三章 原罪

第11話

 白米、サバ缶とパックのもずく酢、インスタント味噌汁。

 米を炊いて開封してお湯を注いだだけ。買い物に出ていないから食材がなかった。

 冷蔵庫に貼ったままのシフト表では、今日の朝食当番は昌司さん。三日前、昌司さんが死んだ日の朝食は彼手製のフレンチトーストとコンソメスープだった。


「昌ちゃんがいないと俺ら一気にだらしなくなりそう」


 作務衣姿の康昭くんはごく軽い調子で言うと、箸で味噌汁をかき混ぜる。

 昌司さんと康昭くん、そして私。十年余りこの家に三人で暮らしてきた。家にいることが多いからと一番家事をやっていたのが昌司さんで、たしかに私達二人の負担は大幅に増えるだろう。

 でもそんなこと今はどうでもいい。彼が死んでまだ四日目なのに、康昭くんはどうでもいいことを言う。

 私は箸より先にテーブルの隅のリモコンに手を伸ばした。

 この三日忘れていたけど、この家では食事の時にテレビをつけることが多かった。見たい番組があるわけじゃない。前からそうだった。ただの癖みたいなもので、私はテレビを点けていた。


『都内中心に妊婦怪死相次ぐ

 昨日までに三十一人』


 テロップで何のニュースか明らかだった。この三日大量発生する、妊婦が子宮から産道に刃物で切ったような傷を負い、胎児と共に死亡する事件。

 当然、あらゆるメディアが一大事を強調する。この番組でもそう。


『海外からも調査団が派遣される見通し』『このまま続けば非常事態宣言の発令も間近』


 日本法医学会の発表では今のところ全員、傷を負った原因は不明。世間では妊婦のみが発症する未知の奇病、新種のウィルス説などが囁かれているらしい。恐らくネット上ならオカルト的な噂も飛び交っているだろう。最初の犠牲者・中尾由香里の故郷に伝わる怪異の話が表に出てくるのも、ひょっとしたら時間の問題かも知れない。 

 昌司さんの通夜で丸屋恵那が言っていた。新たな死者の一人・海老名志保の胎児は笑顔だった、と。

 画面では首から下だけ映った「死亡した女性の夫」が涙声で語る。


『なんで、妻と、赤ちゃんがこんなことにならなきゃいけなかったか、わかんないです……全――』


 テレビがぷつんと消える。康昭くんが私の手からリモコンを掠め取るようにして、電源を切っていた。


「見ない方がいい」


 かすかに震える声で言うとリモコンを置き、黙って食事を再開する。


「なんでこうなったかわからない」――あの夫の「なんで」は具体的な原因の話じゃないだろう。


「自分たちがこんな目に遭うなんてあり得ない」「自分の妻や子供がこんな死に方をしていいわけがない」――そんなところか。人の親らしい言葉だ。私の母親の日記にも、恐らく似たようなニュアンスの「なんで」が度々出てきた。


『なんで私の子だけこうなの?』と。



 母親の育児日記は私が生まれたその日から始まる。

 最初の頃はネットで見つかる、よその親の日記やブログと大差ない。生まれた直後は喜びに満ちていて、退院後は食事に睡眠、排便、体調を崩したとかの記録、成長への期待と不安、時には愚痴。

 雲行きが怪しくなるのは、私に奇行の影が見え始めてからだ。

「何もない場所に向かって誰かいるような仕草をする」とか「道路に向かって勝手にハイハイしていった」とか。

 他の赤ん坊と比べてもその手のことが明らかに多い。だけど病院で検査してもらっても何か障害が見つかるわけじゃなかった。私は平均的なペースで発育し、徐々に言葉を覚え、すると「そこに何かがいる」と自分に見えているものを周囲に訴えだしたらしい。


