第5話 ファイナルバトルとコスモナイト

 おれは、とんでもない戦いの場に居合わせている。人類滅亡、世界存亡のファイナルに遭遇しているのに、自分でも驚くほど冷静だ。なぜなら、この、ナイトとコスモという双子が、おしゃべりだから。彼らは、この最終決戦ともいえる世界樹と竜の巣の真ん中、高度5万mあたりにあるノード島に眠っている魔石のような宝石、世界石と同じ宝石なのだそうだ。世界石で眠っている子の名前はワールド。どうやら、彼らの友達らしい。でも、相性のいい人がいたら、無意識に力を貸してしまう。暗黒竜となったロロは、ワールドと相性が良い。このまま行くと、竜の巣という直径1000kmという小惑星は、地球に落とされてしまい、地表の生物は絶滅する。


― おれは、ロロも勇者たちも助けたい。コスモ、ナイト。何とかならないのか

 たぶん、無い物ねだりなのだろう。それでも・・・


― わからない。でも、アタッカーが直哉なのはまずいかもしれない

― そうね。魔法対決じゃないと無理。ミレーネも気づいているはずなんだけど


― 二人は、世界石の祠を守っているんだろ。ロロに使わせなきゃいいだけじゃないのか


― ロロと一緒に居るブラディは、吸血鬼だよ。状態異常か影縛りで直哉〈勇者〉の邪魔をするに決まってる

― ロロとミレーネの魔力は、あまり違わないわ。両方助けるどころかみんな死ぬわ



 そんな話をしているうちに魔王と勇者が対峙した。アストラル体のおれは、見ていることしかできない。その霊体もたまに爆発して死んでいるので、偶に意識が飛んでいる。



 直哉は、身重のミレーネを心配した。自分がロロたちを倒さないと、ミレーネが戦うことになる。しかし、そうなったとき、おなかの赤ちゃんはどうなる。ミレーネの魔力に耐えられるのか。答えは限りなくNOだ。


「ミレーネの兵糧、旨かったぞ」

「おにぎりよ、あなた」

「お腹の子は、ミレーネの郷里の名前を付けていいぞ」

「いやよ、日本名がいい。男の子でも女の子でもいいように名前を考えて。だって・・・」

 だって、名前がないと、死んだときに、この子が、迷子になっちゃうじゃない

「じゃあ、飛鳥かな。男でも女の子でも使える。ははっ、気が早いな」


 直哉とミレーネは、魔王二人を見て、お腹の中の子共々、今度ばかりは命がないと覚悟していた。


「ミレーネお姉さま、そこをどいて」


「ロロ、なんでさっきから、死に続けているの?もしかして、世界樹の欠片を現地の人にあげたの?」


「男の子よ。その子もワイバーンにお父さんとお母さんを食い殺されたわ」

「もしかして、まだ生き帰っているのですか。もう、正気じゃないと思いますけどね」


「ひどい。それで、あなたはなぜここにいるのブラディ」


「ロロがすることを見届けるためです。ああ、手は出しませんよ。ロロに怒られる」


「正気じゃない。お前も死ぬんだぞ」


「ご心配なく。ぼくは、強烈な死の場合、他の生命が居る惑星に転移するだけですから」


「世界樹が死んだら無理よ」


「そうですかね」


 ブラディは、死について麻痺している。世界樹の理の外に出ると消滅が待っていると、つゆほども思っていない。


「もういいでしょ。どいてくれないなら、どかすだけ」


 ロロから、黒い触手が何本も出て、直哉を攻撃しだした。直哉は、鉄をも簡単にそぎ落とすようなロロの黒い触手を日本刀で、簡単に弾いて行く。ロロを攻撃しないのは、ミレーネにもう少し説得させたいからだ。


「ロロ、ご両親は、輪廻の輪に戻っただけ。本当は、その方が自然なの」


「姉様が世界樹をここに召喚しなかったら生き返れたのに?」


「あれは、根を下ろした惑星の世界をダンジョンに変える樹よ。お父様とお母さまは、その呪いから解放された。そうでしょ」


「違う違う、生き返った。生き帰れたのよ。お父さんも、お母さんも、私を一人にしない」


「ミレーネ、諦めろ。見ろ、黒いオーラの大きさを、尋常じゃない」


 ロロの黒い手が、ぶわっと、大量に増えた。今は、偶々、直哉のみを攻撃している。ガガガガガガッと、日本刀で、その黒い手をはじいているが、その力は増すばかり。黒い手は、もはや、直哉の表面積を超える量になり、触手のようにミレーに襲い掛かった。


