第5話 童顔近衛兵長(赤裸々過ぎる言動)

 王女である私は、幼少の頃平民の子供達に混ざって学校の授業を受けていた。これは、王族である者が平民の実態を知る勉強の一環だ。


 でも、王族の為のその勉強が、私にとっては堪らなく楽しかった。小さい子供達にとって王の娘なんて関係ない。


 隣の席の男の子は、平気で私の髪を引っ張りからかってくる。私は同級生達と一緒に学び。笑い。時には取っ組み合いの喧嘩をして過ごした。


 そんな中で、特に仲良くなった男の子がいた。彼は純粋で真っ直ぐな子だった。裏表の無い性格のせいか、時々こちらが聞いてて困るような事まで嬉々として話してくれた。


 私がカリフェースに留学する時も、涙ながらに別れを惜しんでくれた。そう。彼はこのタルニト国で心を許せる数少ない友人だった


「······ナ。ナニエル?」


 砂色の髪。優しげな瞳。どう見ても十代半ばに見える童顔。私の目の前に立ったのは、共に机を並べ子供時代を過ごした友達だった


「······お久し振りです。アーテリア······いえ。女王陛下。この度女王陛下の近衛兵長を拝命致しました。ナニエルです」


 私が留学していた二年の歳月は、ナニエルの柔和な雰囲気を少しも損なわなかった。でも、身長は二年前より高くなっている。


 私に膝まづくナニエルはどこかソワソワしていた。私は今直ぐにでもナニエルと手を取り合い再開を喜び合いたかったが、今は公な場だ。


 幾ら同い年の幼馴染とは言え、ナニエルは平民の出の近衛兵。私は王族で今は女王だ。

友達としての再開は、周囲の目が無い所でしよう。


 と、所でナニエル。私が二年前にカリフェースへ留学する時、貴方確か実家の薬屋を継ぐって言って無かったっけ?


 どうして近衛兵になったの?ナニエルは運動音痴で、とても戦いなんて出来る子じゃ無かった筈よ?


「女王陛下。それでは先ず私とナニエルの接点からお話い致しましょう」


 私の心に一抹の不安が過った。純粋なナニエルが、この鬼畜宰相とどうして関わり合ってしまったのか。


「ナニエルは薬屋を営んでいます。そして彼は腕の良い薬師でもあります。私は持病に効く薬を彼に調合して貰っていました」


 コ、コイツの性病がナニエルとの接点か。でも、どうしてそれがナニエルが近衛兵になるキッカケになった訳?


「ナニエルは私の薬の原材料を探す為に、山に入り遭難しました。私は捜索隊を派遣し彼をなんとか探し当てました」


 そ、遭難!?ナニエルが?こ、この細目宰相のせいで災難だったわね。でも、無事で良かったわ。


「ナニエルは大穴に落下し、足を負傷して動けない状況でした。捜索隊の報告では発見された時、彼は手淫の最中でした」


 穴の中で動けなかっただなんて!捜索隊に発見されて本当に良かったわ!······ん?発見された後、何をしていたって?


「はい。女王陛下。手淫です。彼は命の危機に瀕してい時、手淫をしていたのです。それも何度も」


 ······手淫?何度も?え?何?何言ってんのコイツ?私は口を開けたままナニエルを見ると、彼は「テヘッ」的な照れ笑いをしていた


 分かんない分かんない。全然意味分かんない。何?何を言ってるかさっぱりなんですけど?


 百歩譲ってそれが真実でも、ワザワザ私に報告する必要あるの?無いでしょう?いや絶対必要ないだろそれ。


「アーテリア!いや。女王陛下。僕は。いえ私は女性を知らないまま二十歳になりました


 私は本日、再び吹き出した。ナ、ナニエル?突然何の告白?今この場で、相応しくない発言ナンバーワンよ。それ。


 私の脳裏に子供の頃の記憶が甦って来た。ナニエルは幼少の頃から素直過ぎた性格だった。そう。素直過ぎて思った事を何でも話してしまうのだ。


『アーテリア!今朝起きた時びっくりしたんだ!○ちんち○が硬くなっていたんだ!』


『アーテリア!大変だよ!○ちんち○に毛が生えて来たんだ!』


『アーテリア!僕変になったのかな?公衆浴場で女の人の裸を見た時、○ちんち○が大きくなったんだ!』


 ······ナニエルの耳を塞ぎたくなる様な過去の発言が幾つも鮮明に思い起こされる「そう言う話は男子同士でやってくれない?」的な話をいつも私にして来たナニエル。


 って言うーか。○ちんち○の話ばっかりじゃない?って。そう言う事じゃなくて!空気読んでよナニエル!今は女王と臣下の謁見の場なのよ!?


「アーテリア!僕もう我慢出来ないんだ!毎日手淫しても。僕の中の淀みは解消されない

!もう限界なんだ!」


 ······な。何の告白?何の報告?そんな事言われも私にどうしろって言うの?はっ!そうだ。おいそこの破廉恥宰相!


 アンタそう言うの超得意分野でしょう!ナニエルになるべく良心的な娼館でも紹介しなさいよ!じゃないと収まらないわよこの若者は!


「駄目だよアーテリア!そう言うのは、好きな相手としないと駄目なんだ」


 純粋なナニエルが真っ当な発言をする。で

、でもねナニエル。限界なんでしょ?我慢出来ないんでしょ?


 好きな相手とって。ナニエルは今好きな人でもいるの?気付くと、ナニエルは切なそうな両目で私を見つめていた。


 ······え?ま、まさかナニエル?いえ。そんな事は無いわよね。だって。私達ずっと仲が良かった友達同士でしょう?


「······ずっと。ずっと前から。子供の頃からアーテリア。君が好きだった」


 ······え?えええええぇっ!?嘘っ!?本当に?そんな事、私微塵も気づかなかったんですけど!?


 私は物凄い勢いでメフィスを睨みつけた。奴は不敵な笑みを見せていた。


 ······故意だ。メフィスはナニエルの私への想いを知っててわざと私の側に。近衛兵長に据えたんだ。


 理由はただ一つ。半ば発情状態のナニエルを私の近くに置いたら面白いからだ。コイツの個人的趣向の為に、薬師のナニエルを近衛兵のトップに据えた。


 私の殺意が込もった視線をメフィスは平然と受け流し「余興としては悪くないだろう?

」的な笑みを浮かべていた。


 ······こいつはこのタルニト国の獅子身中の虫だ。排除しなくては。このクズ宰相をこの国の為に抹殺しなくては!


 ナニエルが何か叫んでいたが、私の耳には入らなかった。私は心の中で、たった一人の戦いの狼煙を上げていた。


 




 


 

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