『愛が病院で空きベッドに「痛い?」と話しかけていた。先生に聞いたら昨日患者が死んだベッドだって。嘘でしょ。』


 日本脳炎ワクチンを打ちに行った時の日記だ。

 記憶にある中で一番古いのは、幼稚園の中庭にいた、首がねじれた男の子。

 空中で何かに掴まるような体勢で浮遊したまま、遊ぶ子たちのことを眺めていた。私はその子の存在を訴えて周りの子を泣かせ、教師に叱られる。

 その園ではかつてジャングルジムから落ちて死んだ子がいたと知ったのは、小学校のパソコンの授業で過去のニュースを調べた時のことだ。

 決定的だったのは五歳の頃、父方の祖父の葬式でのこと。


『おばあちゃんたちにオバケが見えるとか変なこと言っちゃダメ』『普通にしててね普通に』


 母親は私に言い聞かせた。

 でもその時の私は多分「オバケ」をアニメや絵本に出てくるデフォルメされたキャラクターだと思っていたし、自分の見えているものと生きた人間の見分けがついていなかったし、世の中には方便というものがあることも理解していなかった。


「親父も苦しい思いして死んだけど、あっちではきっと楽しくやれるって」


 父親は祖母にそんなことを言っていて、私は何を言っているのかと思った。


「おじいちゃん、助けてあげて」


 私の言葉に、父親と祖母がぎょっとした目でこちらを見た。


「その箱の上でね、痛い痛いって言ってる。ホント」


 祖父は何もない空中で寝そべったような体勢のまま、腹部を押さえて苦痛に呻いていた。祖父は癌で死んだらしい。私が会った時はまだ元気そうだったけど、末期はモルヒネも効かず、あんな様子だったにちがいない。


「お祖父ちゃんにお薬塗って。痛い痛いぃーって言ってる! お薬早く! 死んじゃう!」


 それから、両親の間では喧嘩が絶えなくなった。理由はだいたい私だ。幼稚園の教師や保護者、父親の親戚からも白い目を向けられていたらしい。母親はそいつらとそいつらを庇う父親への呪詛の言葉を日記に書き連ねていた。


『ウチの実家が宗教やってるから何? お前が言ってる「バチが当たった」も宗教だろ。生まれた時は初孫とか喜んだくせに都合が悪くなったら母親の血筋とかほざきやがって。お前も癌で死ねよババア』


 母親は実家の宗教とやらを相当に忌み嫌っていたらしい。母方の親類との付き合いは一切なく、オカルト全般への嫌悪も甚だしかった。葬儀を除けば寺や神社にさえ連れて行かれたこともなく、宗教の勧誘が来るとほとんどヒステリックな調子で追い返していた。


『愛、今のままじゃ変な子って言われちゃうから。愛のためにもね、オバケが見える病気治してもらわないと』


 連れて行かれたのはもっぱら脳神経外科や心療内科、カウンセリングやセラピー。あくまで現実的な範疇で解決しようとしていた。オカルトなんてあり得ないと。

『未発達な幼児の脳がそういう幻を見ることはよくある』『お子さんがちゃんと安心できていないんじゃないか』みたいなことを言われて『医者のくせに○○○○扱いしやがって死ねよヤブ』と綴るのをしばらく繰り返し、最後に連れて行かれたのが、とある神社だった。母親は鳥居の前で何度も溜息をついていた。

 

「多分愛ちゃんのこれはずっと変わりませんね」


 変な形の帽子をかぶった着物のおじさん……つまり神主は母親に告げると、私にも噛み砕いた言葉で説明する。


「オバケのせいでそういうのが見えるようになっちゃう人はいるんだけど、愛ちゃんはちがうみたいで、だからおじさんには治せないな。ごめんね」


 母親は失望を隠そうともせず、それでも一応やってもらうことになった。祭壇のある部屋でおじさんが変な呪文を唱え紙の飾りがついた棒を振り回し太鼓を叩く。

 全部が終わって外に出た私の視界に映るのは、境内のあちこちにいる人や動物の霊、生物とは思えないぼやぼやと光る球……入る前と変わらない。言われた通りの結果で、私はそれ自体よりもイライラした感じの母親に憂鬱な気持ちになった。