 ミレーネは、そっとお腹をさすり呟いた。

「ごめんねアスカ。お母さんも一緒だから」

「バカ、おれの前に出るな」

「ごめんなさい、あなた」

「聞いてるかコスモナイト、ミレーネと飛鳥を守ってくれ」


 直哉に、コスモとナイトと話す力はない。しかし、その言霊は届いた。


― ごめんひかる兄ちゃん。3人のところに行くね

― 直哉が私たちを呼ぶなんて初めてね


「世界石を感じられたから、もういいわ。みんな死んでちょうだい『メテオ』」 


「ダメよ。『グラビティウオール』」


 重力波と重力波のぶつかり。その中心にいたロロとミレーネは、重力の牢獄に閉じ込められた。その外にいた直哉と、ブラディは、消し炭の様に霧散した。しかし、ノード島は、ゆったりと高度5万mに浮いている。世界石の結界は、竜の巣を落とす『メテオ』とそれを打ち消すだけの重力波を持った『グラビティウオール』がぶつかったエネルギーより強かった。

 アストラル体さえ粉々になるような高重力の世界で、ミレーネは、コスモとナイトに話しかけられた。


― ごめんね。0.00001ピコ秒間に合わなかった

― 時間を限りなく止めたわ。ミレーネ、何か願い事ある?


「ほら見て、ロロの闇に落ちた魂が障壁になって、綺麗な魂は無事よ。助けてあげて」


― ロロの魂は、この重力の井戸で、彼女の魔力と融合しちゃう。もう、無理よ。それより、ミレーネとアスカと、直哉を助けたい。


「リアヒール。『リアヒール』は、こんな感じよ。旦那様とアスカにかけてね」


― うんうん。無理すれば、ミレーネもこの世界に留めてあげられる。でも、魂が、世界樹の理から切り離された。魂を留めるのは、無理やりだから少しの間だけ。物凄くしんどいと思うけど、どうするコスモ?

― 私達の力でも5年ぐらいよ


「ありがとう。私、アスカのお母さんがしたい。ごめんね、ナイト、コスモ」


― わたしたちには、揺り籠をお願い。

― ロロは、ひかるに頼んであげる。ひかるは、ロロの跡継ぎの御子よ。ほら、あそこにいるでしょ


「すごい。男の子なのね。私も会いたい」


― 会えるよ

― ひかるが、きっと会いに来る


「きっとよ」


― きっと



 一瞬のことだった。ミレーネは、お腹の子共々、この場から消えた。ロロは、魔力が凝縮して赤い魔石になった。魔石は、きれいなロゼッタで、禍々しさはみじんも感じられない透き通ったものだった。ブラディは、最後にニヤッと笑って霧散したが、直哉は、ミレーネが最後の力を振り絞った『リアヒール』で、復活。

 勇者は、たそがれの浮島で一人、呆然と夕日を眺めていた。


 この一瞬に、ひかるは、ナイトとコスモに、無理難題をお願いされていた。


― ぼくたち、これから、ミレーネの魂をこの世界に留めておかないといけないんだ

― 私たち、天界に行くね。ミレーネは、そこに居るから会いに来て

― 直哉は、天界人に迎えに来てもらうから大丈夫

― ごめんね、もう時間がない。ロロをお願い。あれよ、あの魔石。ロゼッタ色をしているでしょ。絶対助けてあげてね


― 助けろって、どうやって?・・・・・・おい、コスモ、ナイト・・・・


 いくらナイトとコスモを呼んでも、何も答えてくれなかった。世界樹は、危機が去ったと、ひかるを又、自分の樹の中で、循環させだした。いつ終わるとも知れない死と生の繰り返し。ひかるは、永遠に続くこの拷問の性で、難しい話は、どうでもよくなった。もう何も感じない。ひかるは、虚無の中で、考えるのをやめた。



 殆ど相打ちという悲惨な結果。それでも、世界は、救われた。

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