第23話

 家に帰ると、部屋ではほたるが不貞寝を継続中だった。俺のTシャツを着て、ズボンは穿いてないから水色の縞パンティーが丸見えだ。


 俺は視線を外して言った。


「まだ寝てるのかよ」


 無視。


「食事は?」


 冷蔵庫を開けると、鍋にカレーが残ったまま。ほたるが食べた様子はなかった。


「食べてないのかよ」


 無視。


「勝手にしろよ」


 これ以上、付き合いきれん。


 こういう状況になると口調が荒く、言葉が短くなるのは必然ではあるが、問いかけても返事がないんじゃ仕方がない。


 俺はポータブルゲーム機を取り出すと、黙ってキッチンへ行き扉を閉めた。イヤホンを繋ぎ、スイッチを入れる。マリヲカートの二次予選に出場するためだ。


 全十二戦のレースに参加し、すべてを一位通過する。これが決勝レースに出る条件。


 ぐりぐりと十字キーを操作し、並みいるライバルたちと競う。


「アイツはいつまでここにいるつもりなんだよ」


 コーナーを曲がってホームストレート。俺のビビンパが加速して、一戦目を一位で通過した。


「ゲームの望月ほたるとまるで違うし、勝手ばっかり言いやがって」


 レースに参加しているライバルたちは知らないアカウントばかりだった。というか、そもそも俺の思考はゲームに集中していない。


「部屋は散らかすし、グータラしてるし、パンツ見えたまま寝てるし、結局エロゲ展開はないし」


 エロゲ展開どころかチューすらない。それどころか雰囲気は最悪で、口もまともにきいていない。同棲どころか寄生どころか、俺の家なのに俺が邪魔者みたいな扱いじゃないか。


 ひたすらレースを繰り返し、気付くと十二戦目。ここまで一度も二位以下になることはなく、最後のレースも最終ラップを一位で走り抜ける。


「あいつは、何しに出て来たんだよ。ゲームの望月ほたるは、俺が本気で好きになった初めてのヒロインだったはずなのに」


 チェッカーフラッグが振られ、ゲームの画面には「決勝レース出場決定!」と表示された。


 ここは喜ぶところなんだろうな。なんか感情が欠落して、まったく心が動いていない自分がいるけど。


 決勝レースのログインパスワードを記録して、ポータブル機の電源を切る。プッと画面が暗くなり、俺の中の何かも一緒に切れた気がした。


「あいつは、俺が好きだった望月ほたるじゃないんだ」

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