第3話 惑星ダンジョン化
日本海の大和灘に出現した世界樹は、海抜も入れてだが、樹高36Km。衛星軌道上からもはっきりと、その威容が見える。エベレストの標高の4.5倍。その根元に多くの都市ができるぐらい巨大だ。それは、海底でも同じこと。今や地球の海は、7海王(魔王)の領地になっている。彼らは、地上に関心がない。海の覇を争っている。しかし、日本海は、世界樹が出現したため、不可侵の場所になった。ここには、海王の一人、歴代の人魚たちが、幾星霜営々と世界樹を守っている。根もとは、人族。世界樹の幹には、虫族。枝葉は、ワイバーンの子育ての場としてワイバーンが世界樹を守っている。世界樹は、ものすごい勢いで、空気を放出していた。
世界樹の10万キロ上空には、龍の巣と呼ばれる静止衛星があり、世界樹から発せられる空気は、ここまで到達している。ワイバーンたちは、子育てをするとき、ここにやってきて巣を作り地上の動物を餌にする。
この龍の巣に通じる空気層には、浮島が点在している。浮島群は、地上50Kmに多く見られ、そこに、人族も、魔族も、亜人族も、獣人族も等しく暮らしている。世界樹と共に転移した人々は、そこを天界と呼んでいる。浮島自体の、その多くは、世界樹と竜の巣の間に点在している。その島々は、古の魔導士たちによって、密林にされたり、砂漠にされたりと、独自の様々な気象や環境を持つ。地上とは、全く違った生態系を維持している。
これら情報は、観測から得られたものではなく、世界樹の根元に住む人族、樹海人からもたらされた情報だ。現在、その情報をもとに、世界中の国が、世界樹を観察している。
樹海人は、世界で唯一のエンペラーがいる国、日本を表敬訪問し、日本が、性善説から成り立っている国だと認識すると、世界樹に関して、また、魔族に関して、いろいろな情報を日本にもたらしてくれた。日本が、その情報を包み隠さず、世界に発信することは、意に介していないようだった。樹海人は、日本を日の元と呼ぶ。我々は、彼らを他人とは思えなかった。日本の郷田首相は、樹海人に返礼の表敬訪問がしたいと打診した。樹海人が言うには、日本側から、世界樹に向かうには、まず海王に話を通さねばならない。人魚だけではない。その周辺の海王とも義実を結び、漁業権、航海権を得た後でないと、戦争になると言われた。
日本は、海洋国。太平洋は、巨鯨族の海王と、日本海側東シナ海は、人魚の海王と、オホーツク〈北極海〉側は、シャチ族の海王と、そして、インド洋側の、水竜族の海王と義実を結ぶことになる。南極海や南北大西洋は、その先の話。現在日本は、まだ近隣の海での漁業権しか認められていない。江戸時代の鎖国状態になっている。
ただ、インターネットの海底ケーブルは、海王〈魔王〉たちが来る前からあるものだと主張して、その保護を通すことが出来た。世界は、未だにネットで繋がっている。人々の希望がそこにある。
ありがたいのは、世界樹を守護している人魚と仲良くなれたことだ。人魚は人の言葉の理解が早かった。彼らが、巨鯨人とシャチ族の橋渡しをしてくれた。巨鯨人とシャチ族も、敵対行動をとらないのなら、ある程度の漁業は、認めてくれるという。しかし、彼らのタブーが良く分からない。暗中模索が続くのは、しかたなかった。
世界樹召喚のおかげで、人族の亜人獣人化が収まった。そのおかげで、殆どの人が、世界樹を崇めることになった。しかし、そうでない2人の魔人が、世界樹の上空。5万kmにある世界の中心という浮島を目指していた。ここに、世界の欠片という宝石がある。この宝石の力を使って、世界樹上空10万kmに浮かんでいる竜の巣と呼ばれる衛星を彼らは、世界樹に落とそうとしていた。
