第20話 俺とおまえと大五郎
明日から使える異世界で役立つ英会話
『俺とおまえと、大五郎〜♪』って。大変勇ましく漢らしい唄ですよね。……俺、おまえ、大五郎。みんな男性ですよね……。作画田亀源五郎先生の濃密なヴィジョンが瞼の裏に描かれてしまいそうな、そんな勇猛な世界観が漂って来ます。
話は変わりますが、『男同士、密室、七日間。何も起きないはずがなく……』ってのが私が知る限り最も不穏なキャッチコピーの一つですよ。ハイ、何も起きない『明日から使える異世界で役立つ英会話』の時間がやってまいりました。何か起こしましょうか? いやいや、何も起きない方がいいですってば。
突然ですが、ここでクエスチョンです。いわゆるLGBTの中で、最も強いものは何でしょうか?
最近ではQなんてジャンルまであるらしいですね。そこまでいっちゃうともはや闇鍋状態になってしまうので今回は除外しちゃいましょう。
LGBT問題はマイノリティだと考えるからややこしいことになります。有象無象に存在する多ジャンルを細分化してカテゴライズした場合、マジョリティだと思われてる『ノーマル』のフォルダへぶち込まれる画像ってのは極一部なんです。
ジャンルで括っちゃえばフォルダは無数にあります。眼鏡好き。99デニール以上は認めない。二次元じゃないとダメ。むしろ3DCGオンリー。中性こそ至高。ハムスター男子ラヴ。ウル◯ラマン的全身タイツ。袖引きちぎり系ノースリーブ。エトセトラ。これらはすべて個人的な好みの問題です。もうLGBTの分派だと言ってもいいでしょう。
そしてその混沌の渦の中へ『ノーマル』をぶち込んでみましょう。「普通って、いったい何ですか?」状態に陥ること請け合いです。そうです。ノーマルであることこそが最弱のマイノリティだったのです。
マイノリティであることは何も恥ずかしいことじゃありません。堂々と胸を張って「私はノーマルだ」と主張しちゃいましょう。でないと困ることになります。温泉なんか特に困ります。
社会的にもLGBT分派の意見を尊重して取り入れる流れになってきています。男子トイレ、女子トイレ以外にも自由トイレを設置したり、診断書に男性・女性・それ以外と三つのチェック欄があったり。マイノリティであるノーマル派としてはそれらも別に問題なく受け入れられますが、温泉だけは話が違います。
身も心も休まる温泉に、ノーマル派とLGBT分派が一緒になったら。一気に場は緊張して、やるかやられるかの殺伐とした戦場になってしまいます。ここは少数派のノーマルとして区別されることを甘んじて受け入れましょう。LGBTの湯とノーマルの湯に分けてしまうのです。
マジョリティであるLGBT分派が一堂に会すれば、何も起きないはずがなく……。人はそれを蠱毒と呼ぶのかもしれませんね。
ちなみにここで言うBLGTとはBLTバーガーなどと呼称されたりする食材の好みの話ですよ? 何だと思ったんですか。Bはベーコン、Lはレタス、Gはガーリック、Tはトマト。BLGTバーガー、ジューシーで美味しいですよね。この世知辛いネット界隈です。どこから流れ弾が飛んでくるかわかりません。保険はかけておくものです。
さて、話が長くなりましたが、結論を言えば最も強いのは田亀源五郎先生作画の大五郎でしょう。Gとの相性は抜群です。
今回の異世界英会話はせっかく見つけた仲間がノーマルではなかった場合限定です。
・男同士、密室、七日間。
Lesson 1
「What are you good at?」
「I am good at licking.」
「……What?」
「The boots , The ass , If necessary , I make light of you. Come on everybody!」
「Don’t get cocky.」
「君の得意なことは?」
「舐めること、ですかね」
「……えっ?」
「クツでも、ケツでも。なんならあんたもナメてやりますよ。さあ、おいで」
「ナメんな」
舐めプ。もう、いい響きですよね。原型をとどめないほど乱暴に略されたくせに言葉の意味が一発で理解できる優秀なワードです。
ファンタジー世界を舞台に、冒険の旅を繰り広げるのに仲間は欠かせない要素の一つです。その仲間が個性的であればあるほど物語に多様性をもたらすことができます。何より主人公である異世界転生勇者のキャラクター性はほぼ没個性的に固定化されてますから、絶好の比較対象物としてぶっ飛んだキャラ設定が必要になってきます。
何だったら、if necessary 、個性がかけらもない判で押したような転生者に成り代わってストーリーテリングを推し進めちゃうくらい取り扱い注意なキャラにしちゃっても構いません。
今回は舐めプキャラということで、『なめる』という英語表現を集めてみました。
舌を這わせる。唾液を絡ませる。糸を引くほどに。ねっとりと味わう。R-18ワードを華麗に回避するには「 lick(舐める) 」という単語を使用しますが、舐めプに関してはよりダイレクトな表現になります。make light of 〜 で軽く見ると訳して「軽視する」「甘く見る」と表現できます。じっくり舐めプしてかかりましょう。
それに対してはスラングで返してやりましょう。「ドンッゲックッキッ」とリズミカルなワンワードで「調子にのるなよ」「甘く見るんじゃねえ」「ナメんな」と強気の返答になります。
しかしながら、あくまでも主役は転生者であるあなたです。お得意の突発的難聴スキルを発動させて「What did you say?」と天然の舐めプってやつを見せつけてやるのもいいでしょう。
Lesson 2
There is no way nothing is going to happen ── .
何も起きないはずがなく……。
短くも恐ろしく、躙り寄るような不穏な雰囲気を醸し出してる一文ながら、実はかなりの名言ですよね。
男同士だから何も起きない、という無警戒とも呼べる信頼感が「ない」んです。何も起きない「はず」ってそもそもの前提からして崩壊の予兆を示していますし。
普通なら何も起きないんです。普通なら。あれ? 普通って、ノーマルって何でしたっけ? そうです。常識は根底から覆っているんです。LGBTQ界隈ではノーマルこそがマイノリティ。普通ってすでにレアケースなんですよ。
一つの文章に二つの否定単語を用いると二重否定となり、「〜しない人はいない」ってネイティブスピーカーや直訳映画英語みたいな表現になります。これは否定ではなくむしろ強い肯定的な意味合いに取られます。
nobody knows で「誰も知らない」、everybody doesn’t know だと「みんなが知ってるわけではない」、nobody doesn’t know で「知らない人などいない」。転じて「誰もが知っている」という表現になります。
俺とおまえと大五郎。男三人集まれば……。アブノーマルではない人間などいないんです。これって三重否定?
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