第12話 貴族階級の家に生まれたら


 明日から使える異世界で役立つ英会話




 お誕生日おめでとうございます! え? 今日は誕生日じゃない? いいんですよ、そんなの。


 What memorial day is it today?


「今日は何の記念日?」


 そんなくそめんどくさいこと言ってくる奴には「Happy birthday!」って言っときゃだいたいうまくいきますって。


 偶然にも誕生日で正解だった時は「ありがとう! 覚えててくれたんだ!」っててめえで聞いてきたくせに覚えててくれたんだって何言ってんだ状態に発展します。そうなったらしばらくは無双モードが続きますので、無双状態のうちに秘密にしていたバレたらやばいことを告白していきましょう。そこらに置いてあった賞味期限ギリギリのチョコレートでもプレゼントして「サプライズ用意しようと思ってたけど、君から記念日を聞いてくるなんて、間に合わなくてごめん」って照れ臭そうに頭を下げてやれば無双レベルはより高みに達するはずです。ちなみに無双状態って相手の状態ですよ。


 「何の記念日?」って聞かれた場合、それはもう99%の確率でトラップです。聞かれた時点でもう「詰み」なんです。ゆめゆめご油断召されるな、って奴ですよ。


 二人が出会ってから◯◯日目記念日にしろ、サラダが美味しかったからってそれってむしろドレッシング記念日にしろ、特別な日ってのはいいものです。それが誕生日ならなおのこと素晴らしい一日になるべき日なのです。四捨五入して四十を越える辺りから忌まわしい日になっちゃいますが。


 そんなわけで、異世界転生者にも誕生日はあります。本当の意味でのリンカーネーションデイです。三十路の峠を越えたおじさまが姿そのままで知識と経験を持ち越して異世界転生してチート無双するのも趣がありますが、強くてニューゲームの転生ケースもまたやりがいのあるプレイになるでしょう。今まさにあなたは産み落とされました。さあ、偉大なる異世界転生者の片鱗をみせつけてやりましょう。




・Mewl! オギャアッ(よしっ! 異世界転生完了っ!)




 Lesson 1




 I am not Hentai. I just want your breast milk. May I touch your body?


「怪しい者ではありません。ただ母乳が欲しいだけなのです。……触れても、いいですか?」




 生命の誕生。それはとても素晴らしい出来事です。シーモンキーのように狭い水槽の中で卵から孵って速攻で熱帯魚の餌にされる命も、現世で惰眠を貪ってニートライフを満喫しながらトラックに轢かれて転生した命も、どちらも同じ重さの素晴らしい生命なのです。ほんと、神さまって不公平ですね。せっかくいただいたリブートのチャンス、無駄にしてはいけませんよ。母親の身体から捻り出された直後に喋り出すのがベターです。立ち上がってポーズを決められればベストですが、そこまでは難しいでしょう。


 一般的なファンタジー異世界では中世ヨーロッパがベースとなっていますので、母親と言えどもきっとまだ年端も行かない若い女性である可能性が高いです。初婚で初産ともなるとなおさらです。あなたは転生者、前世ではアラフォーのくたびれた中間管理職であったかもしれないし、ただの30過ぎの引きこもりかもしれません。若い女性には紳士的に母乳を要求すべきですよ。紳士的に。ここがポイントです。


 Hentai はすでに世界共通語です。ライトなエロスから相当ディープでコアなリビドーまでカバーできる万能単語として積極的に自己紹介に取り込みましょう。




 Lesson 2




 Mum , How many times can you attack until end of turn?


「お母さん、あなたは1ターンに何回攻撃できますか?」




 あなたは生まれ変わりました。しかも前世での記憶や知識、経験を引き継いだ申し分ない強くてニューゲームです。これでやりたい放題です。若く美しい母親は産まれた直後に流暢な英語を紳士的に喋り出したあなたに戸惑うことなく、愛情をたっぷり注いで大切に育ててくれます。


 産まれた家はそこそこ裕福な階級のようで、なぜかうら若き乳母はもちろんのこと眼鏡が似合う若く黒い執事やメイド服がとってもウブな使用人などもう選り取り見取りです。何が? とりあえず正体がバレないように紳士的なプレイを心がけましょう。


 暖かい我が家には当然父親の書斎なんかもあり、蔵書もたくさんあるようです。きっと教養の高い父親から高度な教育を受けられることでしょう。しかし、いくら前世の記憶と経験があるとしても、産まれてきた子供の将来は親の能力値に大きく左右されがちです。念のために確認しておきましょう。


 Mum , Can you attack all of them in one action?


「お母さん、全体攻撃できますか?」

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