第19話 Fランク冒険者に愛の手を
明日から使える異世界で役立つ英会話
『自分に勝つ』
グッとくる台詞じゃないですか。『自分に勝て』だなんて、普通に生活してたらなかなか言える台詞じゃありません。でも自分に勝つってことは対戦相手の自分は負けてますよ。この負け犬めがっ。ハイ、負け犬な異世界英会話の時間がやってまいりました。なんとか自分に勝てるよう頑張ってまいりましょー。
って、何故に漂う負け犬感。パンデミック禍の緊急事態宣言で、ステイホーム期間中に何をしていたか。その過ごし方で上級国民か下級市民か、はたまた底辺の社畜階層かにカテゴライズされます。負け犬感の原因はそれでしょ、たぶん。
テレビでは一流芸能人の方々がやれ在宅時間中はずっと趣味の〇〇してましたとか、やれ新しく〇〇にチャレンジしましたとか宣っていました。はいはい、結構なこって。
中層を占める下級市民は一日中部屋に篭って、サイコロを振って出た目の数だけ米粒を空のペットボトルへ入れるテレワークに勤しんでいたものです。8時間後にペットボトルに入った粒数をノートにまとめて、どうせどこにも提出しないんだろって呟いてその米を炊くんです。自分で数えたお米はさぞや美味しいことでしょう。
最下層に属する者は社会経済が停滞しないよう単純労働という変わらぬ日常を過ごしてきました。たとえ絶賛緊急事態宣言中であろうと、上級国民様がステイホーム中に不自由しないように見えないところで額に汗して働くんです。社畜階層に属するとはそういうことです。
そんな日がな一日米粒を数えるのはもううんざりだとおっしゃる中層を占める人々に贈る言葉こそ『自分に勝て』ですね。工夫次第で米粒も数えやすくなるんです。
自分に勝つとっておきの方法をお教えしましょう。ずばり、負けちゃうんです。自分に敗北すれば、すなわち相対的に対戦相手の自分は勝利を掴むわけで、結局勝者は自分自身に他なりません。さあ、鏡の自分に向かって吠えてやりましょう。この負け犬めがっ。
さて、いわゆる異世界という名のファンタジーワールドにおいて、Fランク冒険者とかいうのが社畜階層に属する者どものことでしょうか。冒険者といえども彼ら彼女らも普通の人間です。食べ物がなくてお腹も減れば、疲れて眠くもなるでしょう。最強最高異世界勇者として、Fランク冒険者ごときのモブにどんな言葉をかけてあげるのがいいでしょうか。
・Fランク冒険者に愛の手を
Lesson 1
「Why did you decide to become an adventurer with that level of ability in the first place?」
「I didn't want to be an adventurer. I couldn't help it.」
「I won't say bad things. You should go back to the your home.」
「そもそもその程度の実力で何故冒険者になろうと思ったんだ?」
「なりたくて冒険者になったわけじゃない。仕方なかったんだ」
「悪いことは言わない。田舎に帰るんだ」
冒険者だなんてかっこいい職業に聞こえがちですけど、あいつら基本無職です。現代でいうYouTuberみたいなもんです。明日の保証も何もない、一発当てなきゃド底辺、コツコツ毎日続けても誰も見なけりゃ道に落ちてる石ころと同レベルです。冒険に危険は付き物。貴重な若い時間を無為に過ごすよりも、堅実に自分のスキルを磨いた方がいい、と諭すのが勇者としての優しさでしょう。
そもそもFランク冒険者なんてLv.1ノーマルマンとスペック的にはほぼ変わりありませんて。という感じで「そもそも・in the first place」と表現します。主に文末にぶち込むと効果的です。悪い意味での問題の原点に戻ってみようという意味合いで使います。そもそもFランクの時点で冒険の旅に出るのが間違ってるんです in the first place.
ちなみに負け犬は the underdog アンダードッグ と訳すのが英語感があって一瞬かっこいいと思えていいでしょう。
Lesson 2
「You said , you were from the bottom too , right?」
「That is neither here nor there.」
「You are the underdog!」
「あんたも最下層の出身だって言ってたでしょ?」
「それはそれ、これはこれだ」
「この負け犬めがっ!」
あなたは異世界勇者としてFランク冒険者にお説教かましていました。青春の眩しい時間はただでさえ短いんです。冒険者のようなヤクザな職業に就いていないでもっと自分を磨くんだ。そんな時にあなたの扱いにもすっかり慣れたメインヒロインが冷たく言い放ってくれます。その言葉による鞭打ちもそろそろ心地よく感じられる頃合いです。
『That is neither here nor there.』とは直訳すれば『ここでもないし、あそこでもない』となります。あなたの話の着地点はここじゃないし、あそこでもない。つまりその話は今関係ねーよ、と意訳できます。この一文でワンフレーズの言い回しに使えますので覚えておくと便利でしょう。
「前の勇者は料理スキルLv.99だったが、あんたは何か美味いの作れないのか?」
「That is neither here nor there.」
「他の冒険者は無限にお金が湧き出てくる財布を持っていたが、あんたはケチなのか?」
「That is neither here nor there.」
「それはそれ、これはこれ」はイヤな流れになった会話をばっさりと一方的に打ち切るパワーフレーズです。積極的に、何だったら好戦的に使い回しましょう。
「上級国民はステイホーム期間も充実した時間を過ごしたそうだが、あんたは米を何つb──」
「それはそれ、これはこれだ」
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