、お兄ちゃんは?お兄ちゃんは、男でしょ」

「男だと、『御子』こういう字だよ。御子は、神の子供って意味だから、女の人の巫女より上かな。レアな人ってこと。勇者と魔王の決戦って、結局、世界樹の巫女と先代巫女の戦いってことだよね。ひかるは、それより強いってことじゃないかな」

 タクミさんがスマホに字を書いて『御子』を指さす。

「すごーい」

 日本人の場合、神社の神さんって、元々人だった神さんが多いので、人も神様も、亜人獣人と同等だ。そんな扱いを世界樹にもサラッとする。

「世界樹を背負っているってことですか。気が重いです」

「世界樹の気持ちがわかる人ぐらいの感覚でいいんじゃないかな。世界樹が困ったら助けてあげなよ」

 当然、超強力な御神木である世界樹もその辺の樹と、扱いが大きく変わらない。尊敬はするし、畏怖することもあるが、狂信的な特別扱いはしない。


「わかりました。たまに気を掛けてやればいいんですね」

「それにしても、今の話だと膨大な魔力持ちになったもんだね。使い方が分かるまで、気軽に使わないでよ。危ないからね」

 そのうえ、自分自身が、危険物取扱注意者になってしまった。

「私は嬉しいかな。太るのは嫌だけど」

「ミーシャは、12にもなって、最初、ひかるお兄ーちゃんって、泣いてたんだよ」

「お兄ーちゃんは、お兄ちゃんでいいでしょ」

 ミーシャが、頬を染める。

「ミーシャは、寝なくて平気なのかい」

「ちゃんと寝てるよ。でも、無理できるみたい」

「自分で、生命循環できちゃうからね。検証ってほどのことは、できていないんだけど、多分、ミーシャは、世界樹によって変化したレアなケースだと思うんだ。だからひかると相性がいい。下の世話もしたしね」

 これを聞いたおれとミーシャは真っ赤な顔をして下を向いた。

「ごめんごめん、世界樹の種が根づいた吸血鬼のブラディだったっけ。その魔王が出した菌と人間との融和性を調べるのは、本国の研究者に任せようよ」

 おれは、アストラル体の時、ロロとも、先代巫女のミレーネとも世界樹経由で同調した。それで世界樹が、この大惨事の元凶だったと、知ったわけだけれど、世界樹は、そう言う生物で、起きてしまったことは、受け入れるしかない。人類は、ひどい目に遭って人口が以前の1/5に減ってしまった。だけど、魔力という恩恵を、これから先、何万年も受けられる。そう思うと、そう悪いことではない気がする。日本って、災害大国だから、こういうことに順応するのが早いのだ。 


「今は、夜中だからね、もう寝なよ。ミーシャも行くぞ」

「えー」

「明日、実験しに行くんだろ。ひかるのは、ヒールとか支援の魔法じゃないかもしれないんだから。危ないかもしれないだろ。ひかるをゆっくりさせてやるんだ。それが、主人に仕える妖精ってもんだぞ」

「わかった。じゃあ明日ね」

 タクミさん、ミーシャに、なんつう、教育をしているんだよ。おれは、ベットから、諦め顔で、手をひらひら振った。


「参ったな。ロロやミレーネの魔法が手に取るように分かる。4大精霊や魔法も。これじゃあ危険人物になっちゃうよ。ミレーネさんの支援魔法で、筋肉僧侶を目指すかな。田中さんに格闘や銃剣を教えてもらうか。最終魔法怖すぎだよ。護身でいいんだ護身で」

 おれは、天界に行ってミレーネに会う事と、決戦の島ノード島に行ってロロを救う使命を帯びている。最低でも自分と、自分にくっついて離れないミーシャを守ると決めた。

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