序章「霊刀士」

此処から

ここ一年足らずで京の都の復興は急速に進んだ。三年前の「京の大火」で廃墟同然になった西京は活気を取り戻し、一時的に魑魅魍魎に支配されていた郊外も霊魎院れいりょういんの力によって僅かなけがれを残すのみとなった。

 しかし、今だ多くの人々は貧困を強いられており、盗人になる者や、自らの身体を売りに出すものが後を絶えないのもまた事実であった。今や霊魎院で一二を争う小町「近衛桜このえさくら」もかつてはこの「貧困層」の一人であった。家が大火により焼け落ち、両親と兄が死んだ後の彼女は全くの無一文であったから、下働きや盗み、挙句の果てには未成年だと言うのにも関わらず、売春まがいな事をしてどうにか生計を立てていたらしい。そんな過去があったからか、院長の芳泉からスカウトされた際も、その類だと勘違いしていたようだが、結局の所、彼女はこれで救われたのだ。

 今、彼女は霊魎院の第三霊刀士れいとうし隊に所属している。あの忌まわしき天狗どもの首領、「愛宕あたご」への復讐の為だ。この大火の大天狗への復讐は桜が今、最も望んでいることであり、そこに目をつけた芳泉が「自らに協力すれば、おのずと力もつき、いつの日かあの天狗を倒せるようになるだろう。」と、桜に声を掛けたのだ。何故、こんな身寄りのない少女を選んだのか、桜には理解ができなかったが、安定した生活と復讐の業火の前にはそんな疑問はまるで効力を持たなかった。

 そんなような文言に上手く乗せられた桜であったが、訓練には人一倍熱を燃やした。自ら志願してここに入ってきた男達と比べても数倍の熱力が彼女にはあった。幸いなことに努力だけでなく、才能も持ち合わせていたようであり、それを本人が自覚したころには既に十八名の同期の中で最高の評価を隊員達から得ていた。

 そして、この訓練はなによりも彼女の「こころ」に影響を及ぼした。端的に言うと「闇が晴れた」のである。無論、彼女の抱えている闇はとても訓練如きで払いきれるものではない。自分以外の家族が全員、物言わぬ炭と化したのだ、無理もないだろう。しかし、訓練を受ける前の彼女とその後の彼女では明らかな違いがあった。

 最も顕著なものとしては言動の違いであろう。幼少の頃より明るい性格とは言えなかった彼女だが、大火の後は余計にこれが加速したようであり、霊魎院に来たばかりの頃は対人障害の様なふるまいを見せていた。しかし、近頃は陽気と言えないまでも普通に会話することが可能になったし、あの肥溜めを見るような凍てつく視線も改善の兆しを見せるようになってきた。最近となると特に友人たちと微笑ましく会話していることが増えてきたらしい。


 さて、先ほど私は彼女が「第三霊刀士隊」に所属していると言ったが、あれは正確に言うと、間違いであった。正確には・・


 

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