 帰る間際、おじさんはこんなアドバイスをしてくれた。


「もうすぐ小学校だっけ。愛ちゃんが見えているもののことは、今はまだ、ナイショにした方がいいよ。何も悪くなくても嫌がって、意地悪する人、たくさんいるんだよ。大人でもね。本当にごめんね」


 私はおじさんの言葉に従うことにした。「変な子」は大人にも子供にも疎まれるのだとわかるようにもなっていたから。

 小学校に上がってから、私は霊の存在を一度も訴えたことはなかった。最初からそれができていたら、うちの家族は案外平穏だったのかもしれない。

 その時にはもう、両親の険悪さは私が招くトラブルとは関係なくなっていた。互いの粗を過去にさかのぼってあげつらい優位に立とうとするようになり、一年生の冬にはついに離婚に至った。


 私は母親と暮らすことになった。母親が望んだわけではなく、父親が「子育てはやっぱり母親がするものだから」と押し付けていったらしい。

 離婚の後、専業主婦だった母親は以前勤めていた会社に復帰する。一人になれるのが楽でよかったと思っていたけど、仕事のストレスを抱えたあの女は私に当たるようになった。


「愛、同じこと前に何回やった? ママ憶えてるよ、三回目だよね? 同じ失敗はもうしないって前もその前も言ったよね!」


 母親はよく私の頭を叩いた。虐待を疑われたら不味いという意識はあったのか、血が出たり痣が残ったりと体にダメージのあるほどの暴力ではなかった。痛いわけじゃない。けど頭を叩かれたり、肩を激しく揺さぶられながら怒鳴られたり、そのたびにお前には価値がないと刷り込まれる感じがした。


「ママが小さい時ね、悪いことしたらご飯抜きだったし蔵に閉じ込められてお経百回唱えるまでトイレも行けなかった! そうなりたい!? 嫌ならちゃんとして!」


 母親は自分の今の境遇が私のせいだとよく責めた。


「ママ本当はパパと別れなくてよかったのに!」


 つい一年前はその男が如何に無能で優柔不断でだらしがないか、私の前で嬉々として語っていたじゃないか。憶えていないと思っているのか。

 でもどうやら、母親が夫婦生活を惜しむ気持ちは本物のようだった。


「離婚したせいでママ会社で嫌味を言われるの。使えない男に」

「ママ、『地雷』なんだって。愛がいるから」

「ママは愛に難しいこと言ってるわけじゃないの。愛が普通の子ならそれだけで十分。普通にできないから怒るの。わかってるの? 反省してる? ママにごめんなさいは?」


「普通の子」を求めるなら自分はとっくにそうなんじゃないのか。よその子よりそんなに劣っているだろうか。他の家の親もこんなに怒るのだろうか。私はどうすればいいかわからなくて、ただその場その場の理不尽をやり過ごすことに努めていた。

