第4話 妖艶な外交大臣(淫乱女)
パッパラは笑顔で王の広間から退室して行った「大船に乗った気分でいて下さい」と言い残して。
······いや。大船どころか、大穴の空いた泥船に強制的に乗せられた気分でしかないわ。
それもこれも。この細目宰相のせいよ!
弾劾しなくては!私は女王として。人事権を玩具にするこの鬼畜宰相の非を正さなくては!
「女王陛下。続いて外交大臣を紹介致します
」
メフィスは私の気勢を削ぐように乾いた声を発した。広間の扉が開かれ、女性が一人こちらにゆっくりと歩いて来る。
······それは妖艶な女性だった。腰まで届く艷やかや漆黒の髪。濃い紅がひかれた形のいい唇。高い鼻に、見つめると吸い込まれそうな大きな瞳。
この王の広間に、異様なフェロモンが充満して来たように私は感じた。
き、綺麗な人。だが、私はその女性の首から下を見て吹き出した。大きく胸の開いた赤いドレスの上に、毛皮のカーディガンを羽織っていた。
な、何なのよこの格好!?お水よ!お水のお姉ちゃんが神聖なる王の広間に紛れ込んでいるわよ!!おい!説明しろメフィス!!
「お初にお目にかかります。女王陛下。わたくし外交大臣を拝命致しましたロイランと申します」
ロイランと名乗ったお色気満載の女性は膝まづいた。その際、豊かな胸が勢いよく揺れる。
それはもう、開いた胸元からこぼれ落ちるかと思う程だった。で、でかい!じゃ、じゃなくて!!
どう言う経緯でこのお色気お姉さんが外交大臣になったのよ!外交よ!分かってんの?
小国であるこの国の一番重要な役職なのよ!
「はい。女性陛下。超高級酒場でいい女を見つけましたので私の愛人に。いえ。では無く。在野で交渉術に長けた者を見出し登用致しました」
嘘つけこの女たらしがあぁっ!!ナンパしたな!?お前酒場で働くお姉ちゃんをナンパして連れて来ただろう!?「私に付いてくれば高い地位をやるぞ」的な言葉で誘っただろうお前!!
「女王陛下。私の名誉の為に言っておきますが、私はこのロイランに指一本触れておりません」
メイフィが私の怒りを察したのか、先手を打ってきた。ふん。信じられるもんですか!
アンタみたいな性病持ちの言葉が!!
「女王陛下。メイフィ宰相のお言葉は本当ですわ。わたくし達は公私をわきまえております」
ロイランが穏やかに。かつ色っぽい声で微笑む。ほ、本当かしら?本当にこの鬼畜男が、ロイランみたいな美人を前にして欲望を抑えられるのかしら?
その時。私は見逃さなかった。否。そんな大袈裟な表現は不要だった。メフィスはロイラン外交大臣の胸元をガン見していた。
「······ロイラン。そのような男を挑発するような格好をされると、鉄壁を誇る私の理性も流石に揺らぐぞ。挨拶はもういいだろう。直ぐにでも私の私室に来い」
おい鬼畜野郎!!今仕事中だろう!!公なこの場で何を自分の欲望をだだ漏れさせてんのよ!!
「メフィス宰相。性病を伝染されては困ります。病気が治ったらまたお誘いして下さいませ」
メフィスの公私混同発言を、ロイランが片目を閉じ笑顔で巧みに受け流した。は!そうだ。前任の外交大臣はどうしたの!?
お水のお姉ちゃんに地位を奪われ、ショックで酒浸りの日々とか?
「はい女王陛下。前任のカラッカ外交大臣は腰を痛め現在入院加療中です」
ロイランが私の疑問に答える。こ、腰?何か重い物でも持ったのかしら?
「カラッカ前外交大臣が落ち込んでいらしたので、わたくし側に寄り添い慰めて差し上げました」
······な、慰めた?ちょ、ちょっと待って。今私の頭の中、ロイランの雰囲気からして卑猥な想像しか出来ないんですけど?
「結局。昼間っからおっ始まったんですけど
。三回目で大臣が腰を痛められて······」
ロイランは両手を頬に当て、恥ずかしそうに身体をくねらせる。お。おっ始まった?
昼間から?三回目?
「五十男にはそれが限界だったのだろう。ロイラン。私なら五回は行けるぞ。嘘では無い
。今からそれを証明してやろう」
おいそこの破廉恥絶倫宰相!!さっきロイランに断られただろうお前!ってゆーか?今は仕事中だろこの阿呆!!
「女王陛下。非才なこの身に余る地位を頂いたからには、わたくし全身全霊を持って職務に望む所存です」
ロイランは真面目な表情でそう言った。だが、私の頭の中にはロイランの台詞「全身全霊」の「全身」しか頭に残らなかった。
こ、このひと。身体を使って一体何の外交政策をやって行くつもりなの?私は最早卑猥な想像しか出来なかった。
ロイランが腰を振りながら退室して行くと
、私は虚脱感に襲われた。つ、疲れたわ。国葬と即位式の疲れなんて非じゃない位に。
この悪魔のような宰相を咎める気力も失せ
、私はただ疲れ切った。精神的に。
「女王陛下。最後に近衛兵長を紹介しておきましょう」
うなだれる私に、お構いなくメフィスが呟く。今日三度扉が開かれた。私の目の前に現れたのは、子供の頃からの幼馴染だった。
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