Chapter 47:クロス・ファンタジー実況 アイディア商品 前編
「んー…これって生産ルート確保してもっとサイズダウンしたら、持ち運びアイテムとして販売したりできないんすかね?」
そんな俺達の会話を聞いていたオパールが冷蔵ショーケースを眺めながらボソッと呟いたのは、沈黙が続いてしばらくしてからだった。
「うーん…。
でも箱としては魔石やミスリル製の箱の分大きくて重くなるし、売れるかな?」
柊さんはそんなオパールの言葉に少し考えたようだったが、難しい顔で首を捻っている。
「あ、そっすよね。
他のプレイヤーはアイテムボックスの魔法使えないんすもんね。
自分が使い倒してるんで、すっかり忘れてたっす」
オパールはそんなことを言いながら頭を掻いて笑う。
が。
「確かに革袋に入れて持ち運びながら冒険するのは現実的ではないかもしれません。
でも例えばウチみたいに店舗や家持ちのプレイヤー相手になら売れるかもしれませんよ。
何せ店内が涼しいおかげでなかなか帰らないお客さんも多いですし。
ただプレイヤー全体から考えた割合は低いでしょうし、顧客数としては少ないかもしれません。
作っても採算がとれるかどうかっていう問題はあるかもしれませんけど」
オパールが珍しく提案をしてくれたのだ。
ただ没案にするのは勿体ないので、俺も頭を捻ってみる。
暑い夏場だからこそ涼しさを提供してくれる魔道具には需要があるだろう。
問題なのはどういう形にして提供できるか、そして赤字を抱えずに販売できるかという部分だ。
例えば…。
「柊さん、今ミスリル製の箱の中に入っているのは氷属性の魔石ですよね?
真逆の炎属性の魔石ってダンジョンかどこかから調達することってできますか?」
「え?
あ、はい。
氷属性の魔石と同じように、溶岩地帯に行けばモンスターからドロップできると思いますけど」
あの箱の中の魔石ってモンスターからのドロップ品だったのか。
…あれ?
あのサイズって結構大きくないか?
ってことは、ドロップしたモンスターも当然…。
俺はうっかり恐ろしい想像をしてしまいそうになって思考を引き戻す。
今はとりあえず会話を続けるのが先決だ。
「じゃあミスリルの箱の内側に描かれている魔法陣って炎属性の魔石にもそのまま応用できたりしますか?」
「ぁっ…」
柊さんは俺の問いかけから何かを察したように目を見開いた。
俺は魔道具をオーダーしたわけではないし、魔法陣の知識には精通していない。
だからミスリルの箱の内側に描かれた2つの魔法陣がどのように作用しているのか正確には知らない。
ただ“特定の空間に条件付きで熱伝導をするためのもの”なのだとしたら、氷属性の魔石だけでなく炎属性の魔石にも応用できないだろうか。
つまり氷属性の魔石を入れておけば冷蔵庫に、炎属性の魔石を入れておけば保温機にといった具合に使えないだろうかと思ったのだ。
もし不可能であっても、例えばミスリル製の箱の部分だけ魔石ごと付け替えられるような…つまりアタッチメント式にできれば問題は解決する。
それができれば利用の幅はぐっと広がるだろうし、夏場だけでなく冬場にも重宝するだろう。
「きちんと確認をとってみないとわかりませんけど、たぶんいけると思います」
柊さんからは色よい返事が返ってきた。
あと問題なのは…。
「問題は価格設定ですね。
少なくとも原価を割り込むようでは売れないでしょう」
「そうなんですよね。
大量生産できれば価格もその分抑えられるんですけど、需要数がわからないと交渉もできませんし」
「たとえば…ミスリル製の箱で魔法陣が描かれているのって内側の天井と底だけですよね?
側面部分を安価な鉄とか銅とか別の金属で作れたりしませんか?