一人は、まだ少女の面影を残す竜人の成れの果て。ひかるの両親を殺したワイバーンを惨殺し、ひかるに魔石を託したポーラ・ロロ・キドル。もう一人は、その少女を粘着質に見つめる血の魔王ジル・ブラッド・レイ。(愛称=ブラディ)
このブラディが、世界中の人族を亜人獣人化した張本人。彼は吸血鬼であると同時に、自ら吸った亜人獣人の遺伝子を人の心の隙に忍び込ませ、人を変化させる。そう言う病原菌の元である。彼が、地球に来たことで、人類は、その病原菌で、パンデミックを起こした。
喰う欲を止めることが出来ない人は、ぶた族のオークに。
女を犯す欲を持っている人は小鬼に。
人を力で殺傷しようとする人は、牛族のミノタウロスに。
血や生にこだわる人は、ブラディの血族に。(契約が必要)
肉を噛むことにこだわる人は、犬族のコボルトに。
水中に引かれるものは、魚人に。
すべて彼の菌によって引き起こされる。これは、伝染病の類で、大元のブラディを殺しても何の解決にもならない。これが地球を覆っているのだ。吸血鬼で不死に近いブラディが魔王最強に思えるだろうが、個体としては最弱。それに、この菌は万能ではない。人のままの心を持った人は、変化しても人間だし、魔物になるような欲を持っていても、心にブラディの入り込む隙が無ければ変化しない。変化しても、同族なら契約して従えることが出来るが、他の魔物になると、敵の魔王の眷属になってしまうというお粗末なものだ。今までは、夜の闇に隠れて生きるしかなかった。
ロロが、そのブラディの魔力を底上げした。ブラディが執拗に、ロロに付きまとうのはその為だ。彼女が、そんなことをした理由は、自分の魔王化を促進するためだった。ロロの思惑通りロロは、最強の魔王になった。暗黒竜の竜人になった彼女にかかれば、ワイバーンなどひとたまりもない。
「ブラディは、日の光りに弱いんでしょ。無理して付いてくることなんかないのよ」
「ぼくは、ロロが、これからやることを見届けたいんだ。この後、復活にずいぶん時間が掛かると思うけど、ぎりぎりまで、ロロを見ているさ。それに、ぼくは、あれが無くても、復活するし」
ブラディは、ちらっと足元を見た。二人は、世界樹から随分、高度を上げているが、全く小さくなる気配がない。世界樹は、それほど巨大な存在だ。
「あれを消滅させるなんて話をぼくは、聞いたことがないからね」
「私の両親を殺したワイバーンを飼っている樹よ。本当は、燃やしてやりたいけど、復活するわ。だから、この星の生態系ごと壊すのが一番なのよ」
「世界樹の雫があれば、君の両親を復活させることが出来るのに?」
「しないわ。お父さんとお母さんは、パグーで殺されたのよ。あの腐った樹は、私の両親を見捨てて、この惑星に根を張った。お父さんとお母さんの魂は、惑星パグーにあるわ。転移して空間自体がズレたのよ。復活なんて、無理よ」
「そうなるんだ。現役の巫女の願いを無視して、前任者の召還に応じてしまったんだよね。あれも人情ないよね」
「あんなの、魔素をまき散らしている単なる樹よ。私は、それに、龍の巣をぶつけたいだけ」
「ふーん、やっぱり面白い。そんな闇魔法、見たことがない」
「メテオって言うの。重力魔法よ。ブラディも闇属性なんだから、見たら分かるわ」
「楽しみだ」
ブラディは、太陽に当たって、火傷を負いながら、ロロの後を追って飛空している。その火傷を超回復で癒しながら飛んでいるのだが、魔力が尽きたら、そこで灰になって死ぬだろう。そうまでして、ロロを追いかけている。灰からの復活は、彼でも大変な時間を必要とする。それでもブラディは、ロロから目を離さない。ブラディは、条件付きながら、昼間でも少しの間活動できるだけの力をロロにもらった。それもどこまでやれるのか、今、試したいのだ。それにブラディにとって、大地が死の世界になろうが関係ない。そこまで酷くなったり、自分が灰になったときは、なぜか新天地で復活する。いつも新しい惑星に一番乗りするのは自分だ。それは、それで面白い。それより今は、強くなりたい。せっかく一番乗りしても、後から強い魔王が来て、こそこそするばかり。今のブラディにとって、ロロは天使に見えている。黒い翼だけどね。