 友だちもできなかったので家で一人テレビを見ていることが多かったけど、ニュースやバラエティは面白くなかったし、女の子向けのアニメも頻繁に私に疎外感を味わわせた。

 メインの、子供たちの間だけの話は楽しかったけど、彼らの家族のことに話が及ぶとテレビを消してしまうことが多かった。

 登場する子供たちはたいてい両親から愛されていたし、親子喧嘩のエピソードがあっても最後には円満に収まるのがかえって息苦しかった。

 あるアニメに両親が離婚している子がいた。他の子の家族関係が良好なことに引け目を感じる様子を見て、この子は自分だと思った。

 物語中盤、その子の働きかけがきっかけで両親は和解するというエピソードがあった、

 それを見た時、私は思ったのだ、自分たちの家族もこうなれるんじゃないかと。

 その子とちがって私は仲のいい両親の記憶がほとんどなかった。でも今は自分も何も見えないように振る舞えるのだから、きっと元通りになれる、やり直せるはずだと。

 その日、帰ってきた母親に「パパと仲直りしよう?」と訴えたら、今までになくひどい暴力を振るわれた。私を殴った後の母親は酒を飲みながら泣いていた。

 翌日、母親は私の目の前で自ら命を絶った。小学校三年の時のことだ。


 父親や親戚は引き取るのを拒否したらしい。私は『ヤドリギの家』に入った。

 施設の職員は母親のように理不尽じゃなかったし、、十分な衣食住と、共同だけどテレビやゲーム機、漫画なんかもあったけど、それでも快適ではなかった。

 施設は独特の臭いがした。病院のような消毒液の臭いに、排泄物が混じった感じの。

 そして、子供たちや職員に混じって老人の霊がうようよいた。建物はもともと老人ホームだという。基本死ぬまでいる施設だ。それまで目にしてきた場所で一番多くの霊がいた。

 霊を怖いと思ったことはなかった。それでも生活スペースにいつも老人が居座っているのは、私を萎縮させた。

 霊だけじゃない。近い時期に入所した女の子は年下の子が職員に抱っこやおんぶをせがむと「甘えるな」と攻撃していて、自分の母を思わせた。私は他の誰の怒りも買わないように、私物を盗まれても我慢した。

 他の子が使っていない時間帯にゲームをやるのが唯一の楽しみだった。

 私の性向もそれはそれで心配されたようだ。心理療法士が「もう少し自分のことも話せるようにならなきゃ」とか言ってくる。私はまるで信用しなかった。

 私が自分に見えているもの――お風呂場で女の子の裸を見てペニスを擦っている霊のことなんかを話せば、あなたは私を疎んじるだろうと。

 私に里親の話が来たのは施設に入って一年くらい経った頃だ。

 私も知っている人だ、と言われたけど会ってみても全然覚えがなくて、彼が笑いながら黒の長帽子を被るのを見て、ようやく思い出した。


「久しぶり、愛ちゃん。ごめんね、助けてあげられなくて。おじさんたちは、愛ちゃんにオバケが見えることを知っているし、そのことで怒ったりしないから、よかったら、僕らのところで暮らさない?」


 こうして私は二人――染谷昌司と小室康昭のもとへ引き取られた。


 昌司さんの通夜祭・神葬祭の喪主は康昭くんが務めた。

 美容師という職業柄か普段は若作りなファッションだけど、喪服姿で黒く染めた髪を撫で付けると年齢より老け込んで見えた。左手薬指のデザインリングだけがいつも通りに輝いている。


『故人と出会い、交際し、共に暮らすようになってからの日々はとても幸せなものでした。愛を里子として引き取ってからは、私達二人にとって人生最良の日々だったことは間違いありません。

 私共のような人間が親になることに、世間では眉をひそめる方もまだまだ多かろうと思います。そんな中で皆様が故人のことを理解し、支えてくださったことに深く御礼申し上げます』


 参列者のどれくらいが、本当に二人を支えてくれていたのかは知らない。腹の中で、あるいは口に出して嘲っていた奴も間違いなくいる。

 私はそういう人間を見てきた。

「男同士でヤッてんでしょ」「あんたもレズ?」とニヤニヤ笑いながら言ってきた中学の同級生。賽銭箱にねじ込まれていた「宗教法人と弱者特権を振りかざすマイノリティは日本の癌」「子供が差別される可能性を考えられないなら親になる資格はない」という匿名の投書。

 だけど、私には二人だけが自分を拒まないでいてくれる人だった。

 神社にはいつも霊が漂っていて、また、霊の憑いた人が時たまお祓いにやって来た時も、私が「そこにいる」と口にすることを――相手を怯えさせない限りは――許してくれた。

 昌司さんはすぐに謝る人で、私が不満を口にすると自分は全然悪くなくても「ごめんね」と言った。

 子供を叱れない大人かも知れないけど、それを見ていて私はこの人に謝らせないようにしようと思った。康昭くんは自分も付き合い始めの頃そうだった、と笑っていた。

 康昭くんはわずらわしいだけだった癖っ毛の頭をショートにしてシャギーを入れてくれて、初めて自分の容姿に好きなところができた。

 好きなものと言えば音楽もだ。二人はバンド活動を通じて知り合ったらしい。

 ピアノの前に座らせてもらって、私でも鍵盤をちゃんと叩けば綺麗な音が出ることに感動した。私が弾けるようになると昌司さんがギター、康昭くんがボーカルでセッションなんかもした。