それとも魔力伝導率が悪くなったりします?」
「いえ、お互いが干渉しないように設計してあるので、そこは大丈夫だと思います。
問題は技術的なものですね。
上手く継ぎ合わせられるかどうか工房の職人さんに確認してみます。
あ、ついでにガラスケースも改良したら原価が抑えられないでしょうか?」
「上手くやればできると思いますよ。
ようはお客さん側とカウンター側だけ透明なガラスで見えるようにできればいんですよね?
ガラスを一枚ずつ平たく作ってもらって、溝付きの金属フレームに
「ちょちょ!
何で二人だけで納得してるんすか。
俺にもわかるように説明してほしいっす」
俺たち二人が頭を悩ませているとオパールが強引に会話に割り込んできた。
ずっと黙っているなと思ったら自分だけ会話についていけていなかったようで、不機嫌そうに眉を寄せている。
俺と柊さんは一瞬互いの顔を見つめ合って破顔した。
そして悪かったとオパールの肩を叩き、これまでの会話の内容を説明する。
それで気づいた。
どうやら柊さんと話していると知らず知らずの内に会話が飛び飛びになってしまっているらしい。
付き合いもそろそろ長くなってきているので、お互いが考えていることがうっすら分かっているというのが大きいだろう。
利益を出す為にはどうしたらいいのか、という問題の答えはいくつかあるがとてもシンプルだ。
それがもう既に互いの考え方の根底にあるので、わざわざ口に出すまでもないと無意識に端折ってしまっているのだろう。
柊さんは察しが良い人なので、それに甘えてしまっている部分も大いにあると思う。
今までは二人で会話していたのでそれでも良かったが、今後は気を付けよう。
そうでないとオパールを仲間外れにしてしまう可能性が高い。
「ガラス板をフレームに嵌め込むっていうのは、名案だと思います。
全面ガラス張りにしなくてもいいのなら、だいぶコストも抑えられますし。
そうなると金属製より別の素材の方がいいですかね。
放熱した分、魔石が魔力を消費してしまいますし」
唇の下に指をあてながら柊さんが悩む。
「そうなると木製とかっすか?
サイズが大きくなると難しいかもしれないっすね。
色んな場所を見て回った感じ、まっすぐに伸びてる大木ってあんまり数があるようには見えなかったっす」
オパールは腕組みしつつゆっくりと左右に頭を揺らしながら唸っている。
「だったら三層構造にすればいいんじゃないですかね。
間に空気の層をつくってやって」
「さんそうこうぞう?」
「何すか、それ?」
二人がほぼ同じタイミングで反応した。
あまりのぴったり具合に思わず笑ってしまいそうになりながら俺は空になったグラスを使って二人に説明した。
いわゆる雪国で重宝されている二重窓と同じ断熱構造だ。
あるいはダウンジャケットと似たようなものとも言える。
仕切っているものの間に空気や綿をつめてやることで外界からの温度の影響を少なくする手法だ。
あくまでもただの思い付きなので、実際に試してみないと効果があるかどうかはわからない。
季節の概念が取り入れられているとはいえゲームはゲームなので、運営が想定していないシステムは適用されないという場合もあるだろう。
けれど。
「不思議なお話ですけど、カクタスさんがおっしゃるなら早速工房に掛け合ってみますね!」
「魔法陣も使わずに保温の方法を思いつくカクタスさん、さすがっす!」
「いやいや、別に俺が発見したわけじゃないし…」
早速メッセージウィンドウを開いて何やら書き込んでいる柊さんの隣でオパールは尊敬に目を輝かせている。
そこまでストレートに尊敬されると背中がむず痒い。
尊敬するなら5000年以上前にそのシステムを開発した人にしてほしい。
まぁそんなこと、誰にも話せないけど。
「博識なカクタスさん、さすがっす!」
俺がやんわり訂正してもオパールはめげなかった。
会話に参加できたのが嬉しいのか、それとも自分の発案が形になりそうなのが嬉しいのか、妙にハイテンションだ。
喜んでいるのを見るとそれ以上水を差すのは悪いので、腕の中のポンタを撫でながら笑って誤魔化すしかなかった。
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