「それに、ぼくを強化した秘密を知りたい。あの世界樹の核は関係なさそうだし。本当、何なんだろうね」
「だから言っているでしょ。私が、ブラディの魔力を底上げしたからに、決まっているじゃない」
「それに、ロロの心の隙間がとても大きかった。だから、ロロが魔王に変化したんだよね。言っていることは分かるんだけど。何かしっくりこないよ」
「あなた何歳?私は14よ。これ以上難しいことが分かるわけないじゃない」
ブラディは、約2000歳。今では、始祖のバンパイアより位が上。全てのバンパイヤ種族共通祖先ではないかと言われている。
「とにかく、ぼくは、ロロの味方だからね」
ロロは、真実を知っていた。
・・・・・あなたは、日の光に嫌われた世界樹の道化よ。世界樹との同化を拒んだアノマリー
「ノード島(世界の中心の浮き島)には、あの女がいる。ブラディは、見ているだけにして。もし私が負けたら、次は、あなたが狙われる。その対策を考えるだけでいいわ」
「今ならわかるよ。鬼族の長は、神意とか訳の分からない力を持っていたくせに、今のぼくより格下だったんだね。結局、ガイオウは、勇者に倒された。せっかく下から2番目になったのに。また今は、魔王の中で、ぼくが最弱なんだよね」
※ うんちく 惑星ダンジョン化
世界樹がその世界に根ずくと、その惑星はダンジョン化される。一つは、世界樹が発する魔素によって、魔力の行使が出来るようになる。もう一つは、惑星ダンジョンの効果によって魂が、惑星に捕らわれ、HPがゼロになっても世界樹の雫によって復活する。魂が霧散化しても、その器があれば、魂が復活する。世界樹がある世界では、死が緩慢になり、魂と体の結びつきは強化され、命の積算症状が起きる。人々の意思は、命の消失ではリセットされにくくなり、強い魂は、長い時間をかけて進化する。
「あの女・・・ミレーネも、両親の仇よ。あいつが世界樹を、ここに召喚した」
「もし、先代に、ロロが殺されても、ぼくが、君の魂を抱いて逃げるから無茶していいよ」
先代の世界樹の巫女ミレーネ・ホーンは、魔王によって滅ぼされそうになった地球に転移した人類の救世主。勇者と共に魔王の一人を倒している。
世界樹から見ると巫女は、世界樹繁殖機能の一部になる。結局地球は、世界樹の世界に染まっていくことになる。
ロロとブラディは、多くの不思議な浮島をごぼう抜きにして、ものすごいスピードで、世界石〈世界の欠片という宝石〉があるノード島に爆進した。
※ うんちく 世界石=世界の欠片といわれている宝石
世界石によって、竜の巣が想像されてのではないかと言われるぐらい力を秘めた宝石。ロロは、世界の中心にあるこの宝石の力を使って、竜の巣を世界樹に落とそうとしている。竜の巣は、直径が準惑星ほどもあり(直径1000km)これが地球に落ちると、地球の質量が増え、地表面がマグマ化した原初の地球にもどる。当然、地球上の生命は絶滅する。世界樹と言えどその例外ではない。ブラディは、このロロのやろうとしている所業を面白いと思える不死者。ちなみに竜の巣は、世界樹が根を張った日本海にすっぽり入る大きさ。質量10×10の20乗kg。東京大阪間の距離が、約500km。その倍の巨大さを想像してもらいたい。
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