 もう二度とできなくなった。


「ごめんなさい、康昭くん……ごめんなさい」


 通夜祭の終わった後、抜け殻のようになっていた彼に私は謝った。その二時間ほど前、丸屋恵那も同じように私たちに詫びていた。「全部私のせいです」と。

 原因は彼女にあっても、わざわざ家に連れてきたのは私で、その後も拒めるタイミングがいくらでもあった。私があの霊を祓えると判断したから昌司さんは死んだ。

 虚ろな瞳に感情が戻り、首を横に振る。信じられないくらい軽い口調で言った。


「愛ちゃんのせいなわけないじゃん」

「……そんなの……」


 わからないでしょ、康昭くんには、だって見えないんだから――最低なことを口走りそうになった。康昭くんはそれを察したのかどうか、傷ついたり怒ったりという素振りも見せない。


「まあ百万歩譲ってね、愛ちゃんに何か落ち度があって、それさえなきゃ昌ちゃんが死ななかったんだとしても、責めらんない。昌ちゃんの家族とか親戚が何言おうと。それで責めるくらいなら、引き取ろうなんて決めなかった。昌ちゃんだって責めてない。絶対」


 見えもしないのに断言する。彼の笑顔は、すぐに目の前が滲んで見えなくなった。


 四日目の夜、布団に入っても眠れずにいると外からギターの音色がした。

 昌司さん……? いや、康昭くんだ。

 彼のギターは下手だ。自分でもわかっていて、進んで弾いたのは見たことがない。

 そんな彼が今わざわざ弾いているのは、昌司さんの好きだったあの曲。悲しいことと、楽しいことを数える歌。

 難しいパートは露骨に雑に弾く康昭くんだけど、今はばかに丁寧に引いている。頻繁にミスして、でも、一度もやめずに。最後まで弾くとまた繰り返し。

 康昭くんは泣いているの? 私は二人が泣くところを見たことがない。 

 部屋を飛び出していって彼を抱きしめてあげる。そんなこともできず、布団の中で小さくなる。

 昌司さん、この音色が聞こえているなら私はいいから康昭くんのもとに出て、彼を慰めてあげて。私にしか見えないなら私に姿を見せて、康昭くんに伝えてほしいことがあるなら必ず伝えるから。私にはそれしか取り柄がないんだから。

 昌司さんは死んで……どうなったの? 私にも見えない世界へ行ったの。あるいは消滅してしまったの。

『何がなんでも存在し続ける方がいいなんて思わない』――あんなの嘘っぱちだった。私は、昌司さんに何がなんでも存在し続けて欲しい。彼がどこにもいないなんて、私のせいで彼が消えてしまったなんて耐えられない。康昭くんが昌司さんを失ったなんて。

 それでも、時が経てばこんな痛みも忘れることができるの?


「丸屋恵那」


 彼女の名前を呼ぶと、やや明るい色のボブカットが頭に浮かぶ。

 邪坊の攻撃を受けたら失禁して怖気づいた女。私にはとてもできない距離感で施設の子たちに接する女。バースデーカードに涙して、通夜でも私たちに泣きながら謝っていた女。

 あと四、五日の命だろう。あの後も昌司さんと付き合いのあった人材を頼りにあがいているらしい。

 どうにかできるとは思えなかった。彼女や、これから死ぬだろう多くの女たちのことも、私にはもうどうしようもない。だから関わらない。康昭くんもそれでいいと言っていた。

 ……本当に、いいの?

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