五人目

「・・さて、そろそろ席についてもらおうか。」

 いつの間にか席に戻っていた石上は三人に向かって苦笑いで言った。陽炎の髪をぼうっと見つめていた桜も今が着隊初日であることを思い出し、とっさに席に着いた。

「いやぁ~桜ちゃんが可愛いもんで、すみませんねぇ隊長。」

「まだ言うか。」

 桜が今まさに思っていたことを陽炎は代弁するように吐き捨て、自らの席に戻っていった。伊田もそれに続くように持ち前の笑顔のまま席に着いた。

「愉快な副隊長のおかげで楽しい雰囲気になったわけだが、幾つか君に聞きたいことがあるんだ、桜。」

「はい、なんでしょうか?」

 唐突に質問されるとの事で桜はやや身構えた。

「・・君は成績優秀らしいが、具体的にはどの程度なんだ?隊としても是非知っておきたい。」

 石上は頬杖をつきながら桜に尋ねた、その目は真剣そのものだった。

「これでも一様は同期の中で一位でした。」

「ああ、それは聞いている。試験の成績はおぼえているか?」

「えーと、たしか三百二十点くらいだった気が・・」

「「!?」」

 一同が驚愕した。息をのむ者、目を見張る者等様々であったが、この反応も無理はない。なにせ三百五十点満点の入院試験の合格点と言えば百五十点程度であり、半分を切っている。「精鋭」と言われる第三霊刀士隊および第二霊刀士隊の平均ですら二百点には僅かに届かない。そんな中で三百点越え、とは最早、不気味とも言えるような成績ですらあった。少なくとも隊員たちは知る限りでは約三百五十人のこの組織に、四人しかいないはずの「三百点越え」が今この場で五人に増えたことを知ったのだ。

「ははっ、そりゃすげぇよ・・俺なんてすぐ抜かれちゃうかもな。」

 いつも通り沈黙を破った伊田であったが、先ほどとは違い、桜を畏敬の眼差しで見つめていた。自慢の満面の笑みも今では苦笑いとなっていた。

「・・それは想像以上だな、私も正直驚いたよ。」

 次に口を開いたのは石上だった。その表情は冷静を装ってこそいたが、やはり動揺を隠しきれてはいなかった。

「ところで、君の妖力属性は何なんだ?」

 続けてこう言った。そう、霊刀士が駆使する妖力には大きく分けて四つの属性がある。そして、その属性は生まれつき決まっており、後天的に変えることはできない。これを個人の「妖力属性」と呼ぶのだ。

「風・・風です。」

「ほう。」

 石上は納得したような表情を見せた。

「・・院長が何故君をここに配属したのか分かった。」

「へ?隊長どういうことですか?」

 伊田は早くもいつもの調子に戻っていたらしく、例の笑みと阿保面で石上に向かって投げかけた。

「・・私とお前、そして篠風の属性を考えてみろ。」

 伊田は「あぁ。」と石上に対して相槌を打った。それを確認すると石上は桜に向かってまた話し出した。

「・・普通に考えて君の実力ならここより格上の第二霊刀士隊に配属されていたはずだ。下手をすれば「」だった可能性もあった訳だが、院長は隊員の属性を考えたのだろう。」

 さて、人間が妖怪を殺すためには妖力、もしくはそれが込められた武器がほぼ確実に必要となる。その為、妖力属性の相性は戦闘において重大な意味を持ち、場合によっては不利益を被ることがある。それを芳泉は考えていたのだ。

「伊田の属性が土、篠風が炎、そして私が水。院長はそれに君を加えて、主流四属性を揃えようとしたのだろう。実際我々三人を除いてもこの隊には風属性の者が少ないからな。」


 ・・桜は黙って石上の話を聞いていた。正直、桜にとっては芳泉の思惑などどうでもいい事であったが、何よりも「自分が組織の一員として認知されている。」という事に僅かな感慨を覚えたのであった。

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