獅子
エリー.ファー
獅子
獅子というあだ名を付けられた。
たぶん。
僕が獅子と人間のハーフだからだと思う。
というか、それしかありえない。
ライオンとかいうあだ名にしてくれればよかったのに、と思う。
でも。
僕のあだ名は獅々だ。
肉が好きなのだと思って、みんな給食の時間には余った肉を優先的に分けてくれる。嬉しいけれど、僕が好きなのは肉じゃなくて、揚げパンだ。あと、ミネストローネ。肉は、好きと言えば好きだけど、七番目くらいだ。ただ、別に一番から六番目まで食べ物の好きな順番が決まっているということではない。
みんなは獅子という名前がついているのだろうから、足が速いと思っている。
でも。
僕はそんなに足が速くないので、みんながっかりする。
ただ、正直な話、獅子はそこまで足が速くないので、獅子というイメージで足が速いと思われても困る。そもそも、早くない動物とのハーフなのだから、ちょっと遅いくらいになるのは許してほしい。
というか。
別に遅くて何かいけないのか。
獅子だから、たぶん動物の王様で我儘だろうと思われている。
別に。
我儘ではないし、王様だとも思っていない。
普通の小学生だ、僕は。
確かに隣のクラスの幸久くんと、聡子ちゃんを食べたのは僕だけれど。
肉食である僕からしたら、基本的に視界に映る命を宿すものは食料なのだから致し方ないと思う。
二人を食べたことで緊急学年会が行われて大きな問題になったけれど。
別にいいではないか。
あいつら、シマウマとヌーのハーフだったし。
僕のような存在からすればそのような下等生物と同じ空気を吸っていること自体が耐えがたく、その時間がいかに長かったかを慮ってくれなければ、非常に残念だ。
もちろん、そのことは話したが、やはり納得はしてくれなかった。それもそうだろう、なにせ、この学校には草食動物のハーフが非常に多い。彼らはやはり僕のような存在を恐れてこのような巧妙ないじめをしてくるのだ。
許せない。
できる限り、数を間引かなければならない。
他の肉食動物たちは気が引けているらしい。
全く。
嫌になる。
僕は肉食動物としての立ち位置を守るために生きているというのに、皆は同じ気持ちで生きてはいないのだ。こればかりはどうにかしなければならない。
早速僕は小型の自動小銃を忍ばせて学校へと向かう。
今日の朝も。
昨日の朝も。
そして。
明日の朝も。
それこそ。
卒業するまで。
これは僕が僕を守るための行為であり、そうしなければ生きていく価値がないと思えるほど追い込まれていることの証なのだ。
いつか、この自動小銃は火を噴くだろう。しかし、それは学校ではないかもしれない。街中かもしれないし、ショッピングモールかもしれないし、会社かもしれないし、二つの巨大なビルかもしれないし、飛行機の中かもしれないし、とある国の砂漠かもしれない。
そして。
不思議と。
それがどこで起きるのかはもう僕にも分からない。
今日も草食動物たちは僕に向かって普通に挨拶をしてくるけれど、その度僕はその自動小銃の場所を思い出して何とか心を落ち着かせようとする。
いつでも、殺せる。
いつでも、引き金を引ける。
この事実が。
僕に誰も殺させないようにとするストッパーになっている。
そしてもちろん。
こんなことを考えているのは僕だけではないことも知っている。
獅子 エリー.ファー @eri-far-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます