Chapter 16:アメーベ・アイランド実況 アバター編
新作ゲーム『アメーベ・アイランド』の最初の
まだ本サービスこそ始まってはいないもののアバター作成まで込みの仮登録の受付は始まっている。
この未来世界でゲーマーの割合がどの程度かはよく知らないけど、ゲーム初心者でもとっつきやすいように説明や予想をたてながら喋れるということ。
そして仮にゲーマーだったとしても公式サイトの隅から隅まで目を通す人はあまりいないんじゃないかという勝手な予想をたてて、それこそサイトの隅から隅まで紹介する様子を撮影した。
俺が強く興味を引かれたのは本サービス開始と同時にオープンするアイランド内から遊ぶことができるようになるRPGワールドだ。
その名も『クロス・ファンタジー』
登録しているアバターをベースにしてプレイヤーが選択した種族にキャラクターを変身させ、好きな職業を選び経験値を稼いでオープンワールドを冒険することができる。
異なる職業で習得した複数のスキルや魔法を合わせ技として使うこともでき、キャラクターの種族特性との相性も示唆されていてその自由度は計り知れないほど高い。
開発側としてはオープンワールドを様々な角度から楽しんでほしい、というコンセプトらしい。
RPG好きな俺としてはこれで興味を引かれないわけがない。
サイトの内容のほうに意識が集中していたため、リュシオンの無表情のガン見を思った以上に意識せずに済んだので思いがけずやりやすかった。
続いて撮影したのはアバター作成回。
リュシオンの教訓を得て新たなる黒歴史を作らないように慎重に、しかしあまり地味過ぎないように気を付けながらアバターを作成した。
出来上がったのは落ち着いた色合いの金髪にライトグリーンの瞳をもつ青年。
エルフ風の尖った耳をもつ青年だが、皮膚は健康的な肌色をしていて決して美男ということはない。
ある程度顔は整っているものの知的だったり陰のあるキャラクターではなく、どちらかと言えばのんびりとした牧歌的な顔立ちと言えるだろう。
体格は中肉中背で、少年漫画でいうところの温和で影の薄い脇役キャラクターを目指した。
最終話の全員集合する場面に久しぶりに登場して“そういえば序盤にこんな友達、いたよね”と思われるような。
漫画に人気が出て長期連載になると“誰だっけ?”ってなるような。
ふっふっふっ。
俺はもう中二病患者ではないからな。
なにせずっとリュシオンを見ながらのアバター作成だったので、もう血迷わなかった。
ゲーム実況3DVで使うアバターなので名前は俺の
そのイメージに脇役キャラからはみ出さないようにしつつもできるだけ近づけた。
こうして黒歴史の上塗りは回避されたのだ。
俺は無事にやり遂げた。
《………》
じっと無表情でこちらを見つめてきているリュシオンの視線が何か言いたげだったが、きっと気のせいだ。
アバターに着せる衣装も本サービス開始前だというのになかなか豊富だ。
シンプルなデザインばかりだが、俺のアバターはどちらかと言えば素朴な衣服を着せたいので願ったり叶ったりだ。
春にピッタリな若草色のYシャツに黒っぽい色のデニムのジーンズと革のブーツを合わせる。
というか、そういう衣服としてイメージできる衣装がそもそも少ない。
俺が着せられている全身を覆うボディスーツに近いタイプとか、それにストールや腰巻を足したようなデザインが多い。
そうでなければ仮装方面に振り切って、豪華なドレスやタキシードの他、ハロウィンパーティや某夢の国で着るような衣装がずらりと並んでいる。
そういったものは大抵が高額で、本サービスを開始した段階で借金という形で扱われるようだが。
つまり運営からプレゼントされるコインを全て支払ってもオーバーした場合は課金してコインを購入して借金返済するしかない、ということらしい。
実質的な課金アイテムという扱いなのだろう。
逆に無料で提供されている衣装やアクセサリーもある。
それは何らかの形で企業名やゲーム名が表示されるデザインのものだ。
歩く広告塔と言えば聞こえは悪いが、確かに宣伝効果はある程度期待できるだろう。
各部位一種類ずつこの公式アイテムは用意されていて、アバターの身体部位を全てシンプルな基本カテゴリーの中から選んでゲーム公式衣装一式
で揃えれば実質コイン無料でアバター作成をすることもできる。
アバターの見た目には拘らずゲーム内で楽しむ為に多くのコインを使いたいというタイプのプレイヤーであれば、その選択はアリだろう。
純粋にこのゲームを気に入って、応援したいからという気持ちから公式アイテムを身に着ける人達もいるかもしれない。
なにせ企業名やゲーム名のロゴがあまり目立たず、綺麗だったりカッコイイエフェクトが追加されるという公式衣装もあるからだ。
ただ3DVパフォーマー達がそんなアバターを作って3DVをアップロードした場合、ケチだとか企業案件目当てだとか叩かれる可能性はあるが。
「よしっ、これで完成っと」
アバター完成ボタンに触れてアバターイメージを確定させる。
これでどこにでもいそうな好青年が完成した。
尖った耳とかちょっとだけエルフ要素は足したが、3DVをアップロードする身としては完全に無個性ではいけないので行き過ぎない…それほど痛くない範囲での調整だと思う。
《あまりに無個性すぎて最初はどうなることかと思いましたが、完全なネタ衣装で揃えるとはさすがです、マスター》
「は?今、撮影中だよな?」
なんで喋ってんの?
むしろ撮影しながら喋れるとか初耳なんだけど。
《この部分はカット編集すればいいだけですから。
それにこれから作成したアバターのポイントを喋るつもりでしょうが、それにあたってアピールポイントを押さえておいてもらう必要があると判断しました》
「あぁ、カットね…」
“今までみっちり仕込んだ動画編集テクニックを忘れたんですか”という冷ややかな視線を受けて、そんなわけないだろうと肩をすくめて返す。
今までずっと無言だったのが突然喋り出せば、誰だって驚くだろう。
それ以上の他意はない。
「それで、アピールポイントって?
ネタ衣装なんてどこにも使った覚えはないんだけど」
俺のアバターには仮装感丸出しのゴテゴテな衣装やアクセサリーなんて身につけさせていない。
俺の問いかけを受けてリュシオンが笑みを浮かべる。
その非の打ち所がない笑い方を見て、逆に俺は笑みが引きつっていく。
何とはなしに嫌な予感がしたからだ。
《マスターにとってはそれが“普通”でも、現代においては完全にネタ衣装ですよ。
なにせ5000年前の遺物ですからね。
マスターの時代でも原始人風のアバターを作ったら、そういう目で見られたでしょう。
それと同じことです》
なっ、何だってーー!?
おかしいっ!
そういう時代差別、反対っ!
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